dunhill CARRYING THE CODE
ダンヒルの鞄に宿る英国紳士のコード
July 2026
鞄は単なる道具ではない。スタイルを完成させ、その人の美意識を静かに映し出す存在である。
ダンヒルのクリエイティブ・ディレクター、サイモン・ホロウェイが新たに手がけたレザーグッズには、英国のクラフツマンシップ、アーカイブへの敬意、そして現代のライフスタイルに寄り添う機能性が息づいている。
その鞄に宿る、英国紳士のコードを読み解く。
text Yuko Fujita
photography Jun Udagawa
サイモン・ホロウェイ
Simon Holloway
英キングストン大学で学ぶ。パリ、ニューヨーク、ミラノ、ロンドンでキャリアを積んだのち、ジェームス・パーディ&サンズのクリエイティブ・ディレクターを経て、2023年、ダンヒルのクリエイティブ・ディレクターに就任。英国クラシックへのオマージュに満ち、同時にモダンでもあるコレクションが高い評価を得ている。
Interview Q1
ダンヒルはロンドンのウォルサムストウに自社のレザー工房を持っています。そうした存在がとても貴重である今日、職人たちとこれほど近く関わる中でレザーグッズに対するサイモンさんのヴィジョンにどのような変化をもたらしましたか?
A 新しいレザーグッズコレクションをデザインするにあたり、私にとって重要だったのは、ウォルサムストウにある鞄工房で働くダンヒルの職人たちのサヴォアフェールを学び、深く理解することでした。ブランドの中で培われ、受け継がれてきたクラフツマンシップを、デザイン言語の根底に据えたいと考えていたからです。その好例が「Alfred 40」です。同バッグのハンドルは、今もウォルサムストウの工房で作られているメイド・トゥ・オーダーのものと同じ構造をしています。アーカイブに残るマップケースから着想を得ており、非常に職人的かつ極めて英国的なハンドルです。ダンヒルの中で130年以上にわたって作られ続けてきたこのハンドルを、いかに今日の製品へ落とし込みながら、クラフト性を保つのか。「Alfred 40」では、ハンドルを変えませんでした。オリジナルのまま残し、その周囲に、より現代的なブリーフケースを構築したのです。そこに、私は強く惹かれています。また、ハンドパティーナ仕上げのカーフレザーには、豊かな色彩と深みが宿り、スライドロックには、100年以上にわたる、ダンヒルのメタルワークの歴史が反映されています。ロックを下げたときの音や、手に伝わる感触には、「ユニーク」や「ローラガス」ライターの機構に通じる満足感があります。また、バッグの内部は、コントラストを効かせたゴートスキンのトリミング、美しいキャンバスライニング、中の持ち物が見やすいように考えられた明るい色使いとなっています。そして、佇まいはシンプルです。それこそがダンヒルらしさです。美しさ、クラフト性を備えながら、決して大きく主張することなく、装いに重厚感を与えてくれるのです。
ALFRED
アタッシェの品格を受け継ぐ、しなやかな「Alfred」
アタッシェケースを思わせる職人の手仕事によるハンドルと、柔らかな曲線を描くサイドガゼットが印象的な「Alfred」は、力強さの中に柔らかさを併せ持つ鞄だ。前後ふたつの独立したコンパートメントは、ともにフラップ開閉式。フロントには、「ユニーク」ライターに着想を得たロッククロージャーを配している。素材には、職人の手作業によって繊細なツートーンの奥行きを表現したパティーナカーフを採用。すべてのサイズでストラップが付属し、ショルダーバッグとしても使える。左から:「Alfred 40」W40×H28×D13cm。¥654,500、「Alfred 25」W25×H19.5×D9.5cm。¥485,100、「Alfred 30」W30.5×H23×D11cm。¥587,400 dunhill
伝統的なハンドルの力強さと、現代的なフォルムが共存。柔らかな曲線を描くサイドガゼットが、鞄に豊かな立体感をもたらしている。
Interview Q2
ダンヒルはテーラリングやレディ・トゥ・ウェアだけでなく、鞄や財布、ケースといった、男性が日々携えるレザーグッズにも長い歴史を持っています。サイモンさんにとって、レザーグッズはダンヒルの世界観の中で、どのような役割を担っていますか?
