GUIDE TO THE PERFECT CLASSIC SUIT
ケーリー・グラントの言葉から学ぶ、
完璧なクラシックスーツの買い方
March 2022
“史上最もスタイリッシュな紳士”と謳われたケーリー・グラント。
彼が明かしたサルトリアル哲学とは?
by CHRISTIAN BARKER
ラッパーのカニエ・ウェストは、かつてこうツイートした。「スーツは高価な中毒だ」。それは正しいかもしれない。英国のビスポークやイタリアの高級ハンドメイドの類は特にそうだ。だからスーツは長期的な投資と考え、流行のサイクルに左右されない、クラシックでタイムレスなものを選ぶのがベストだ。そしてできれば、子孫に受け継いでいきたいものである。
とはいえ、“クラシック”とは何だろうか? 時代を超越した、普遍的なサルトリアルを定義するものとは何だろう? 史上最もスタイリッシュな紳士として広く知られている俳優ケーリー・グラントは、1960年代後半、今はなき『This Week』誌に寄稿した記事で、パーソナルスタイルの哲学と選び方、そして完璧なクラシックスーツを選ぶ方法について語っている。
「男の着こなしを決めるのは金だけではない、個人のセンスだ。私はこれまで何十着とスーツを購入してきたが、それらにはある共通点がある。それは、“ファッション”の真ん中にあるものを選ぶということだ。つまり、自意識過剰となって流行を追いすぎてはダメだし、反対に過度な保守主義に固執してもいけない。ラペルは広すぎず狭すぎず、トラウザーズはタイトすぎずルーズすぎず、コートは短すぎず長すぎず、ということだ。極端なスタイルの服を着ることもあるが、それは役にふさわしい服装をするためだけ。私にとっては、常にシンプルであることが良いセンスの本質なのだ」
「男性の服は、女性の服と同じように、体型の最も良いラインを強調し、悪いところを目立たなくするべきものだ。信頼できるスタイルは、常に道の真ん中にある。どんな人間においても、思慮分別のある位置である。真ん中の車線にいれば、より簡単で快適に目的地まで行くことができる。洋服も同じ。簡単で、快適であるべきなのだ」
「もし予算的に1着しか買えないのであれば、私だったらごく控えめなものを選ぶ。黒に近い濃紺で、軽い生地で、昼でも夜でも着られるもの。秋冬であっても、レストラン、オフィス、ショップ、劇場では暖房がよく効いているからだ。2着目だったら、グレイのウーステッドやフランネルが適していると思う。色は薄すぎず、濃すぎずミディアムウエイトで……10オンス以下の布がいいだろう」
「夏の間は、ライトベージュのウォッシャブル・ポプリンのスーツを着ている。安価で、パリッと清潔に保てば、いつでもどこでも、たとえイヴニングでも通用する。それに、別々に着ることもできる。ジャケットは海辺やカントリーサイドでグレイのフラノと合わせられるし、トラウザーズはスポーツシャツとモカシン、あるいは白いキャンバスシューズと合わせられる。ポプリンやシアサッカーのスーツは、特別な社会階級や富裕層のためだけではなく、すべての人が着ていいもの。マナーさえ守れば、自分の装いに自信を持って女性に近づくことができるはずだ」
冒頭で述べたように、スーツを長期的な投資としてとらえることが、グラントからの重要なアドバイスかもしれない。
「いくら払うべきかは、その人がいくら使わなければならないかによる。私はいつも、靴について父からもらったアドバイスを思い出す。『安い靴を4足買うより、いい靴を1足買ったほうがいい』。その言葉は、私がまだ稼いでいなかったとき、心の支えになっていた。上質な革を使った1足は、粗悪な4足よりも長持ちし、手入れさえ行き届いていれば、どんなに古くなってもあなたのセンスの良さを証明し続ける。スーツも同じで、許される中で最良のものを買うべきだ。数は少なくてもいい。株と同じで、ボロ株を150株買うよりも、優良株ひとつに投資する方が賢明なのだ」
クラシックスーツにおいては、王道を歩むことが、結局は近道である。長期的視点を持ち、投資として真剣に考え、道の真ん中をまっすぐ進むこと。そうすれば、これから何十年もの間、最高の仲間たちと一緒に暮らせることだろう。