BLANCPAIN FIFTY FATHOMS
原点であり最先端:フィフティ ファゾムス バチスカーフ
January 2022
ブランパン「フィフティ ファゾムス」は、ダイバーズウォッチの原点。
さらにその派生版である「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」は、海洋に情熱を持つ人たちのための最先端の時計だ。
text TETSUO SHINODA
photography JUN UDAGAWA
フィフティ ファゾムス バチスカーフ
軽くて強度が高く、耐錆性にも優れるダイバーズウォッチの理想的な素材「グレード23 チタン」をケースに採用した新作。グレイのメタリックな色合いは、これまでになかった洗練されたルックスを生み出している。ムーブメントは自社製のキャリバー1315を搭載。シリコン製のパーツを使用して耐磁性を高め、約120時間ものロングパワーリザーブを持つ実用性の高い時計だ。自動巻き、Tiケース、43mm。
時計のデザインは多種多様だ。しかしダイバーズウォッチだけは一貫したデザインコードが存在する。例えば、ラウンドケースとするのはケースバックをねじ込み式にするためであり、ケースに対する水圧のかかり方を均等にするためでもある。大きな針やインデックスは、水中での視認性を確保するためであり、目盛りが入った大きなベゼルは反時計回りにしか回転しないようになっている。
こういった機能を含めたデザインは、すべてのダイバーズウォッチに共通している。いや、むしろ“ダイバーズウォッチ(潜水時計)”と名乗るためにはJISやISOといった規格に準拠していなければならないため、必然的に同じデザインに収斂されていくといったほうが正解だろうか。
では、現在まで続くダイバーズウォッチの骨格を作ったのは誰か? 1940年代に酸素ボンベを背負って水中で行動できるスキューバダイビングの技術が確立されると、海中作業員や海軍の軍人、さらには趣味でダイビングをする人など、多くの人たちが水中に潜るようになった。すると今度はボンベの残量を知るための潜水計器が必要になってくる。それを開発したのが、現存する世界最古のスイス時計ブランド「ブランパン」である。ダイバーズウォッチはあくまで潜水計器として誕生したのだ。
「フィフティ ファゾムス」を着けて潜水するフランス海軍のロベール・“ボブ”・マルビエ大尉。
1950年からブランパンのCEOを務めていたジャン=ジャック・フィスターは、趣味のダイビング中に何度も遭難しかけ、水中で使える正確な計器の必要性を感じていた。また同時期のフランス海軍では、特殊部隊でも隠密作戦をする上で、水中でも正確な時を刻み、しかも潜水経過時間がわかる時計を必要としていた。そこでフランス海軍は、海を愛するCEOが率いるブランパンに潜水時計の製造を依頼する。フィスターは自身のダイビング経験から、ベゼルが反時計回りにしか回らないようにした。これは衝撃でベゼルがズレた場合も、経過時間を過少に示さないようにするためである。
こういった機能的な仕組みを盛り込み、防水性能であった50ファゾムス(「ファゾム」とは水深の単位で、50ファゾムスは約100m)をそのままモデル名とした時計「フィフティ ファゾムス」が1953年に誕生した。これが現代的なダイバーズウォッチの始まりである。さらに1956年には、潜水艇バチスカーフ号の名を冠した「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」が登場。こちらは潜水計器というよりは、マリンスポーツウォッチとしての印象を強めており、ケースは小ぶりでベゼルもシンプルなデザインであった。
「フィフティ ファゾムス」はアメリカ海軍ネイビーシールズにも採用された。
そして現代。2007年にアップデートされて再デビューした「フィフティ ファゾムス」は、初代モデルのスタイルを継承した一方、2013年に再デビューしたバチスカーフは、初代よりもさらにモダンなルックスを纏う。それは“ライフスタイルウォッチ”として生まれた初代の精神を、巧みに取り込んだ結果であろう。
今秋発表されたバチスカーフの最新作(左ページ)では、ケース素材に最高級のチタンといわれる“グレード23 チタン”を採用した。グレイのメタリックなケースの色合いやダイヤルの縦筋目の効果によって、一層モダンに進化させている。歴史的な物語を持つ「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」は、今では海を愛する趣味人たちのための時計として、欠かせないものになっている。
1956年に誕生した初代バチスカーフ。シンプルなベゼルに、大胆なバータイプのインデックスや針となっている。ケース径は37mmと小型だった。