A レザーグッズは、私がダンヒルのスタイルを考えるうえで欠かせない存在です。私たちが思い描く男性像において、多くの場合、レザーアイテムを身につけたり、携えたりしています。書類やデジタル機器、身の回りの品々を持ち歩く現代の男性にとって、それらを美しく収めるレザーグッズは、日々の装いを支える実用的なツールでもあります。トートバッグであれ、フォリオであれ、ブリーフケースであれ、そこには機能性と個人のスタイルが表れます。そしてその両方が、私たちの考えるダンヒルのルックに反映されています。なかでも、英国製ブライドルレザーを採用していることには大きな意味があります。一部のモデルは、ウォルサムストウで製作された既製品として、限られた数量で展開されています。ブライドルレザーにまつわるサヴォアフェールは、オーダーメイドであれ既製品であれ、今なお私たちの提案において重要な位置を占めています。ノーサンプトンでベンチメイドされるメイド・トゥ・オーダーのドレスシューズや、編み込みのレザーベルトもまた、そうした考えを象徴する存在です。レザーと衣服の関係性は非常に重要で、レザーはスタイリングを完成させ、レディ・トゥ・ウェアに奥行きを与えてくれます。ハンドバーニッシュ仕上げのレザーや、手作業で磨き上げられたシューズは、洗練をもたらします。私は、テーラリングに用いる上質なウールやカシミア、リネンに、レザーが寄り添う佇まいに強く惹かれます。コレクションに奥行きをもたらすだけでなく、日々の装いに確かな実用性を与えてくれるからです。レザーグッズは単なるアクセサリーではありません。それは、ダンヒルの世界観を構成する、不可欠な要素なのです。
ALFRED FOLIO, BOURDON SLIM DOCUMENT CASE
英国伝統のブライドルレザーをミニマルな美しさで再解釈
伝統的な英国製鞄を象徴するブライドルレザーを用いながら、端正で現代的な佇まいをしたそのバランスに、サイモン・ホロウェイの英国的美意識を感じる。左:「Alfred Folio(アルフレッド フォリオ)」は、洗練されたスリムフォリオ。W36×H28×D5cm。¥452,100。右:「Bourdon Slim Document Case 41」は、クリーンでミニマルなシルエットを備え、13インチのノートPCを収納可能。モデル名の「Bourdon(ボードン)」は、ダンヒルの旗艦店であるメイフェアの歴史的邸宅「ボードンハウス」に由来。W41×H26.5×D6cm。¥452,100 dunhill
アイコニックな「ユニーク」ライターから着想を得たロッククロージャーが美しい。
Interview Q3
サイモンさんのファッションに対する価値観において、職人の仕事はどんな意味を持っていますか。サイモンさんのコレクションからは、とりわけ強くクラフツマンシップを感じます。それらは、ダンヒルのレザーグッズの美しさや品格に、どのような奥行きを与えているのでしょうか?
