DS AUTOMOBILES - DS 9

もはや高級時計やスーツに近い存在

September 2022

美しいエクステリアと、すみずみまでこだわられたインテリアを持つDS 9は、フランス語で匠の技を意味する“サヴォア・フェール”という言葉がよく似合う一台だ。

 

 

 

DS AUTOMOBILES DS 9 Opera

全長×全幅×全高:4,940×1.855×1,460mm/車両重量:1,640kg/エンジン:1,598cc 直列4気筒DOHCターボ/最高出力:165kW(225ps)/5,500rpm/最大トルク:300Nm/1,900rpm

 

 

 

 フランスには“サヴォア・フェール”という言葉がある。これは、経験や技術に裏打ちされた“匠の技”を意味している。エルメスやルイ・ヴィトンなどのクチュール・メゾンの魅力を説く際に好んで使われる。しかし、クルマ業界で口にされるのは稀である。そんなサヴォア・フェールがよく似合う一台がある。ここにご紹介するDS 9である。

 

 ボディは伸び伸びとした流麗なラインで構成されている。セダンにもかかわらず、ハッチバック・クーペと見紛うようだ。ボンネットを貫くサーベルラインや、フロントおよびリアランプから延びた、ナイフのようなシェイプがアイストップとなっている。細部に目をやると、フロントライトは回転式が採用されていたり、リアランプはうろこ状のシェードに覆われていたり、ホイールが銀と銅の2色に塗り分けられていたりと、どこまでも手がかけられている。ドアハンドルはリトラクタブル式で、キーが近づくと自動でせり上がる。

 

 白眉はインテリアである。コクピット回りはあえてウッドを廃し、上質なレザーとアルカンターラで仕上げてある。ダッシュボードはまるでベルルッティの靴のように、濃淡のついたパティーヌ調フィニッシュ。シートは上質のナッパレザーが、時計のブレスレットのように縫い込まれている。ドアノブやコントロールスイッチの回りは、腕時計のダイヤルを思わせるギョシェ模様“クル・ド・パリ”(多数のピラミッドが連なる意匠)で装飾されている。中央に配された時計は、フランスの気鋭B.R.M製で、エンジンをスタートさせるとくるりと回転し、アールデコ調のアナログ文字盤が顔を出す。トリムに配されたステッチに目を凝らすと、玉粒状の“パールトップステッチ”が見て取れる。これは熟練した職人が手作業で縫っているという。まるでビスポーク・スーツのラペルのようだ。

 

 

まるで腕時計のスティール製ストラップを思わせるシートの意匠。座面は一枚の大きなナッパレザーを縫い込んだものだという。

 

美しくシェイプされたドアノブ横には、まるで時計の文字盤を彷彿とさせるギヨシェ模様“クル・ド・パリ”が施されている。

 

ダッシュボードセンターに配された時計は、B.R.M製のもの。その文字盤はアール・デコを基調としたものだ。

 

 

 

 走りのほうで気になるのは、やはり乗り心地であろう。DSアクティブスキャンサスペンションと名付けられたシステムは、前方道路の凹凸をカメラで捉え、ショックアブソーバーをリアルタイムで制御するという。ハーシュネスなどの衝撃は、巌のようなボディ剛性で抑え込むというより、クルマ全体で受け流す感じ。古くからのフランス車ファンには堪らない味付けだと思う。エンジンは1.6ℓと小さいものの、むしろそのおかげで、同サイズのライバルたちと比べ、100kg近い軽量化に成功している。モードセレクターをスポーツに入れると、高回転がキープされ、ステアリングがクイックになり、サスも引き締まる。ワインディングは思いのほかエキサイティングだ。

 

 本国フランスでは、伝統に則って、DS 9は大統領専用車になる予定である。なので、後席も広々としている。現在日本では、運転手付きハイヤーとしては、黒塗りのミニヴァンが大人気だ。そんな中で、もしDS 9をショーファーカーとして使えば、確実に趣味のよさをアピールできるだろう。

 

 フランスならではのサヴォア・フェールが駆使されたDS 9は、クルマというよりは、もはやラグジュアリー・ブランドが手がける高級時計やスーツに近い。それは移動のための手段ではなく、深い精神的満足をもたらすためのものなのだ。

 

 

サイドには力強いプレスラインが入る。ハッチバックのように傾斜した後窓と相まって、そのシルエットはクーペのようだ。

 

リアのストップランプは、レーザーカットされたうろこ状のシェードに覆われている。

 

ドアノブはキーを持つ人が近づくと自動でせり上がるリトラクタブル式だ。