IZU RETREAT by Onko Chishin, “Nostalgic Luxury”

大浴場を客室に改装した大胆なホテル「伊豆リトリート 熱川粋光 by 温故知新」

December 2025

街のあちこちで湯けむりが上がる、温泉とともに栄えた日本屈指の名湯・熱川温泉に、昭和の温泉街を思わせる懐かしさと現代的な快適性を備えたホテルがオープンした。

 

 

text chiharu honjo

 

 

 

 

 

 伊豆・熱川といえば、昭和30年代に伊豆急行線が開通したことで観光地として発展し、湯けむり漂う海辺の温泉街として多くの観光客が訪れた湯の里である。江戸城を築城した太田道灌が発見した湯で、「奇跡の湯」として知られており、肌のターンオーバーを促すメタケイ酸を多く含むのが特長だ。時代の移り変わりとともに、昭和期の面影を今に残す温泉地として再び注目されている熱川に、“ノスタルジック・ラグジュアリー”をコンセプトにした「伊豆リトリート 熱川粋光 by 温故知新」がリニューアルオープンした。全室オーシャンビューの源泉かけ流し露天風呂を備えた16室の客室があり、自家源泉を2本もつ豊富な湯量と海を望む景観を活かした、熱川ならではの魅力を存分に味わえる仕掛けが満載だ。

 

 

 

 

 東京からは踊り子号で約2時間。最寄りの伊豆熱川駅からホテルまでは徒歩10分と好アクセスの場所にある。駅への到着時間をあらかじめ伝えておくと、1990年代のクラシックカーである光岡の「ガリューI」が出迎えてくれる。かつての名車を再生した車両で、駅に着いた瞬間からノスタルジックな世界観に没入できるため、ぜひとも利用したい。

 

 

「元大浴場スイート」のリビング。洗い場だったスペースの面影をあえて残している。

 

 

「元大浴場スイート」の露天風呂。手前にはサウナ、奥には寝湯もある。

 

 

 

 同ホテルには、旅のスタイルに寄り添う6タイプの客室がある。特筆すべきは、かつての大浴場を大胆にリノベーションした約200㎡の「元大浴場スイート」。もともと内湯だった場所はリビングとして生まれ変わり、海を一望しながらくつろげる特等席となった。また、洗い場だった場所にはコージーな椅子が置いてあり、レコードを聴きながらのんびりと過ごすことができる。

 

 そして、脱衣所だった場所は寝室へ変貌という意外過ぎる間取りだ。注目は、当時の広さをそのままに設えた約20㎡の露天風呂。湯けむり越しに伊豆の海と空が広がり、圧倒的な開放感を体感できる。一角にはサウナもあり、大海原を望みながら大胆に“ととのう”ことも可能だ。

 

 伊豆は、月光が海面に描く月の道(ムーンロード)が見られる「日本百名月」に選出されている場所。その美しさをホテルでは、全室から遮るものなく一望できる。潮騒を聴きながら、露天風呂から月を見上げ、昔の人も同じように湯あみをしていたのだろうと思うとノスタルジーを感じる。

 

 

青い海を独占できる「コーナースイート」のリビング。

 

 

「コーナースイート」のテラスには、サウナと外気浴に最適なカウチが備わる。

 

 

 

 サウナ好きなら、最上階の角部屋に位置するコーナースイートルームがよいだろう。オーシャンビューの露天風呂に加え、プライベートサウナと水風呂のあるテラスを完備。源泉かけ流しの湯に浸かり、サウナで温まり、テラスで外気浴を楽しむといったように、温泉とサウナを自由に行き来しながらリトリートする体験が叶う。サウナ付きの客室にはオリジナルのサウナハットが人数分置いてあり、至れり尽くせりである。

 

 客室の冷蔵庫には、懐かしいラムネのボトルや牛乳びん、静岡県産のみかんジュースなど昭和レトロなドリンクが入っており、風呂上がりにちょうどよい。冷蔵庫のビールやソフトドリンクが無料で利用できることに加え、ルームサービスも無料だ。料理長による、静岡を味わえる料理やおつまみ、洋食もあるので、日中は出かけず客室で一日中のんびりと過ごしたい。

 

 

レストラン「汐と杯」の半個室。

 

 

十一月の献立は全11品の郷土料理を礎にした和食。

 

 

ペアリングの酒は、ソムリエが厳選したワインと地酒を和食に合わせている。

 

 

朝食も黒むつや伊勢海老、椎茸など伊豆の美味が豊富に揃う豪華な内容。灰皿をアップサイクルした照明が印象的だ。

 

 

 

 食事は、旧宴会場のスペースを改装したレストラン「汐と杯」にて。相模灘を一望するカウンター席と、ふすまで仕切られた半個室があり、シーンに合わせて利用できる。この日の夕食の献立は、富士鱒のタルタルから始まり、次郎柿とヒラメの博多押し、鰻白焼き寿司、金目鯛のくず粉揚げ、鯛薄造りとサザエの御造り、伊勢海老のソテー、静岡牛ヒレロースト、金目鯛げんなり彩寿司、といった伊豆の食材を活かした郷土料理のコース。なかでも伊勢海老のソテーは、濃厚なソースが海老に絡む格別の旨さ。牛ヒレも低温でしっとりと柔らかく仕上げており、大変美味である。

 

 ドリンクは、ボランジェやテルモンといったシャンパーニュメゾンから、地元の中伊豆ワイナリーのワイン、伊豆のクラフトビール、伊豆のリキュール、自家製の漬け込み酒、静岡の地酒など、地域の酒から海外のワインまで揃う。料理と合わせて8つのグラスで堪能できる粋ペアリング(¥12,100)も魅力的だ。

 

 

食後はロビーの一角にあるラウンジバー「汐待ち」がオープン。

 

 

ラウンジバーの脇に陳列された年代物のレコード。

 

 

スマートボールやレトロなボードゲームなどが置いてあるゲームラウンジ「浪間」。

 

 

「カラオケスイート」のカラオケルーム。伊豆急行の懐かしいポスターを貼り、あえてレトロな雰囲気に仕上げている。

 

 

 

 館内では、至る所に昭和を感じるポスターやオブジェが飾られており、昭和にタイムスリップしたかのような雰囲気に。ラウンジバーでは往年のアイドルや海外スターのレコードが陳列されており、リクエストをすると懐かしの名曲をかけてくれる。また、ゲームラウンジにはスマートボールが置いてあり、ジェンガや人生ゲームなどを貸してくれるサービスがある。

 

 さらに、プライベートサウナ、露天風呂とテラス、カラオケルームをひとつの客室に設えた「カラオケスイート」という客室もある。完全防音の本格的なカラオケルームがあり、最大5人まで仲間とともにいつでもカラオケが利用できる。かつての温泉街の様子を客室でそのまま体験できる空間になっており、往年の名曲を仲間と歌うのも一興だ。

 

 

 

 

 ここでの過ごし方は、到着後に街へ出ることもなく静かに温泉を楽しむのが正解。月夜を堪能して就寝した後、目覚めたらすぐさま朝風呂に入るといったように、源泉かけ流しの露天風呂はいつ浸かっても快適な状態だ。朝は真っ青な海が続く熱川の景色を眺めながら、爽快な時間を過ごすことができる。湧き出る温泉のエネルギーを享受しながら心と身体を開放し、温泉リトリートを存分に堪能したい。

 

 

伊豆リトリート 熱川粋光 by 温故知新

静岡県賀茂郡東伊豆町奈良本1271-2

TEL 0557-23-2345

https://suiko.by-onko-chishin.com/

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