HOTEL NIKKO ALIVILA

ホテル日航アリビラ ヨミタンリゾート沖縄

March 2022

まるで欧州の一流リゾートのように、年を重ねるごとに評価が上がる名ホテル。

 

 

text kentaro matsuo

 

 

 

 

 沖縄本島中西部に位置する読谷(よみたん)村は、ふたつのことで全国的に有名だ。

 

 ひとつめは、“やちむん”(焼き物)である。戦前の柳宗悦やバーナード・リーチらによる民藝運動に端を発し、人間国宝・金城次郎が1972年に那覇から窯を移して以来、読谷は陶芸の里として栄え、今では50余の窯元が集まっている。魚や花をモチーフにした素朴でおおらかな絵付けを特徴とし、あくまでも日常使いできる、生活のための器が生み出されている。

 

 ふたつめは、美しい海である。読谷西岸の海は、沖縄のなかでも屈指の透明度を誇り、県内外から海水浴客やダイバーが集まってくる。冬から春先にかけては、クジラの姿もよく見かけるという。なかでも白眉はニライビーチである。美しいカーブを描く遠浅の海で、沖縄のビーチとしては珍しく掘削をしておらず、波で抉られた奇岩など、自然の姿がそのまま残っている。干潮時にはさまざまな海の生物に触れることもできる。西向きのビーチの真ん中に落ちる夕日は、まさに絶景である。

 

 

 

 

 そのニライビーチに面して建つのが、「ホテル日航アリビラ ヨミタンリゾート沖縄」だ。1994年の開業以来、四半世紀以上にわたって、沖縄のリゾートシーンをリードしてきた名ホテルである。オープン当時は、設計とインテリアのすべてを米国の会社が担当したことで話題となった。

 

 そのコンセプトは今聞いても新鮮だ。エコフレンドリーを掲げ、開発中は周囲の自然にダメージを与えないよう、細心の注意が払われたのだ。海岸線にある岩などはそのまま残し、造成中は赤土の流出がないよう工夫された。開業後は汚水処理プラントにより、ホテルからの汚水は一切排出していないという。ホテルにおけるサステナビリティは、現代でこそトレンドだが、これを30年近くも前から徹底していたことで、このホテルがいかに未来を先取りした存在だったかがわかるだろう。

 

 

 

 

 エクステリアは、白壁に赤瓦屋根が葺かれた南欧風のクラシカルなもの。沖縄の青い空と海によく調和している。インテリアは、優美なアーチを用いた大きな窓や回廊、アイアンを多用した意匠など、スパニッシュ・コロニアル様式が採用されている。全397室と大型であるにもかかわらず、それをゲストに意識させないよう、客室を4つのウィングに分散させ、できるだけ高層化を回避しているという。この手法も、当時としては画期的だった。

 

「ロビーフロアの天井もあえて低めにしてあるのです。ホテルというよりは、邸宅へ招かれたような、落ち着いた雰囲気を大切にしています」とは、マーケティング課支配人、平良剛氏の弁。

 

 なるほど確かにロビーにいると、どこかヨーロッパの宮殿へ迷い込んだような錯覚を覚える。

 

 

 

 

 ホテル棟に囲まれた中庭には、欧州調のガーデンやアイストップとなる彫刻が配され、円弧状に対を成す階段を降りたところには、広大なプールが横たわっている。そのすぐ先は、もう海である。ガーデンとプール、ビーチがシームレスに繋がっており、たとえプールサイドにいても、豊かな大自然に囲まれている感がある。

 

 

 

 

 プールには水深を浅くおさえたキッズ用もあるので、小さい子供連れでも安心だ。ビーチへはそのまま歩いて出ていくことができ、砂浜に建てられたマリンハウスでパラソルやチェアをレンタルできる。ニライビーチでのシュノーケリングや、浅瀬の海の観察などのプログラムも用意されている。

 

 

 

 

 雨天や冬季でも心配することはない。屋内には「リラクゼーションプール」が完備されている。これは泳ぐためのプールというよりは、水着を着用して温浴を楽しむような施設だ。三種の水圧マッサージ(高圧で押し出される水流で体をマッサージする装置、肩や背中を揉みほぐす打たせ湯など)、そして低温サウナが旅の疲れを癒やしてくれる。

 

 

 

 

 隣接したルーム内には、「ICAROS」と名付けられた最新のVRエクササイズマシンが設置されている。体をジャイロに固定し、ゴーグルを装着すれば、まるで空を飛んでいるような体験ができるという。

