Jérôme de Lavergnolle Interview

手仕事が担う“伝統”と
メゾンを前進させる“革新”

July 2018

ヨーロッパ大陸最古の歴史を持つ、世界最高峰のクリスタル工房、サンルイ。

芸術作品とも呼べる美しい品々は、どのように生み出され、その技術はどのように継承されるのか。

サンルイCEOであるジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏に伺った。

 

 

Jérôme de Lavergnolle

ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール

監査法人勤務後、1994年にエルメス・グループに入社。エルメス・グループ各社での財務、監査などの経験を経て、2004年、エルメス・セリエ社のジェネラルマネージャーに就任。2006年よりエルメス・サービス・グループのジェネラルマネージャーとなり、2010年にサンルイのCEOに就任。

 

 

 

 大胆なカット、華麗な金彩、そして繊細な色使い。1586年創業というヨーロッパ大陸最古の歴史を持つクリスタル工房、サンルイの製品に見られる伝統技術は、長い歴史から脈々と受け継がれてきたものだ。そして今もなお、すべてはフランス・ロレーヌ地方にある工房にて生み出されている。

 

「工房での全工程が職人の手仕事によるものです。コストや効率化が重視され、あらゆる製品が工業的に生産される現代ですが、素晴らしい職人の目や手にかなう機械はありません。ですから、私たちメゾンにとっての財産は“人”にあるといえます」

 

 と語るのは、世界最高峰のクリスタル製品で知られるサンルイのCEO、ジェローム・ドゥ・ラヴェルニョール氏だ。職人というと経験を何十年と積み重ねた熟練者を思い浮かべがちだが、社全体の平均年齢は37歳と比較的若い。そこには伝統技術を継承していくという使命から来る理由がある。

 

「技は決して本からだけでは学べません。観察して初めて習得できるもの。だから現場での育成が重要なのです。私はトップとして職人たちの年齢のピラミッドを常に意識しています。熟練の職人の下に、若手の職人をつけて学ばせる。このピラミッドが崩れてしまうと、技術の継承がうまくいかなくなってしまうからです。ですから老若男女のバランスのとれたチーム編成を行なっています」

 

 

折り目正しい人柄だが、時折冗談を交えるユーモアを持ち合わせるドゥ・ラヴェルニョール氏。サンルイがエルメス・グループの一員として共有している価値観を尋ねると、「品質に妥協しないこと。職人魂によって支えられていること。そして、“伝統”と“革新”の融合。その3つの柱です」。

 

 

 

 工房は大きく分けてふたつのセクションに分かれている。ひとつはクリスタルの塊をあたため吹くことで形を与えるホットワーク、もうひとつは冷めたその形に装飾やカットを施して仕上げるコールドワークだ。前者は力仕事を含んでいることもあり男性が占めるが、後者は女性も多く在籍し活躍している。何より同社の技の高さを裏付けるのは、フランス国家最優秀職人賞(Meilleurs Ouvriers de France, 以下MOF)の称号を持つ職人を多数抱えていることだ。

 

「フランス文化を継承した優れた職人個人に対して、大統領から直接授与されるのがMOFです。仕事上での経験に加え、仕事とは別でおよそ600時間以上をかけて作品を制作し、非常に厳しい条件をクリアしたもののみが手にすることができる、栄誉ある称号です。弊社では8名のMOF受賞者が在籍しています。また9名が来年取得するべく準備中です」

 

 また、若く優秀な人材の採用にも力を入れている。

 

「フランスにはクリスタルの職人を育成する学校がふたつあるのですが、そこから優秀な学生のみを採用しています。入社後は社内で育成を行いますが、一人前に働けるようになるまで少なくとも10年はかかります。何かひとつ作れるようになればいいというのではなく、すべて作れるようにならなければなりませんので」

 

 

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