From Kentaro Matsuo

THE RAKE JAPAN 編集長、松尾健太郎が取材した、ベスト・ドレッサーたちの肖像。”お洒落な男”とは何か、を追求しています!

「シューズ・イン・ソックス」生みの親
沖哲也さん

Thursday, August 10th, 2017

沖哲也さん

 ACATEブランドディレクター、FER BLEU代表取締役

 text kentaro matsuo  photography tatsuya ozawa

_RL_2765

新ブランドACATEディレクターの沖哲也さんです。沖さんは、もともとセレクトショップ、バセットウォーカーのPRをなさっていたので、ご存知の方も多いと思います。今回初めて知ったのですが、沖さんのご出身は、東京・墨田区押上だとか。

「スカイツリーのたもとで生まれました。もう、ものすごい下町です。家の周りには、メリヤス問屋がたくさんありました。私の母親はお洒落が好きな人で、私が小学校の頃は、よくイッセイ ミヤケなんかを着ていましたね。その影響で私もファッションが好きになりました」

 

その後、文化服装学院に入学し、オートクチュールを学びます。

「ところが当時の下町では、家業を継がず“文服”なんて、と思われていた。しかもその頃はDCブーム全盛で、私も金髪でスカートを履いていました。もう押上では、塩をかけられる存在でした(笑)」

 

バセットウォーカーに入社されてからは、まず販売を担当されました。

「入社当時は、いくら接客しても、まったく服が売れませんでした。“お客様の財布と自分の財布は違う”という当たり前のことに気付いてから、少しずつ売ることが出来るようになりました」

 

それからPRも掛け持ちするようになりましたが、予算はゼロだったそうです。

「いろいろと考えたあげく、私は編集者やスタイリストの『三河屋さんになろう』と思いました。つまり、彼らの御用聞きということです。自ら企画やウケそうなネタを作って、彼らのところへ持っていきました。私自身の自宅に雑誌編集者を呼んで、編集会議をやったこともあります」

 

こうして生まれた大ヒットが、シューズ・イン・ソックスです。

「当時は夏になると、誰もが裸足でシューズを履いていました。でも、すぐ臭くなるし、衛生上よくなかった。そこで、ローファーの内側に履けて、外からは見えないソックスのアイデアを思いつきました。ですが、そのアイデアをメーカーに持っていっても、相手にしてもらえなかった。そんな時にイタリアのマレルバ社に、冷え防止のためのインナーソックス(靴下の下に履くソックス)があることを発見しました。これがローファー用としてぴったりだったのです。靴を履くと外から見えなくて、まるで素足のようでした。『これだ!』と思って、ぜんぶ買い占めました。すると懇意にしていたスタイリストの浅野康一さんが気に入ってくれて、雑誌メンズ・イーエックスの巻頭で紹介してくれた。そうしたら、もうバカ売れで、ついには“お一人様一足しか売れません”と貼り出す始末となりました」

_RL_2803

 スーツはオラッツィオ。

「マットなベージュなのに、ウール素材というところが気に入って」

 

シャツはバルバ。

「最近はバルバの“ブルーノ”というモデルが気に入っています。襟の形がいいし、エッジぎりぎりにステッチが入っているところが好きなんです」

 

タイはマリネッラ。

「ちょうどいい茶色。フレスコタッチが気に入って」

 

チーフはエルメス。

「シルクチーフはエルメスのみ。レギュラー品も購入しますが、パリの蚤の市クリニャンクールなどでも買い集めています」

_RL_2811

時計はチュードル。ちょっと小さめのMINI SUBですね。

「この時計は14歳のころから愛用しています。昔、香港で祖父に買ってもらったものです。第二次大戦中に中国へ出征していた祖父は、かの地をもう一度訪れたいという希望があり、なぜか私を伴って二人で中国旅行へ出かけたのです。祖父は大正モダンを感じさせる粋な人でした。それ以降も時計はいろいろと買いましたが、結局これだけが残りました」

 

シューズはクロケット&ジョーンズ。

「みんなタッセル履いているから、嫌だなーと思いつつ・・(笑)」

 はい、当日の私もクロケットのタッセルを履いていました。

_RL_2822

 そしてクラッチバッグはACATEです。

「日本のみならず、世界で売っていけるカバンを作りたい、とクライアントであるGRADYsrlの赤石社長より依頼がありスタートしたブランドです。工場探しから始めて、何回もサンプルを作って、ようやく満足のいく形となりました。あえてバッグデザイナーは使いませんでした。なぜならデザイナーが作ると、どうしてもバッグ自体が主張してしまうからです。われわれがやりたかったのは、コーディネイトの中に自然と取り入れられる目立たないバッグでした。ファースト・コレクションは4型8色のみ。しかも売れ筋(35〜40cmのブリーフケース)はあえてやりませんでした。その方がかえってコンセプトが伝わると思ったからです」

 

6月のピッティにも出展され、国内外30社以上の受注を得ました。

「今までのレザーブランドにはないものを作ろうと思っています。セカンド・コレクションでは、“ロングホーズ・ケース”を作ろうと思っています。旅行中などに長靴下を収納するためのものです。でも、そんなもの誰も見たことがないから、どういう構造にしようかと、いま思案中なのです(笑)」

 

この自由な発想から生み出されるACATEに、ぜひ注目して下さい!

_RL_2829

ACATEのバッグ、左:H35×W50×D18cm 右:H35×W48×D14cm

Acate

http://acate-borsa.it/