The Five Greatest Regions of Persian Carpet Production
ペルシャ絨毯五大産地と、その特徴
March 2022
中でも流通量が多く、品質管理も徹底されている代表的な五大産地を解説する。
●TABRIZ【タブリーズ】国境に近いため、イラン西側におけるシルクロードの玄関口であり、古くから交易の要所として繁栄した。かつてはペルシャのほとんどの絨毯が、この町からヨーロッパへ運ばれたという。イラン国内でも最も近代的な工房が多く、品質管理も徹底されている。ナイフと鉤針を合わせた独特の道具を用いる「トルコ結び」は、結び目が非常に細かくなるため、機械織りと間違えられるほどの技術の高さである。デザインは非常に豊富で、絵画絨毯などに見られるように、自然や動植物、人物の姿をそのまま写しとったような結びと色彩の表現力が素晴らしい。日本でも人気の「マヒ(魚)」の文様や、ピンクや赤などの花柄文様も多く見られる。クラシカルな雰囲気に合うバラの花などのデザインは、特にヨーロッパにおいて高い評価を得ている。
●QUM【クム】1930年代半ばから生産が始まった、イランの中でも歴史の浅い新興の産地。イスラム教シーア派の聖地であり、宗教色の強い町であるが、絨毯の生産においては伝統に縛られることなく技術と意匠を貪欲に取り入れることで、革新的かつ芸術的なデザインのための技術を確立した。「シルク製=クム」といえるほどオールシルクの絨毯に力を注いでおり、生産数の90%以上がシルク製である。イスファハンやカシャンの伝統的なデザインや技術を取り入れつつも、シルクならではの滑らかな肌触りや、上質な光沢、発色のよさを巧みに生かし、他の産地には見られない斬新な色調とデザインを生み出している。特に黒やベージュといったシックな配色の絨毯は、洗練されたモダンなインテリアにもマッチしやすく、日本でも特に人気を博している。
●KASHAN【カシャン】イラン中北部の乾燥地帯にあり、絨毯の産地としてだけでなく、陶器やタイルなどでも古くから知られている工芸の町。一時、絨毯産業は衰退していたが、ある日ひとりの商人がイギリス・マンチェスターから仕入れたメリノウールを使って絨毯を織ることを思いつき試作したところ、思いがけず素晴らしい出来となり、それ以来カシャンの絨毯産業が復興したという。奇を衒った文様や外国人の嗜好に合わせたようなものはなく、典型的なメダリオンと唐草文様が取り入れられた、均整の取れたオーソドックスなデザインが特徴である。色調は赤や紺、ベージュなどをメインとしているほか、「ホワイトカシャン」と呼ばれるベージュ系の配色も存在する。また、近年は「カシャンシルク」という高品質のシルクを用いた絨毯もわずかながら生産している。
●ISFAHAN【イスファハン】イスファハン州の州都で、イラン第2の人口の都市。2600年以上の歴史を持つ古都で、古くから東西南北を結ぶ交通の要衝、政治・文化の拠点として栄えてきた。また、美しく荘厳な宮殿や寺院が建ち並んでいるため、中東随一の観光地としても知られる。16世紀から17世紀にかけてはサファヴィー朝の首都であったため、このときに王室専用の絨毯工房がスタート。やがてペルシャ絨毯の産地として発展した。そのデザインは長い歴史と伝統を色濃く継承したもので、モスクの中から天井を見上げたような「ゴンバッティ」やメダリオンを、唐草文様によって囲むものが多いのが特徴。非常に細かい織りと繊細で華麗な色調とを見事に融合させている。品質と格調の高さは世界的にも評価され、“キング・オブ・カーペット”の異名を持つ。
●NAIN【ナイン】19世期末から絨毯の製作がスタートした、イランの中でも比較的新しい産地である。地理的に近いイスファハンの職人たちからの指導を受けて発展したため、その影響が強く、メダリオンと唐草文様を用いた正統派好みの古典的なデザインが多く見られる。ベージュやクリーム色などの優しく淡い色合いをベースカラーとし、そこにブルーや白などを入れて落ち着いた配色とするのが得意である。和のテイストにも洋のテイストにも合わせやすい汎用性が魅力で、部屋の印象を明るくする効果もあるため、初心者に特におすすめだ。素材は基本的にウールを用いており、経糸を少ない糸(「チャハラ」=4本)で撚っているため、それだけ経糸は細く、また結びも非常に細かいものとなっている。全体的に重量が軽いのも特徴である。