BATAK “Dinner Jacket”

THE BESPOKE MASTERPIECE 001:
バタクのディナー・ジャケット

June 2022

フォーマルでこそ映える
絶品の“ドレープ

わずかに弧を描くラペルや控えめにラウンドした裾など、端正でありながら穏やかさも感じさせる一着。ウエストコート(ベスト)はジャケットの前ボタンを留めるとほとんど見えないようにデザインされている。ちなみに色はミッドナイトネイビーより、“できるだけ黒いブラック”が中寺氏のおすすめだ。納期は約4〜5カ月。¥440,000〜

 普段はナポリ仕立てのような軽く柔らかいスーツを愛好していても、フォーマルシーンとなれば構築美のある服を着て臨む。社交に慣れた人ほど、そんな風に“仕立ての使い分け”を実践していることが多い。特別な場所へ赴く際には、普段と違う意識で服を選んでみるのも面白いものだ。

 そんな視点に立ったとき、バタクのディナー・ジャケットは万人にとってのベストチョイスとなりえるだろう。自然に“空気”を含むような、適度にゆとりのある胸回り、そこから優雅にシェイプされたウエスト、パンツへと自然に繋がる裾。ドレープ・スーツとよばれる、クラシックの正統に則った一着である。生地やデザインが決まっているディナー・ジャケットだからこそ、仕立てそのもののエレガンスが際立っていることに気づくはずだ。ミッドセンチュリーの家具や数々のアートに囲まれながら仕事をこなし、休日にはフィルムカメラで写真を撮るとびきりのジェントルマン、中寺氏の人となりを、そのまま体現したかのような佇まいである。

左:ブリティッシュスタイルを思わせる、やや長めのボタンホール。しかし決して誇張的ではなく、あくまで控えめに施されている。もちろん、大変綺麗に整っていて美しい。中:ディナー・ジャケットの場合も、仕立ては基本的にバタクのスーツと同様。パッドや芯地を用いてフォルムを整えてはいるものの、実は大変柔らかなソフトテーラリングゆえ、普段イタリア系スーツを愛用する人も堅苦しさを感じることはないだろう。右:ビジネススーツに取り付けるものと比べて、ひと周り小さい袖ボタンを採用している。フォーマルウェアはより控えめに仕上げたいという中寺氏の思想ゆえだ。

 ディナー・ジャケットを着る機会などそうあるものでは……と二の足を踏む人もいるかもしれない。が、中寺氏は言う。

「ディナー・ジャケットは本来、正礼装であるテールコートよりもカジュアルに位置づけられる服です。ですから、実は想像よりも活用できるシーンはずっと多い。例えば格式のあるレストランでプライベートなディナーを楽しむ際、ポケットチーフやウエストコートを外してサラッと着てもいいのです。盛りすぎはいただけませんが、逆に“引き算”で遊ぶのはお洒落だと思いますね。私どものお客様でも、そういうふうに日常使いされている方は多くいらっしゃいます。ディナー・ジャケットもある程度“着慣れる”ことが大切ですから、ぜひ日頃から親しんでいただきたいですね」

 世界はいまだコロナ禍の中にあるが、それでも少しずつ社会は動きだしている。やがて戻ってくるであろう華やかなハレの場に備えて、あるいは日常に静かな高揚感をもたらすアクセントとして、格別の品格を備えたディナー・ジャケットを仕立てることは、極めて意義深いはずだ。

胸周りに空気を含むような、柔らかいボリュームをもたせているのがドレープ・スーツの特徴。バタクが最も得意とするスタイルであり、年齢を重ねた男にこそ似合う仕立てだ。

Hiroyoshi Nakadera / 中寺広吉1965年生まれ。大手ブランドのパタンナーを経て1994年にバタクを創業。新宿御苑前にアトリエ兼ビスポークサロンを構える。常に物腰柔らかで一挙一動が優雅、ジェントルマンを絵に描いたような佇まいに心酔するファン多数。

バタク 日比谷東京都千代田区有楽町1-2-14 紫ビル2F
TEL.03-5510-6902 営業時間11:00〜20:00 水曜定休
http://batak.jp

本記事は2022年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44

Contents