CICCIO “Double Face Coat”
THE BESPOKE MASTERPIECE 002:
チッチオのダブルフェイス・コート
June 2022
革命的な柔らかさ
2021年春に開発したダブルフェイス・ジャケット(本誌issue39でも紹介している)の発想を、コートに応用して考案した芯地入りダブルフェイス・コート。今回はより薄く柔らかい芯地に変更するなど、さらなる改良も施している。生地はとろけるような極上カシミア。既製品ではまず用いられない、突き抜けたラグジュアリー素材も本作ならではの魅力だ。納期は約6カ月〜。¥1,023,000〜
いつも控えめなチッチオ上木氏だが、このコートに関しては珍しく自信を隠さない。実際に羽織ってみれば、なるほどこれはと合点がいくはず。何しろ、思わず溜息が出るほどに着心地がいいのだ。
上質なダブルフェイス・コートを着たことがある人なら、ローブのような軽さは想像できることだろう。それに加えて、首から肩にかけて吸い付くようなフィット感も見事キープしているのが実に新鮮。一枚仕立てのリラックス感とビスポークならではの着心地を両立させているところに、このコート特有の素晴らしさがあるのだ。
実はこちら、二枚重ねになっているダブルフェイス生地を手で剥ぎ、その間に芯地を据えてから再び縫い閉じるという、まるで外科手術のような技法で仕立てられている。既存のダブルフェイス・コートは素材の特性上、芯地を用いずに作るのが一般的だが、この離れ技を用いれば一枚仕立ての柔らかさをキープしつつ、先に述べた “吸い付き感”を生み出せるというわけだ。もちろん、上襟のノボリやショルダーライン、ラペルのロールといった立体美も一般的なダブルフェイス・コートとは段違いである。
左:ノーマル袖をハウススタイルとするチッチオだが、裏地を付けない本作ではマニカ・カミーチャを採用。見た目の雰囲気もより柔らかい印象になっている。右:襟を立てると、ダブルフェイスの内側が覗いて着こなしのアクセントに。あえて“どんでん返し”といわれる簡素な仕立てにも見えるよう作られているが、これは上木氏の遊び心によるものだ。
さらに上木氏がこのコート用に推す生地も絶品。左の一着は目付け730g/mもあるフラテッリ チェルッティのカシミアで仕立てたものだが、ヘビーウェイトカシミアならではのしっとりとした肌触り、極上の繊細さによって、えもいわれぬラグジュアリー感を味わえる。繰り返しになるが、生地はヘビーウェイトでも仕立ての妙により、着心地は圧倒的に軽やかだ。素材も手間のかけ方も格別ゆえ当然値は張るが、ひとたび羽織れば必ずや食指が動くはず。もしチャンスがあれば、是非とも試着してみてほしい。“これは、ビスポーク・コートの革命だ!”と、心中で思わず快哉を叫ぶことになるだろう。
左:フラテッリ チェルッティのカシミア/左ページの一着に用いた生地の色違い。ビーバータッチによる極上の滑らかさに加え、渋みのあるグリーンとグレイのコンビがクラシックで美しい。730g/m。中:ロロ・ピアーナのウールカシミア/本来はウィメンズ用だという、ウール70%+カシミア30%のファブリック。目付けは620g/mで、この中では若干ライトウェイトだ。より軽さを求める人におすすめ。右:ロロ・ピアーナのカシミア/こちらはカシミア100%で、両面同色のダブルフェイス生地。目付けは800g/mもあり、非常にラグジュアリーな表情を味わうことができる。ドレープ感も最高にリッチ。
Noriyuki Ueki / 上木規至1978年生まれ。2003年にナポリへ渡り、ダルクオーレとアントニオ・パスカリエッロで計4年半修業。2015年に自らのサルトリアをオープン。ビジネスエグゼクティブからアーティストまで、世界中に幅広い顧客をもつ。
サルトリア チッチオ東京都港区南青山5-4-43
TEL.03-6433-5567
営業時間11:00〜19:00 ※完全アポイント制
日曜、第1・3水曜定休
www.ciccio.co.jp
本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 44