Elie Bernheim, Raymond Weil CEO Interview

時計愛好家に寄り添い丁寧に時計をつくる

October 2024

一夜にして時計愛好家にその名が知られる。そんなドラマティックな状況にあるのが、スイスの時計ブランド「レイモンド ウェイル」だ。2023年に発表したドレスウォッチ「ミレジム」が大きな話題となり、今ではミドルレンジの雄として注目されている同社のCEO、エリー・ベルンハイム氏に躍進するブランドについて話を聞いた。

 

 

text tetsuo shinoda

 

 

Elie Bernheim/エリー・ベルンハイム

1982年生まれ。ローザンヌホテルスクールを卒業後、キャリアを積み、2006年に祖父が設立したレイモンド ウェイルに入社。14年に父からCEOを継いだ。母がプロのピアニストという音楽一家であり、彼自身もピアノとチェロの演奏を趣味とする。息子もピアノを得意としており、いつの日か連弾することが夢だという。

 

 

 

「レイモンド ウェイル」の創業は1976年。音楽をコンセプトとしたデザインやコラボレーションで話題となり、バーゼルワールドでは巨大なブースを構えるほどスイス時計業界ではメジャーな存在だった。とはいえ、日本では知られざるブランドであったのは事実だ。

 

 しかし、2023年の「ジュネーブ時計グランプリ(GRAND PRIX D’HORLOGERIE DE GENÈVE、以下GPHG)」で、状況は一変する。時計師やジャーナリストなど関係者が投票を行うことから、“時計界のアカデミー賞”とも呼ばれるこのアワードにて、レイモンド ウェイルのドレスウォッチ「ミレジム」が、CHF2000(約34万円)以下の時計を対象とするチャレンジウォッチ部門に選ばれたのだ。

 

 まさに一夜にしてレイモンド ウェイルは、“ミドルレンジの価格帯ながら良質な時計をつくるブランド”として知られるようになった。

 

 三代目として家族経営を守るCEOエリー・ベルンハイム氏は、当時を回顧する。

 

「フランス語でヴィンテージの意味を持つ『ミレジム(Millésime)』の企画がスタートしたのは、約4年前ですね。ブランドをさらに成長させるために、美しく、洗練され、エレガントで、ちょっとレトロで、もちろん手の届きやすい価格の時計をつくりたいと考えました。GPHGで受賞が決まった瞬間は、すべての人達への感謝の気持ちでいっぱいでした。それと同時に、“手の届きやすい価格で洗練された時計をつくる”というビジョンが正しかったという証明にもなりました」

 

 一躍メジャーブランドとなったレイモンド ウェイルだが、2024年もその勢いは止まらない。メンズウォッチのケース径は40mm前後である中で、あえて35mm径のドレスウォッチ「ミレジム 35 センターセコンド」と「ミレジム 35 ムーンフェイズ」を発表する。

 

「ミレジムのラインナップを拡大することは、GPHGの前から決めていたことですが、多くのマーケットでこの時計が受け入れられるのは受賞がきっかけであることは間違いでしょう。35mmモデルをつくる上では、時計愛好家のコミュニティの意見も参考にしました。昔の時計サイズはそれほど大きくなかったので、レトロルックな時計をつくるなら、小径サイズは理にかなっていますからね」

 

エリー・ベルンハイム氏は、こういった市場の声に耳を傾けることを好む。

 

「私たちはすべての情報を持っているわけではありません。ですから、共有し、フィードバックを得ることは、開発プロセスにおいて非常に重要なことです。既に興味深い意見を参考にディテールを変更したモデルもあります。専門家や友人、同僚から意見を求め、シェアする。もちろん最後の決断は自分の仕事ですが、CEOとして10年キャリアを積んできたため、ブランドが進むべき道筋はクリアに見えています」

 

 2024年はレイモンド ウェイルにとって、もうひとつ大きなトピックがあった。それが世界最大の時計見本市「ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ」への参加である。

 

「他のブランドのスタッフやリテーラー、メディアと交流できたことも大きな意味があります。こういう場で時計業界を俯瞰で見ることで自分たちが進むべき道が明確になります。ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブに参加したブランドの中では、我々は控えめなプライスレンジですが、アクセシブルな価格帯だからこそ、存在価値があるともいえる。だからミドルレンジの価格帯から動くつもりはありません。良い時計をつくり続けることは当然ですが、価格帯を維持することも同様に大切なことなのです」

 

 レイモンド ウェイルはスイスでも珍しくなった家族経営を貫く時計ブランドである。そのためミドルレンジの良作時計をつくるという信念にブレがない。長く愛していけるブランドというのは、まずはその信念を愛することから始まるのだ。

 

 

高い評価を受けた端正なセクターダイヤルを継承した35㎜モデル。センターセコンド式にすることで小径ながらバランスの良い時計になっている。美しいブルーが腕元に個性を加えてくれる。「ミレジム 35 センターセコンド」自動巻き、SSケース、35mm¥341,000 Raymond Weil

 

 

35mmケースにムーンフェイズを組み合わせた、ムーンディスクには顔が描かれており、レトロな雰囲気を強めている。バーインデックスではなく、小さなアラビア数字のインデックスを加えることで。新しい表情を引き出した。「ミレジム 35 ムーンフェイズ」自動巻き、SSケース、35mm¥396,000 Raymond Weil

 

 

39.5mmケースのムーンフェイスモデルは、特徴となるセクターダイヤルでレトロモダンなスタイルをつくる。当初はインデックスも金色の予定だったが、愛好家の意見を聞いてホワイトに変更したそう。「ミレジム ムーンフェイズ」自動巻き、SSケース、39.5mm¥396,000 Raymond Weil

 

 

ジーエムインターナショナル

TEL.03-5828-9080

https://raymond-weil.jp/