CHOPARD L.U.C THE SOUND OF ETERNITY

時を奏でる“楽器”とロマン

September 2022

静かに過ぎ去ってゆく時を、精密な機械が“音”で表現する。

ショパールのロマンティックなチャイミングウォッチは、もはや楽器である。

 

 

text TETSUO SHINODA

 

 

 


カール-フリードリッヒ・ショイフレ(中央)
ショパール共同社長。1958年、ドイツ生まれ。15歳でスイスに移住。HECローザンヌ校卒業後、ショパールに入社。1996年から自社製ムーブメント「L.U.C」の製造をスタートさせ、1997年にコレクションをスタート。さらに、世界で最も美しいクラシックカーレースといわれる「ミッレ ミリア」の公式計時や「カンヌ国際映画祭」の公式パートナーなど、積極的に事業を展開。

左が1976年生まれのバイオリニストで、兄のルノー・カピュソン氏。14歳でパリ国立高等音楽院に入学した天才。右が1981年生まれのチェロ奏者で、弟のゴーティエ・カピュソン氏。兄と同様、パリ国立高等音楽院を卒業。世界中の音楽祭やオーケストラで演奏。兄弟での共演も多い。

 

 

 

 1860年創業の歴史あるウォッチメゾン、ショパールは、1963年にドイツの宝石商ショイフレ家へと経営権が引き継がれた。まずは家業と時計を融合させた美しいジュエリーウォッチで名を馳せた後、スイスのフルリエにマニュファクチュール工房を設立する。1996年には自社製ムーブメントを発表し、その翌年に「L.U.C コレクション」をスタートさせて本格的な時計ブランドへと復権。目の肥えた時計愛好家からも高い評価を得るようになった。

 

 ショパール共同社長を務めるカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏は、現在も美しい時計作りに深いこだわりを持っており、今年は音を奏でる「チャイム機構」の新作に注力した。しかもその製作のために、フランスの弦楽器奏者であるルノー・カピュソン氏とゴーティエ・カピュソン氏に協力を仰いだという。いうなれば、“時計を楽器とみなす”というユニークなプロジェクトである。その全貌を深く知るため、スイスと東京をつないでショイフレ氏へのオンラインインタビューを行った。

 

 

 2022年のショパールは、非常に個性的で好奇心を刺激するハイコンプリケーションウォッチの3部作を発表してきた。しかもそのすべてが、時計内部のゴングとハンマーによる音で時刻を知らせる、複雑な「チャイム機構」を搭載している。

 

 実はここ数年、多くの実力派ブランドが、高度な技術を求められるチャイム機構を搭載したハイコンプリケーションモデルに力を入れている。この傾向にはどのような背景があるのだろうか。

 

「時計は針を使って時刻を読む道具ですが、そこに音という要素が加わることで情緒が生まれます。人の感性に響く時計とその表現方法には、まだまだ開発の余地がありますし、大きな可能性が広がっています。だから多くの時計ブランドが、チャイム機構に注目しているのでしょう。ショパールでは、2006年にブランド初のチャイミングウォッチとして『L.U.C ストライクワン』を発表しました。チャイム機構は懐中時計の時代から存在している古典機構で、我々はかなり新参者ですから、他社と同じことをやっても意味がありません。そこで何よりも、音の質にこだわりました。そして現在に至るまで、長期計画で美しい音を響かせるチャイム機構の開発に取り組んでいます」

 

 とはいえ“美しい音”といっても、その基準や好みは十人十色であるはずだ。ショイフレ氏が考える理想の音とは、いったいどういう音なのだろうか。

 

「まずは澄んだ音であること。もちろん共鳴や響きの長さも大切ですが、音と音の間隔も重視しています」

 

 補足説明をしておくと、ミニッツリピーター機構で時刻を表す場合、複数のハンマーとゴングを使って、「時」→「15分(クオーター)」→「(残りの)分」の順番に音が鳴る。例えば2時18分の場合、「カンカン(2時)、キカン(1クオーター=15分)、キンキンキン(3分)」と鳴る。しかし、現在時刻が0分から14分までである場合、この15分刻みのクオーターと呼ばれるパートが鳴らないため、無音の間ができてしまうのだ。そこでショパールでは、クオーターがない場合は、すぐに分パートに移るように設計している。これも心地よい音を奏でるために配慮した点である。

 

 

L.U.C ストライク ワン

毎正時になると、ハンマーがサファイアクリスタル製のゴングを1度だけ叩いて美しい音を響かせるシンプルなチャイム機構を搭載。リュウズの同軸上にあるプッシュボタンで、機構のオンオフを操作する。世界限定25本。自動巻き、18Kエシカルローズゴールドケース、40mm。© Federal-Studio

 

 

 

 ではショパールのチャイミングウォッチの特徴である“澄んだ音”は、どのように生み出しているのだろうか。

 

