Imperial Hotel Kyoto, The legacy of Yasaka Kaikan
祇園・弥栄会館のレガシーを継いだ「帝国ホテル 京都」が誕生
April 2026
世界の賓客を魅了し続けてきた帝国ホテルの歴史に、新たな1ページを刻むホテルが京都に誕生した。国の登録有形文化財である弥栄会館の建築様式を継承しつつ、帝国ホテルならではの寛ぎを融合させ、祇園の風情と日本の伝統美を今に伝えている。
text chiharu honjo
弥栄会館の記憶を纏う、建築の美学
かつて祇園の文化拠点であった祇園甲部歌舞練場の敷地内にあった「弥栄会館(やさかかいかん)」は、1936年に大林組の木村得三郎氏によって設計された劇場建築である。瓦屋根や千鳥破風を持つ、城郭の天守のような外観で知られており、和風の伝統的な意匠を巧みに織り込んだ圧巻の景観が当時の栄華を物語っている。時代の変遷に合わせて、演劇や人形浄瑠璃、その後は映画館やダンスホール、コンサートなどに利用され、地域のランドマークとして長く親しまれてきた。
重厚感あるホテルの「エントランス」。車寄せの天井には麻の葉のデザイン、風防室の天井には当時のオリジナルのガラスを使用し、柱には当時使用されていたイタリア北部の貴重な赤色大理石を配している。
坪庭へ向かうように水平方向の伸びを意識した空間構成の「宿泊者ラウンジ」。家具はすべて国産の欅を使用。当時流行していたアールデコ様式の多角形の家具が目を惹く。
新たなホテルは、弥栄会館を保存・活用することを掲げスタート。南西面の外壁などを保存するために外壁のタイル・テラコッタを再利用し、銅板瓦葺屋根を復元。約90年前の姿を今に蘇らせた。設計の妙は、過去と現代の鮮やかな対比にある。本棟に一歩足を踏み入れると、丁寧に保存された往年の柱や窓枠、意匠を凝らしたディテールが、昭和初期の建築が持つ重厚な空気感を醸している。一方で、新たに増築された北棟には、帝国ホテル史上初となる畳を設えた客室が登場。国産の木材を使用したぬくもり溢れる和モダンな空間で、祇園の街並みを眺めながら静謐な時間を過ごすことが叶う。
ホテル初の畳の部屋「北棟グランドプレミア」。
本棟保存エリアの弥栄スイート(103㎡+バルコニー13㎡)のリビングルーム。
インペリアルスイート(128㎡+テラス65㎡)から望む景色。photo Masatomo Moriyama
悠久の静寂を独占する、祇園の特等席
全55室というスモールラグジュアリーな構成の中でも、特筆すべきは6階に位置する1泊300万円(料金変動制)の「インペリアルスイート」。128㎡の室内空間に加え、専用テラスとプライベートなガゼボを備えており、祇園の町並みを独占するのはもちろんのこと、平安神宮、比叡山までも見渡せる特等席といえる。テラスの椅子に身を沈めながら、茜色に染まりゆく東山の稜線を眺める──。そんな贅沢が許される唯一無二の空間で古都の息吹と静寂を体感したい。
また、本棟保存エリアの弥栄スイートには歌舞練場が一望できるバルコニーがあり、祇園の息遣いを肌で感じることができる。毎年4月に開催される「都をどり」の期間中は多くの芸妓舞妓が行き交い、春の訪れを感じる眺めとなるだろう。
日本の食材でフランス料理を振る舞う「練」。カウンターでシェフと対峙しながら味わえる。photo Masatomo Moriyama
季節のコース「啓蟄―春分」¥38,000~。写真は冷前菜の「毛蟹」。
祇園の町並みを一望できる「オールドインペリアルバー」。photo Masatomo Moriyama
抹茶や水尾の柚子といった京都の素材を使ったシグネチャーカクテル「マウント比叡」¥3,500。
美食家を満足させる、四つの舞台
ダイニングとバーも秀逸だ。メインダイニング「練」は、その名の通り、鍛え上げられた技が光る一期一会の舞台。帝国ホテルが130年以上受け継いできたフランス料理の正統を礎に、京都の風土と真摯に向き合うことで、二十四節気の繊細な移ろいを一皿へと昇華させる。料理人とゲストが対峙するカウンター席は、熟練の所作、料理が放つ温度と香り、そして素材が焼き上がる音までもが間近に迫る、五感すべてを刺激する劇場。伝統と革新が交差するフレンチの真髄を、心ゆくまで堪能できる。
また、オールデイダイニング「弥栄」では、伝統の洋食に薪窯グリルを掛け合わせた、ここだけの味わいに出合える。薪窯で力強く仕上げるグリル料理やハンバーガーはもちろん、パンケーキやカレーといった帝国ホテル伝統の人気メニューも健在だ。
そして、同ホテルを象徴するメインバーも京都へ。フランク・ロイド・ライト設計のライト館の趣を色濃く残すクラシカルな空間は、一日の終わりに相応しい伝統と格式に満ちている。100年以上愛されるオリジナルカクテル「マウント フジ」や、京都のシグネチャーカクテル「マウント比叡」といった上質な一杯を片手に寛げる。屋上テラスには宿泊ゲスト限定で11月下旬頃までルーフトップバーもオープンしているから、夜景を愛でながら、古都の夜に酔いしれるのも一興だ。
弥栄会館時代の外壁に使用された北木石を使用した洞窟のようなプール。他に、フィットネス、温浴、スパトリートメントがあり、祇園にいながら心安らぐひと時を過ごせる。
宿泊者ラウンジのレセプションには、美しい松竹図襖絵が。
館内を彩るアートワークと工芸
このホテルの真価は、目に見える豪華さだけでなく、空間の隅々に宿る美意識にある。館内には、京都の伝統工芸や歴史へのオマージュを込めた数々のアートワークが随所に点在しており、弥栄会館が刻んできた時を現代のアーティストが独自の解釈で再構築した作品が、ゲストの知的好奇心を静かに刺激する。
壁面に施された繊細なレリーフ、光の陰影を計算し尽くした照明、そしてふとした瞬間に目に留まる一流作家の名品。それらはすべて、帝国ホテルが歩んできた歴史と、祇園という町が育んできた文化が響き合うことで生まれた静かなる主張だ。祇園という特別な場所で、歴史の重みを感じながら、現代の快適さに身を委ねる──それはまさに、帝国ホテルが京都という地で綴り始める、新たなる正統の幕開けである。
帝国ホテル 京都
京都市東山区祇園町南側570-289
TEL.075-531-0111