A 職人的なクラフツマンシップという考え方は、私たちのデザイン実践そのものに深く組み込まれています。それはダンヒルのデザイン哲学において、非常に感情的な要素でもあります。なぜなら、私たちのモノ作りの多くは、人と人との関係、手仕事によって受け継がれる知識の上に成り立っているからです。例えば、素晴らしいファブリックを織り上げる際には、ビエッラや英国の伝統的なミルと密接に協業します。現地を訪れ、時間をともにし、職人たちと一緒にモノ作りを進めていくのです。ハダースフィールドでは、伝統的な英国生地をより軽やかで現代的なものへと進化させるために、柄や色、糸の撚り方について、職人たちと直接取り組むことも多々あります。そうした関係なしには実現できないことです。そして、この姿勢は、すべてのカテゴリーに共通しています。例えば、ネクタイに使われるシルクは、英国で最後に残る伝統的なシルクスクリーンプリント工場で仕上げています。極めて職人的な工程であり、他では再現できない色の深みを生み出します。それこそが、私たちがあらゆる製品カテゴリーにもたらしている価値なのです。また、私にとって大きなインスピレーション源であり続けているのが、130年以上にわたり蓄積されてきたダンヒルのアーカイブです。そこには革新、発明、卓越したクラフツマンシップが息づいています。クラフツマンシップとは、人間性であり、感情であり、美しさです。職人との協働からしか生まれない深みを製品にもたらすもの。そして、私たちのデザイン哲学全体も、その考えを中心に構築されています。レザーグッズにおいても、その姿勢はまったく同じです。
CENTURY
自動車旅行用トランクの記憶を宿すラゲージトート
四隅に施されたレザーの補強は、アーカイブに残る自動車旅行用トランクに着想を得たもの。職人の手によるステアリングホイールステッチを施したチューブラーハンドルは、ダンヒルと自動車文化の繋がりを示す、ヘリテージへのオマージュだ。ジップで上部を閉じられ、ストラップでバッグの幅を調整することで、異なる表情も楽しめる。奥行きのある表情をもつパティーナカーフを採用。左から:「Century 45(Tan)」、「Century 45(Black)」ともにW45×H33×D22cm。取り外し可能なエンベロープフォリオ付き。¥687,500、「Century Tote 24」W24×H32×D9cm。¥460,900 dunhill
両サイドのストラップを緩めることで幅を広げられ、荷物の量に応じてフォルムの変化も楽しめる。
職人の手でステアリングホイールステッチを施したチューブラーハンドル。ダンヒルと自動車文化の結びつきを物語る、ヘリテージへのオマージュだ。
Interview Q4
サイモンさんがダンヒルのレザーグッズをデザインするうえで、最も大切にしている判断基準は何ですか。アーカイブ、英国らしさ、機能性、現代性を行き来する中で、「これはダンヒルらしい」と感じる決め手はどこにあるのでしょうか?
A ダンヒルのレザーグッズコレクションをデザインする際、私が何よりも最初に思い描いていたのはクライアントの存在です。私はこのコレクションを、印象的で、そして非常に魅力的なものにしたいと考えました。豊かさと男性的な魅力を備え、レディ・トゥ・ウェアに見られるのと同等のデザイン性と素材の質感を持ちながら、一方でレザーグッズコレクションとして独立した存在感を持つべきだと考えていました。私にとって重要だったのは、その品質が過度に主張するのではなく、さりげなく感じられることです。これらのアイテムは男性のスタイルを引き立てるものであり、過度な装飾や大げさな自己主張は必要ありません。どのような装いにも自然に馴染むシンプルさがありながら、同時にワードローブ全体を洗練させる存在であるべきなのです。最初に目にしたときには、ただ「美しい」と感じられるものであってほしいと思いました。そして、より深く見ていくうちに、その層が見えてくる。レザーの磨き方、素材に宿る英国らしさ、ステッチ、メタルパーツ、そして、ひと目でダンヒルとわかるディテールなどです。何かが大きく主張しているわけではありません。しかし、すべてに意味があります。私にとって、それこそがまさにダンヒルらしさです。現代的でありながら流行に左右されず、確かな品格と落ち着きを保ち、少し意外性がありながらも、同時にタイムレスでクラシックであること。使い込むほどに、新たな魅力が見えてくることです。しかし決してノスタルジックになり過ぎることはありません。そこには、英国らしさ、アーカイブ、クラフツマンシップ、そして現代性が、いくつもの層となって息づいているのです。
