今、作るべきビスポークの職人02
【SARTORIAL COUTURE】精密性と創造性のクラシック:杉本浩一
May 2024
Koichi Sugimoto / 杉本 浩一1985年生まれ。2010年に渡英。リチャード ジェームスでアプレンティスカッターをしながら、終業後は現ノートン&サンズのマーティン・ニコールズ氏に師事。2012年に帰国し、ダンヒルのビスポーク専任者を務めたのち、別のラグジュアリーブランドを経て2023年9月、「サルトリアル クチュール」を始動。
構築的でありながら色気に満ちている。サヴィル・ロウで学んだことがベースにあるのは瞬時にわかるが、杉本浩一氏の服は、とても若々しくモダンに映る。実際に羽織ると驚くほど軽く、サヴィル・ロウと聞いてイメージする服とはおおよそかけ離れていることに改めて気づかされる。極薄の肩パッドを用い、最後にロープを形成しているので気張った感じがなく、胸回りのタッチも驚くほど柔らかい。しっかりした生地にはしっかりした芯地を合わせるサヴィル・ロウに対し、生地のポテンシャルで立体をキープさせることで、極力柔らかな芯地を最小限に使うにとどめているからだ。
スタイルのミックス感もユニークだ。身体が前に旋回した前肩の日本人体型に合わせ、ドレープを強調せず前身頃をコンパクトに設計し、アームホールの刳(くり)を高く設定しているので、イタリアの服を愛する人でも自然と入っていける懐の深さ、色気を備えている。身体に沿わせたそのフォルムは、サヴィル・ロウのテーラーの中では前身頃がコンパクトだったかつてのハンツマンに通じるものがある。これは、杉本氏の師匠であり、かつてハンツマンのシニアカッターを務めていたこともあるマーティン・ニコールズ氏のスタイルからの影響だという。
左はスミス ウールンズの「オリジナル ソラーロ」で仕立て中のジャケットと、W.ビルのローデンクロス(ウール80%、アルパカ20%)で仕立てられた杉本氏の私物のポロコート。
杉本氏はカッターの仕事に専念し、そこから先は3名のテーラーが担っている点にも注目したい。杉本氏を含め、なんと4名全員がサヴィル・ロウで修業を積んだ経歴をもつ。皆が本場の仕立て、空気感を体感してきた中で、そこから発展させて生まれたのが、サルトリアルの精密性とクチュールの創造性が見事にハーモニーを奏でる“サルトリアル クチュール”なのだ。修業時代、師匠のマーティン・ニコールズ氏が仕立てのコンセプトに掲げていた“サルトリアル クチュール”というフレーズは、まさに杉本氏の服作りを表した言い得て妙な言葉だとつくづく思う。衝撃的なデビューじゃないか!
裁断道具はすべて英国製にこだわっている。ウィルキンソンの裁断鋏は50年以上前のもの。スクエアルーラーは、引退するカッターから譲り受けた。すべて“インチ”で計算して型紙を引いている。
スミス ウールンズの「フィンメレスコ」4プライで仕立てたスーツを着用している杉本氏。氏のカットは色気に満ちている。
スーツ ¥454,000〜、ジャケット¥332,000〜、ウエストコート ¥124,000〜、トラウザーズ¥123,000〜、オーヴァーコート ¥413,000〜(すべてビスポーク)。仮縫いは2回、納期は約5カ月〜。
Email: koichi.sugimoto@sartorial-couture.com
本記事は2024年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。
THE RAKE JAPAN EDITION issue 56