「チャイムの音は、ゴングの素材や取り付ける場所によって大きく異なります。多くのブランドでは、加工しやすい金属製のゴングを採用していますが、我々はさまざまな形状や素材の研究を重ねた結果、他にはない新しい技術としてサファイアクリスタルのゴングを考案したのです。しかもサファイアクリスタルの風防とモノブロック形成させることで、理想的な澄んだ音を引き出すことを目指しました。もちろんここに辿り着くのは容易ではありません。まずはプロトタイプを製作し、手作業で削って調整しながら音をチェックし、理想の音が鳴るゴングの形を探し出しました。そして導き出された理想のゴングの形を元に、サファイアクリスタルの加工会社で精密に加工してもらっています。ケース素材によって僅かな音の違いは生じますが、いずれにしても、非常に澄んだ美しい音を実現しています」

 

 精緻な加工によって製作されたサファイアクリスタル製のゴングは、時計に組み込まれた後、ショイフレ氏によって音の最終チェックが行われていた。しかし今回はこの工程をより厳格化し、チャイミングウォッチをもっと楽器へと近づけるために、音楽家であるカピュソン兄弟に協力を仰いだのだ。

 

「私は若い頃から、クラシック音楽が大好きでした。カピュソン兄弟に出会ったのは、2018年のことです。ルノー・カピュソンのバイオリンコンサートを鑑賞した際に、チャイミングウォッチを楽器としてとらえることを思いつき、彼と彼の弟であるチェロ奏者のゴーティエの力を借りたいと考えました。彼らに会ってみたところ、ふたりとも時計が好きで、既にL.U.Cについてもご存じでしたので、プロジェクトに誘ったのです。私は音楽が好きですが、プロではありません。だからこそ、プロの音楽家が納得できる音を時計で奏でたい。そう願ったのです」

 

 

L.U.C フル ストライク トゥールビヨン

ふたつの大きな窓からミニッツリピーターのゴングとトゥールビヨンを見せる、審美的なハイコンプリケーション。これだけ複雑な機構でありながらケース厚を12.58mmに抑えており、着用感にも優れる。世界限定20本。手巻き、18Kエシカルローズゴールドケース、42.5mm。© Federal-Studio

 

 

 

 カピュソン兄弟に加えて、音響専門家のロマン・ブランデ教授も招いて、プロフェッショナルの視点から音を解析。数値的な裏付けだけでなく、感性に響く音を作り上げることに成功した。

 

「1997年にL.U.C コレクションを始めたときは規模も小さく、特別な技術の蓄積もありませんでした。しかし孤高の天才時計師フィリップ・デュフォー氏の工房にお邪魔してその美しい仕上げに感動してからというもの、弊社はとにかく仕上げにこだわってきました。L.U.Cコレクションは今年で25周年を迎えましたが、タイムレスなエレガントウォッチとしてコレクターからも非常に高い評価を得ています。イノベーティブな時計でありたいと思いますが、それでも古典的なスタイルは変えません。美しいムーブメントを作るだけでなく、チャイム機構など時計の歴史にあるすべての機構をショパールの美意識を通じて製作したい。ですから、ベーシックモデルもハイコンプリケーションモデルも、まだまだ道半ばなのです」

 

 美しいものを作りたいというショイフレ氏の強い熱意は、彼のライフスタイルの中から生まれたものである。ワイナリーを所有し、ファッションを楽しみ、クラシックカーを嗜み、映画文化をこよなく愛する―。豊かな生活こそが、美しいものへの探求心を養うのだ。

 

「私はwell-madeなものを好みます。クラフトマンシップに溢れ、完璧さを尊ぶ。そういったものへの憧れもあります。もちろん日本のクラフトマンシップにも、敬意を持っています。ショパールの時計も同様で、たとえ複雑であっても美しく、きちんと丁寧に作られているものを世に送り出したいのです」

 

 今回発表された3部作は、いずれもチャイミングウォッチであるため、実物を手に取り、目で見て、そして音を聞くことによって初めてその真髄に触れることができる。しかしいずれも限定生産であるため、店頭で見ることはほとんどないだろう。万が一この時計に触れることができる幸運に恵まれたのなら、本物の美しい時計の音色に耳を傾けてもらいたい。

 

 精緻なエンジニアリングと音楽を愛する心から生まれた“時を奏でる楽器”には、人々を感動させる力が宿っている。

 

 

L.U.C フル ストライク サファイア

初代モデルは権威あるジュネーブ時計グランプリの最高賞を獲得した傑作。非金属ケースとしては初めて、ジュネーブの伝統技法を継承していることを証明する「ジュネーブ・シール」を取得した。世界限定5本。手巻き、サファイアクリスタルケース、42.5mm。© Federal-Studio