AQUASCUTUM “Kingsway”
男のコートの“王道”を往く
September 2023
ウエストベルト、フラップ、深いバックプリーツなど、実用性を追求した結果、比類ないデザインが生まれた。表素材はGIZAコットンを高密度に織り上げたオリジナルギャバジンAQUA5。うっすらとした光沢を持つ。着用しているうちに身体に馴染んでいく。英国製。¥220,000 Aquascutum(アクアスキュータム aquascutum-press@oggi.co.jp )
筆者が初めてメンズ誌の世界に足を踏み入れた頃(80年代後半)、すでに「定番特集」は存在していた。もちろん雑誌によって選ばれているものは違った。しかし、どの本でも必ずチョイスされている一着があった。それがKingswayである。
トレンチコートの原型を製作したのが誰で、いつ誕生したのかは定かではない。トレンチとは“塹壕”の意味で、戦場に掘られる溝のことである。第一次大戦当時、マシンガンの発明によって、それまでの突撃戦法は通じなくなり、戦線は膠着状態に陥った。塹壕内は雨が降ると水浸しになり、兵士たちは寒さに震えた。
そこで着用されたのが、1851年創業の英国の老舗、アクアスキュータムが開発した防水素材を使ったコートであった。オイル加工を施したウール・ギャバジン製で、雨風で身体が冷えるのを防ぐために全身くまなく機能性が追求された。その結果、装飾性が排されたにもかかわらず、かえって洗練された美がもたらされた。
終戦後、1930年にウール製トレンチコートのデザインをほぼ変えることなく、素材をコットンにしたモデルが発表された。それがKingswayなのだ。以来90年以上にわたり作られ続けている。ラグラン袖、ゆったりとしたシルエット、男心をくすぐるディテール。戦場から生まれたKingswayこそ、定番中の定番なのである。
今ではアクアスキュータムのアイコンとなったクラブチェックの柄は、1976年、創業125周年を記念して発表されたものだ。
レザーで包まれたストラップの留め具。小さなディテールへのこだわりが魅力である。