 

 エステティックサロンも併せて設けられている。オールハンドによるトリートメントで、フェイシャルからフット、ボディまでの施術を受けることができる。男性客の利用も多いらしい。

 

 

 

 

 ホテル内のショップも充実している。3つのストアには、軽飲食から土産物、ファッションまで幅広くラインナップされている。なかでも前述のやちむんの品揃えは他に類を見ないほどで、窯元まで足を運ばなくても、さまざまな器を買い揃えることができる。

 

 かりゆしウエア(沖縄版アロハシャツ)のコレクションもなかなかだ。草花など南国の事物をモチーフとしているところはハワイアンシャツに似ているが、色柄が落ち着いている。沖縄ではフォーマルとしても通用するという。熟練した職人が手作りするMAJUN社のものがおすすめだ。

 

 

 

 

 客室は、コロニアル調の配色で、アンティーク調の家具やランプが並べられ、実に落ち着いた雰囲気だ。これは長期滞在を意識してのことだという。一番小さいものでも43平米の広さを持ち、バスルームや洗面台もゆったりとした造作だ。すべての部屋にバルコニーが設えられており、大自然を一望できる。

 

 最大のロイヤルスイートは140平米もの面積を擁し、外部から調理人がアクセスできるダイニングスペース、深々としたソファセットが置かれたリビング、シックなベッドルームが連なっている。広大なバスルームにはプライベートサウナまで併設されている。この部屋は多くのセレブリティに愛用されてきたそうだ。

 

 上等なワッフル地で仕立てられたルームウエアに着替え、オリジナル・ブランドのアメニティの数々の封を切れば、残すのは、ただただリラックスすることだけだ。

 

 

 

 

 レストランは、ブラッスリー「ベルデマール」、カジュアルブッフェ「ハナハナ」、ラウンジ「アリアカラ」など、選択肢が多い。おすすめは日本料理・琉球料理「佐和」の物語会席だ。これは板前が考案したオリジナルストーリーを食膳で表現するという試みで、5月31日までの期間は、「シーサーとキジムナーの花咲か物語」が提供されている。昔話をモチーフに、沖縄の守り神シーサーとガジュマルの木に宿るといわれる精霊キジムナーが花畑で出会い、枯れ木に花を咲かせるという趣向である。

 

 

 

 

 紅芋、島豚、島人参、そして沖縄三大高級魚に数えられる赤マチ(ハマダイ)など、郷土の素材を使った料理が、目にも鮮やかな薄紅色の花々と一緒に盛り付けられている。「ここ掘れわんわん」、「枯れ木に花を」など、一皿一皿に名前が付けられているのが面白い。料理長・並里吉明氏の確かな腕前と、考案した若い板前・比嘉龍麻氏の自由な発想が感じられた。

 

 合わせるのは、もちろん沖縄特産の泡盛だ。珍しいにごり泡盛や10年ものの古酒などが、やちむんのカラカラ(酒器)にて供される。口当たりはいずれもまろやかで飲みやすく、ついつい杯を重ねてしまう。しかしアルコール度数は30~43度もあるので、お試しなさる際はお気をつけて・・。レストラン入り口横に飾られた、金城次郎の作品もお見逃しなく。

 

 

 

 

 朝食は、“紺碧の海”を意味するベルデマールのブッフェで。その名の通り、窓からは大海を望むことが出来、爽やかな気分で食事を楽しめる。ゴーヤーや南瓜、紅芋などを使ったスムージーで体を目覚めさせ、黒蜜をかけ回したフレンチトーストや島豚のローストなどを頂く。シェフがその場で焼き上げるオムレツは、イカスミ入りやミニオムライスなどもオーダー可能。クロワッサンやシナモンロールなどのペストリー類もレベルが高い。季節ごとに変わるここの朝食を目当てに、このホテルを選ぶゲストも多いと聞いたが納得だ。

 

 

 欧州のリゾート地には、年を重ねるごとに評価が上がり、老舗として堂々たる地位を築いているホテルがいくつもあるが、ここ沖縄においては、ホテル日航アリビラがそういった存在である。ここで結婚式を挙げたカップルが、夫婦連れ添って、毎年のように再訪することも多いそうだ。

 

 ふとガーデンに視線をやると、ウエディングドレスを纏った花嫁の姿が目に入った。青い空、生い茂る緑に、純白のドレスが美しく映えている。この若い新婦もまた、アリビラの歴史を紡ぐ一コマとして、この場所に記憶されていくのであろう。