ALFRED BILLFOLD, CARD CASE, COAT WALLET
ローラガスの記憶を宿す小さなアルフレッド
「Alfred(アルフレッド)」のスモールレザーグッズシリーズは、「ローラガス」ライターに着想を得たリードパターン入りのメタルブリッジが特徴。アーモンドディップのストラップが、その下を滑り込む構造だ。素材には、しなやかな手触りと奥行きのある色味のパティーナカーフを使用。内装にゴートスキンを配し、外装とのカラーコンビネーションにもこだわった。鞄のフォルムに通じるカードスロットのカッティングにも美意識が宿る。左:「Alfred 4CC & CP Billfold」W11×H9×D2.5cm。¥116,600、中央2点:「Alfred Business Card Case」W8×H11×D2cm。各¥79,200、右:「Alfred Coat Wallet」W9×H19×D2cm。¥149,600 dunhill
鞄のフォルムに通じるカードスロットのカッティングと、外装とのコントラストを効かせたゴートスキンの内装。細部を見つめるほど、サイモン・ホロウェイの美意識が浮かび上がる。
Interview Q5
ダンヒルの鞄には、これ見よがしではない、控えめな美しさを感じます。サイモンさんにとって、鞄におけるエレガンスとは何でしょうか。そしてダンヒルのレザーグッズは、現代の紳士のあり方を映し出すうえで、何を大切にすべきなのでしょうか。
A 何よりもまず、エレガンスはオーナー自身が定義するものだと思います。個人的に言えば、私はトートバッグ派で、私のライフスタイルに合った「Century」トートを毎日使っています。そのプロポーションは私の着こなしにしっくりきますし、ハンドル、クラフツマンシップ、メタルローラータグにエレガンスを感じています。ただ、エレガンスとは最終的に、その人がどう生きているか、持つバッグがそれをどう映し出すかによって決まるものです。ブリーフケース派なら「Alfred」に惹かれるかもしれません。ラゲージ的なバッグを好む方なら「Century」を選ぶでしょう。ミニマル派には「Folio」もいい。エレガンスは、プロポーション、機能性、個人のスタイルの関係から始まるものです。人はそのバッグに惹かれる理由をすぐには言葉にできない。持ち方、服との調和、素材の質感を通じ、審美眼を持つ人の持ち物だと自然に感じ取るのです。私たちが目指したのは、その静かな存在感でした。デザイン、クラフツマンシップ、仕立て、素材。すべてが誇張することなく、エレガンスと品質を表現しています。ダンヒルを知る人にはひと目でそれと分かり、知らない人には興味を抱かせるものであってほしいと思っています。それは「Alfred」や「Century」を持つ方自身の印象にもつながります。同時に、それらは受け継がれていくヘリテージピースでもあります。タイムレスで、クラシックで、長く使い続けるために作られている。10年後も今と同じように美しく、50年後も10年後と変わらない魅力を放っているべきです。それこそが、デザイン、クラフツマンシップ、素材が持つ価値なのです。
BOURDON 40 CANVAS & NAPPA CALF
CENTURY 45 CANVAS & NAPPA CALF
旅の機能美を宿したキャンバスラゲージ
奥行きのあるソルト&ペッパー コットンキャンバスに、ナッパカーフを組み合わせた2型。ともに1924年の「ユニーク」ライターのコードを受け継ぐディテールが魅力だ。左:「Bourdon 40 Canvas & Nappa Calf」は、初期トラベルデザインに由来する、マチに沿ったアシンメトリーなジップ収納、外側のふたつの独立した収納部が特徴。W40×H28×D14.5cm。¥463,100。右:ジップとレザーストラップの2種類のクロージャーを備え、バッグ幅を調整できる。単体で使えるエンベロープフォリオ付き。「Century 45 Canvas & Nappa Calf」 W45×H33×D22cm。¥568,700 dunhill
大きく開くジップと英国らしいウインドウペーンのライニングが、旅の道具としての機能性を高める。
豊かな表情をもったソルト&ペッパーのキャンバスに、ナッパカーフと円筒形のローラタグが洗練を添える。
(問)ダンヒル 0800-000-0835
※掲載商品はすべて、2026年9月以降、価格改定の可能性があります。












