THE NEW MASTERS

藤田雄宏が勧めるビスポーク職人 02
杉山 和英

May 2022

ITの世界から鞄職人の道を歩む
KAZAMINO

服に寄り添う鞄を作りたいという思いが強い杉山氏がラインナップしている革には、奇を衒ったものがない。ほぼ牛革で、特に写真のようなゴールド系がお気に入りだ。最もカザミノらしいデザインが、こちらのスリムアタッシェケース。上:アース社のヴォー・エプソンで作られたスモールサイズ。¥297,000、右:ワインハイマー社のワープロラクスで作られたミドルサイズ。¥385,000、左:デュプイ社のシャトーブリアンで作られた特大サイズ。¥550,000

 サルトリア コルコスでは10年以上オーダーし続けているという。スーツはほかにカヴートでも仕立てていて、靴はイル ミーチョやスピーゴラ、イル クアドリフォリオ、アキラ タニなどで作っている。が、鞄に関しては発想がユニークだった。もともと量産の鞄作りをされていた奥様に手縫い鞄作りの教室に通ってもらい、自分のための手縫い鞄を作ってもらおうと、杉山和英氏は目論んだのだ。

 が、ある日オルタスの小松直幸氏の鞄作り教室に見学に行ったところ、あまりに楽しくて自身が鞄作りにのめり込んでしまった。IT系の会社員として多忙な日々を送りながらも、気がつけば10年間、毎週土曜日の夜に通い続けていた。遂には上の写真のような大変美しい鞄を作れるまで、実力をつけたのだった。

会社員で多忙な中、平日に鞄作りに割けるのは毎日1~2時間のため、今までは知り合いから頼まれた鞄を作るのみで、これまで納品した数は10ちょっと。5月からようやく鞄作りに専念できる。布の内張りなどはミシン縫いのほうが耐久性があっていいと考えているが、まだミシンを揃えていないので、現状すべて手縫い。5月までに体制を整えていく。

 手縫いの鞄はときに存在感が強すぎて鞄がひとり歩きしてしまうが、フィレンツェの服を心の底から愛している杉山氏の丸っこい鞄には、イタリアの優雅なサルトリア仕立ての服にぴったり寄り添う美しさがある。コルコスの宮平康太郎氏や日本で最もイタリア血中濃度が高いビスポーク靴職人イル クアドリフォリオの久内淳史氏が愛用しているのも頷ける。

ワインハイマーの3mmほどの厚みがあるシュリンクレザー。1枚の革で芯地がないので本体よりもストラップが非常に凝っていて、大変な時間がかかる。¥418,000

 杉山氏は今回、とても大きな決断を下した。勤めている会社を4月いっぱいで退職し、自身とお嬢様の名前をアレンジした“Kazamino”の名を新たに冠し、鞄職人として新たな道を歩むことにしたのだ。

 これだけ柔らかな表情をした手縫い鞄は唯一無二だ。サルトリア仕立ての服を愛する人たちの心を瞬く間にわし摑みにしてしまうのが、容易に想像できる。

左:写真のソフトアタッシェの内装には、イタリア製のジャカード織りの布を使用している。もちろん、ゴートなどの革を選ぶこともできる。また、用途によってポケットの有無、仕様などを変えられる。右:決まったデザインでオーダーしても、ハンドルの厚さは好みに応じて変えられる。

ORTUS(オルタス)
小松直幸氏の鞄作り教室で
手がけた思い出の作品
小松直幸氏の鞄作り教室での課題で作ったのが、こちら。右が最初に作った包丁入れで、左のカートリッジバッグが三つめに作ったもの。ふたつめが手帳だったので、実際に縫った鞄は、これが初めてとなった。小松氏が引いた型紙を使用し、授業の中で作り上げた。通い始めて間もない頃に縫った初めての鞄ゆえ、手縫いのステッチはまだ粗いが、手縫い鞄ならではの温もりが感じられる。年月とともに味わいが増していくのもいい。

Kazuhide Sugiyama / 杉山 和英1974年、静岡県生まれ。10年前からオルタスの小松直幸氏の鞄作り教室に通い始める。勤めているIT系企業を4月いっぱいで退職し、5月より手縫い鞄ブランド「カザミノ」を始動する。この日は、サルトリア コルコスで仕立てたジャケットに、タイ・ユア・タイのシャツという出で立ち。

KAZAMINOオーダーをご希望の方は、info@kazamino.comまでお問い合わせを。納期は決まったデザインでのオーダーで約6カ月~、デザインからのビスポークの場合、仮縫い込みで約1年~。

本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44

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