Ferrari Roma
La Nova Dolce Vita
ローマで初披露された跳ね馬のクーペ、
コンセプトは
“ラ・ノーヴァ・ドルチェ・ヴィータ”
November 2019
去る11月14日、フェラーリの新型V8クーペがローマにて発表された。コンセプトは、“ラ・ノーヴァ・ドルチェ・ヴィータ(新・甘い生活)”。THE RAKE読者なら、もちろんご存知あろうが、『甘い生活』は監督フェデリコ・フェリーニ、主演マルチェロ・マストロヤンニによる、1950年代後半のローマにおける、上流階級の豪奢で退廃的な生活を描いた名作映画である。
今までのフェラーリを語る上では、ハイ・パフォーマンス、ビューティなどがキーワードであったが、このローマでは、それらに加えて“エレガンス”が加わったというわけだ(イタリア風に言うなら“エレガンツァ”か)。
ローマ・オリンピック・スタジアムの眼前に作られた特設会場に到着し、フェラーリ・レッドにライトアップされたトンネルをくぐると、突如として壮麗な空間が現れた。設えられたバーカウンターの中には、ブラックタイで着飾ったバーテンダーが笑みを浮かべており、そのバックには、何十本ものスピリッツのボトルが並べられている。
セレモニーは、まるで映画のワンシーンのように始まった。フェラーリ社チーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサー、エンリコ・ガリエッラ氏が、カウンターにてエスプレッソを飲みながら、新しいフェラーリのコンセプトを訥訥と語り始める。語り口は徐々に熱を帯び、その頂点に達すると同時に、新型車“ローマ”がアンヴェールされるという仕掛けだ。
ワールドプレミアにてローマを語り合う、フェラーリ社チーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサー、エンリコ・ガリエッラ氏(左)とデザイン・ディレクター、ファビオ・マンゾーニ氏(右)
発表されたニューカーは、来場者の予想を裏切るものだった。大方の人々は、FRのオープンモデル“ポルトフィーノ”のクーペ版を想像していたが、(ホイールベースこそ同じものの)ローマはその見た目が、従来モデルとは、まったく違っていたのだ。
最近のフェラーリ車は、モダンでクリーンなラインを基調とするのが常だったが、ローマを構成していたのは、セクシーで艶めかしい曲線だった。ボディを取り巻く滑らかなラインは、フロント・ボンネットから後方へと流れ、サイドからコンパクトなファストバックまで続いている。それはドルチェ・ヴィータの時代、1950年代の名車にインスパイアされたものだという。フェラーリ・デザイン・ディレクター、ファビオ・マンゾーニ氏はいう。
「1950-60年代は、とても美しくアイコニックなフェラーリがリリースされた時代でした。例えば250GTルッソのような、美しいボディラインをもったエレガントなクルマたちです。一目見て、“これがイタリアだ”とわかるデザインです」
「しかし」と前置きして、マンゾーニ氏は続ける。
「これは現代のドルチェ・ヴィータなライフスタイルのためにデザインされたクルマです。皆さんご存知のように、私たちは過度にノスタルジックなアプローチは好みません。イノベーティブでまったく新しく、コンテンポラリーなクルマとして仕上げることも心がけました」
その新しさは、主にフロントとリアにある。
フロントはシャークノーズといわれる半弦型で、その上にLEDによる極薄のヘッドライトが配されている。フェイスは、ちょっとミステリアスな雰囲気だ。リアはコーダトロンカ(お尻をスパッと切り落としたような空力デザイン)を現代的に解釈したもので、フェラーリ伝統の丸形テールランプは廃され、スリット型となっている。リアスクリーンと一体化した可変式スポイラーを備え、速度に応じて最適なダウンフォースを得られる。
インテリアはエレガントなフォルムと、ハイエンド・テクノロジーの融合を目指したもの。乗員を取り囲むようにぐるりと配された曲線が、まるで繭に包まれたような安心感を与える。フェラーリはこれを“コクーン・エフェクト”と呼んでいる。
中央の16インチ・フルデジタル・インターフェースに加え、助手席前にもディスプレイが設置され、ドライバーのみならずパッセンジャーも、エキサイティングなドライビング体験が得られるよう工夫されている。小径ステアリング・ホイールには、4つのドライビングモードを切り替えられるスイッチや、パドルシフトが集中している。
リアシートはこのクルマに、アディショナル・ヴァリューを与えている。大人が乗り込むのは少々難しいが、バッグなどを置く場所としてはとても便利だし、トランクスルーも備えるから、長物も積むことができる。
長いフロント・ボンネットの下には、フェラーリ自慢のV8エンジンが美しくセットされている。4年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを獲得しているファミリーの一員である。最高出力は620cvで、これはポルトフィーノより20馬力大きい。
この大パワーを新型8速デュアル・クラッチで受け、0-100km/h=3.4 秒、最高速度=320km/hを叩き出す。また乾燥重量もポルトフィーノより75kg軽い1472kgに抑えられ、同セグメント最高のパワーウエイト・レシオを達成している。
発表されたニューカーは、すべてがシックでラグジュアリーにまとめられていた。舞台上に登場した3台のクルマのカラーは、(左から)ビアンコ・イタリア、ニュー・ブルー、チタニウム・グレイと、いずれも落ち着いたもの(フェラーリ・レッドはなかった) 。
それからサイドに貼り付けられたフェラーリのアイコン、プランシング・ホースのシールマーク(盾型のエンブレム)もない。これらの事実が、このクルマの性格を物語っている。マンゾーニ氏曰く、
「このクルマはGTです。GTとはグラン・ツーリズモの意味です。パフォーマンスと同時に、快適性、ラグジュアリー性を追求したモデルです。レーストラックで走ることもできますし、イブニングドレスを着た美女を乗せて、オペラを観に行くこともできる、そんなフェラーリなのです」
フェラーリ ローマのライバルは、例えばAMG GT やアストンマーチンDB11あたりになるのだろうが、このクルマはまったく違う魅力をアピールしてきた。それはアモーレの国、イタリアのお家芸ともいえる、艶っぽさとエレガンスである。それらを象徴するのが“ドルチェ・ヴィータ”という言葉なのだ。甘い生活を楽しむ達人たち=イタリア人にコレをやられたら、他はちょっと敵わない。
Ferrari Roma
フェラーリ ローマ
エンジン:3855cc V8ツインターボ
最高出力:620cv@5750-7500rpm
最大トルク:760Nm@300-5750rpm
全長×全幅×全高:4656×1974×1301mm
乾燥重量:1472kg
ギアボックス:8速F1デュアル・クラッチ
0-100km/h:3.4秒
最高速度:320km/h