UNDULATION: EMOTIONAL & NATURAL LAW
元カスタムビルダーが紡ぎ出す唯一無二のアート
March 2025

Hana Kuwai / クワイ華1964年、東京生まれ。看護師、トラック運転手を経て、1998年にハーレーダビッドソン専門のカスタムショップ「BAD LAND」をオープン。2023年にアートブランド「UNDULATION」を立ち上げ、制作を開始。2024年12月のフィリップス オークションで高額落札されるなど、既に国内外から高い評価を得ている。6匹の猫と暮らす愛猫家でもある。
キャンバスという平面の枠を超え、メタリックな塗料が躍動する。独創的な色使いが、渦を巻く。光と影、流動的な美しさが交錯するその表現は、時に力強さを、時に儚さを宿し、見る者を惹きつける。「UNDULATION」は、2023年にクワイ華氏によってスタートしたアートブランドである。その作品には、しばしば龍のモチーフが見られる。根源には、彼が幼少期に見た記憶が深く刻まれている。
「生まれた町の小高い坂の上にある神社の境内で、桜の花びらが舞い散る中、曇天の空に黒い龍の姿を見たんです」
同じく彼の作品に登場する渦巻き模様は、その神社の狛犬の巻き毛を表している。幾多の光のようなラインは、静寂を伴う巨大なうねりとして表現される。
クワイ氏は、異例の経歴を持つ人物だ。幼少期、絵を描くことが大好きだった彼は、祖母が好きだったというゴッホの作品をよく見ていたという。その後、手塚治虫や水島新司の漫画の影響を受けて、ひたすら人物を描くことに没頭した。しかし、やがてロックの世界に夢中になった少年は絵を描くことをやめてしまい、青春時代は絵と無縁の生活を送った。

左:「BAD LAND」で手がけられたカスタムハーレー。右:オレンジの差し色をきかせたヴィンテージのエレキギター。both by Undulation

F8号キャンバス(380×455mm)の作品。右の作品は24金を含んだ特殊塗料を使用。Undulation

左:80年代のベルのヘルメットをカスタム。右:腕時計スタンドのあるオブジェ。both by Undulation

左:ポップな画風の「Silvana」シリーズの1作。F30号(910×727mm)。右:『見返り美人図』へのオマージュ作品。F30号(910×727mm)both by Undulation
高校卒業後は、厳しい父の助言から、かつて母親がしていた看護師となった。手術室勤務で、救命救急の最後の砦としてやりがいを感じる仕事だったが、自分が望んだ道ではなかったために続かず、トラック運転手として働き始めた。その間に始めたハーレーダビッドソン(以下ハーレー)の趣味が高じて、やがてハーレーのパーツの輸入代理店を開く。それも、アメリカではなくヨーロッパのパーツを専門とした。当時は、ドイツを中心にヨーロッパでハーレーがブームとなっていたからだ。彼は35歳で初めて日本を出て、ドイツに降り立った。
「高い技術力や価値観に衝撃を受けました。これだけ素晴らしいパーツをどんな機械で作っているんだろうと思って工場に行ったら、全部手作りだったんですよ。この世界はローテクこそが究極だった。結局は人の手の技術なんだということ、そしてモノづくりの奥深さを学びました」
マイスター制度が確立しているドイツで、トーマス・ハバーマンという板金の神様のような人物と出会った。数多あるカスタムショップのほとんどの看板ハーレーを手がける敏腕カスタムビルダーだ。
「厚さ1.6ミリの鉄板から優美な造形を作るのが素晴らしくて。しかもすごく腰が低くて、日本から訪ねてきた私に一から十まで教えてくれた。『独り占めしちゃダメだ、仲間たちに広めてくれ』って」

「Surge」シリーズの1作。F30号(910×727mm)Undulation

左:「BAD LAND」のガレージの一角。作品の世界観とマッチしたスタイルが印象的だ。右:「Haze」シリーズの1作。F30号(910×727mm)。bot by Undulation

カスタムハーレーが並ぶ「BAD LAND」で。

横浜獅子ケ谷ギャラリーに並ぶ作品の数々。
クワイ氏はカスタムショップ「BAD LAND」を立ち上げ、カスタムビルダーとしてこの業界で功成り名遂げた。そこからアーティストへの転身は、カスタムビルダーの経験と芸術への関心がなければ叶わなかった。技術的な精緻さと美的センスを求められる仕事は彼に「モノづくり」の本質を教え、また幼少期から培われた創造力はアートという形で結実した。
「制作には、常に苦悩があります。私の作品作りは、クロムメッキの代替として登場した塗料を扱うところから始まりました。ナノ化した銀を含んだその特殊塗料を塗るのには、非常に高度な技術が必要で、習得するのに8年もかかりました」
特殊塗料を扱う過程で、彼はその美しさの芸術的可能性に気づくこととなった。
「失敗があったからこそ今の自分があります。重ね塗りの過程で乾燥がうまくいかず、塗膜が剝がれてしまうこともありましたが、剝がれた部分に新たな美しさを見出し、創造のヒントを得ました」
アイデアの源泉についてはこう語る。

2024年12月、香港で開催されたフィリップスのオークション「エディション フォトグラフ&デザイン」において、「UNDULATION Dragon 金龍」(F50号、1167×910mm)が出品され、107万9500香港ドル(約2159万円)で落札された。これは事前予想の3倍以上の価格であり、当日のオークションレコードを記録した。龍と渦巻きのモチーフを大胆に黄金で表現した本作は、卓越した技術と独創性を象徴する作品。「UNDULATION」の作品が国内外のコレクターやアート市場で高く評価されたことを明確に示している。彼の作品が今後さらに世界という舞台で注目を集めることは間違いない。
「この歳になって、自分でも驚くほどインスピレーションが湧いてくるんですよ。朝起きたときが多いです。大体、前日にもがいていたときですね。今はアーティストとしてアトリエにひとりでいるんですが、不思議なことに落ち着くべきところに落ち着いた感覚があります」
さまざまな道を歩んできて、ようやくこの場所に辿り着いた。アーティストという今が天職なのかもしれない。一方、失敗を積み重ねて着実に技術を会得する、不器用ながら遠回りする、そんなところにまだ職人的な気質をも垣間見る。
「自分の思いきりの悪いところで、もっと早くやってればよかったんですけど……やはり遠回りしてしまうんですよね」
クワイ氏は、誰にも真似できないものを作り上げることにこだわり続ける。
「これは多分、誰にもできないこと。誰もやっていないものを作り続けたい」と彼は言う。その言葉からは、培われた技術への深い愛情とともに、アートに対する真摯な姿勢を感じずにはいられない。
UNDULATION:
横浜獅子ケ谷ギャラリー
神奈川県横浜市鶴見区獅子ケ谷2-39-45
TEL.045-717-7026
定休日:毎週水曜日、第1・第3火曜日
営業時間:10:00 〜 18:00
UNDULATION:
東京ギャラリー
東京都港区新橋2-5-5 新橋2丁目MTビル7階
TEL.03-6627-3577
定休日:土曜日、日曜日、祝日
営業時間:10:00 〜 17:00
お問い合わせ先
hiro stage TEL.03-6627-3577
https://undulation.black