僕の想像の遙か上をいく服を仕立てた サルトリア コルコスの宮平康太郎①
Sunday, January 5th, 2020
宮平康太郎。1982年、大阪府生まれ。16歳でセレクトショップの販売員、その後リングヂャケットの貝塚工場を経て、2004年にフィレンツェに渡る。セミナーラで4年、フランチェスコ グイーダのもとで3年、その間ナポリにも通って修業を積み、2011年に独立。フィレンツェにサルトリア コルコスを構える。
僕がナポリのスーツを初めてオーダーしたのは今からちょうど20年前。今日まで継続してナポリで服を仕立ててきたけれど、ずっと仕立て続けたいと思えるナポリの仕立て屋とは、実はそんなに多く出逢えていない。
職業柄よく「どこの仕立て屋がオススメですか?」と訊かれるが、それは答えに窮する質問だ。仕立て屋の何に重きを置いているかで人それぞれ答えは変わってくるからだ。僕個人に限って言えば、スタイルもカットも仕立ての技術も大切だけれど、それと同じくらいその人のパーソナリティも大切にしている。リスペクトできる人柄であることが絶対条件なのだ。僕が相手のスタイルを理解しているのが前提だが、相手もその中で僕の好みを理解してくれたうえで生地提案をしてくれるとなおいい。ただ、上記の条件をすべて満たしていても、作ってみないとわからない「相性」という極めて漠然としたものがあり、しかもビスポークにおいてはそれはかなりの比重を占める要素だったりする。
僕の大好きなアントニオ・パニコ氏のスタイルは、ある人にとってはクラシックすぎるかもしれないし、もっと別の部分でマエストロから滲み出る迫力そのものを受け入れられない可能性だってある。また、世界一のウェルドレッサーだと思っているマリアーノ・ルビナッチ氏のラインは、ナポリの服にしては線が強く感じるかもしれない。人間的にも非常に尊敬しているジェンナーロ・ソリート氏のラインは、同じように人によってはスポーティで若々しい印象に映るだろう。すべての人を満足させられるサルトなんて、この世に存在しないのだ。
前置きが長くなってしまったが、ナポリにおける僕の好みのサルトリアは上記3つだ。共通しているのは、皆70歳を超えた超ベテランで、プロフェッショナル中のプロフェッショナルであることだ。スタイルはそれぞれまるで異なる。サルトの仕事というのはゴールのないまっすぐの道をゆっくり歩き続けるような仕事であるから、長年の経験は仕事に円熟味を生みだす。経験は絶対の武器なのだ。
ただし、2018年、僕の価値観は大きく覆された。いや、価値観は変わっていないんだけれど、例外があることを知ったのだ。フィレンツェの「サルトリア コルコス」の宮平康太郎氏が、これ以上ないくらいに満足のいくスーツを仕立ててくれたのだ。宮平氏とは知り合って8年になるが、僕はナポリのサルトを贔屓にしていたので、彼に服を仕立ててもらうのは、これが初めてだった。彼は、完璧にというよりは、僕の想像のはるか上をいくステージで楽しませてくれ、服を仕立ててくれたのだ。それはひとつのドラマのように、今思えばプロローグは出会った当初から始まっていた。
そんなわけで、次回は彼についてご紹介したい。
写真・文 藤田雄宏