HOW TO WEAR BROWN
「ブラウン」をワードローブに
February 2022
ブラウンは地味な色だが、過小評価されているように思う。サルトリアルの装いの強力な武器であり、ワードローブに加えないのは愚かなことである。
by NICK SCOTT
ブラウンという色は、クールなキャメル、ゴージャスなグレイ、美しいブラックに比べると、地味な色かもしれない。ガーディアン紙はかつて、ブラウンを「色のボルボ」と呼んでいたほどだ。
色のヒエラルキーにおける劣位は、人類の黎明期にまで遡る。炎や空の色は、土の色よりも人間の感情を揺さぶるものだった。生物としてのわれわれは、生命の源である土の色ではなく、植物の色に敏感だったのかもしれない。この複雑に混じり合った色が、中世の時代に貧困を象徴していたのも不思議ではない。
とはいえ、四大元素の中で最もセクシーさに欠ける「土」を連想させるブラウンは、人類の歴史において本当に人気がなかったのだろうか? 栗色、赤褐色、ブロンズ、ヘーゼルは、今やメンズファッションにとって欠かせない色ではないか。
英国のブランド、キット・ブレイクの共同設立者クリス・モドゥー氏はこう言う。
「ブラウンは、アクセサリーとしてもメインピースとしても使える、非常に汎用性の高い色です。ジャケットならば、グレイ、クリーム、ネイビーなどのトラウザーズや、エクリュ、ブルー、ピンクなどのシャツとエレガントにマッチします。生地を選ばず、季節や気候に関係なく着用できる色です」
ブラウンは、成熟したサルトリアルの象徴ともいえる色だ。モドゥー氏によれば、特に夜の装いに最適だという。
「イブニングカラーとしても便利です。黒よりもマイルドで、伝統的なワインレッドやブルーの代わりにベルベットのスモーキング・ジャケットが選ばれてきました。もっとも有名なのは、ノエル・カワードの着こなしです。少なくともテーラリング業界では、ブラウンのディナージャケットは多くの人々に愛されていました」
モドゥー氏は、ミッドナイト・ブルーのフォーマルウエアが主流の時代に、ブルーのイブニングが「ちょっと変わっている」と評価された一方で、ブラウンのディナースーツは「さらにその上を行く」ものだったと語る。
「ワードローブに数多くの選択肢を持っているような、上級者の雰囲気を醸し出します。周囲の目を引くのです」
つまりブラウンは、着ている男性がクラシックなエレガンスに慣れていることをポジティブに示すのだ。
「ウェストエンドでブラウンのスーツを着ている人を見ると、スーツを着なければならない人ではなく、スーツを着たい人なのだと思います」
ブラウンはその季節的な意味合いとは正反対に、男性のワードローブに花を咲かせる力を持っているといえる。マホガニー色のトラウザーズ、温かみのあるアウターウェア、素朴でオーガニックな色合いのカジュアルシャツなど、ブラウンの色としての魅力は今、再び上昇している。
靴についても考えてみよう。2022年の今日においても、ロンドンの“シティ”(金融街)では「ブラウンの靴を履いてはいけない」というルールは残っているのだろうか?
「独特の表現で少し誤解を招きやすいですが、尊大でもあり、真実です」とモドゥー氏はいう。彼はかつて金融業界で働いていた。
「シティではネイビーやグレイのスーツに黒のカーフシューズを合わせることが求められます。よりフォーマルに見えるからです。失われつつあるルールですが、心に留めておくべきことです」
幸いなことにサルトリアル愛好者には、ルールを知った上であえてルールを破ることが許されている。ウィンザー公爵はブルーのスーツにブラウンのスエードシューズを合わせて顰蹙を買ったが、ある友人はこう言ったという。
「ルールを逸脱しているかもしれない。でも公爵はファッションを熟知している。だから許されるんだよ」
今ではブラウンは、紳士のワードローブに広く浸透している。ブラウンを着るということは、ひとつ上の段階にステップアップするということ。ボルボを所有している人はワンランク上の趣味を持っていると思われるように、ブラウンを着るということは周囲の尊敬を集めるということなのだ。