WHERE TO EAT AND DRINK IN PENANG NOW

ペナン、進化する美食の島

December 2025

伝統的な食文化と、ユネスコ世界遺産にも登録された美しい街並みを誇るペナン島に、洗練された新世代のレストランとバーが続々と登場している。アジアの次なるグルメデスティネーションとして注目を集めるペナンの魅力に迫る。
text yukina tokida

モダンガストロノミー「Au Jardin」の、地元産の鴨を使ったシグネチャーディッシュのひとつ。鴨のお腹に藁やスパイスを詰めて14日間熟成。サーブ直前に皮に切り込みを入れ、骨ごとオーブンで焼き上げる。

 マレーシアの北西部に位置するペナン島。この島は、18世紀末にイギリス東インド会社の貿易拠点として開かれ、中国系移民や、インドやアラブの商人、そしてヨーロッパの文化が交わる多民族都市として発展してきた。なかでもパステルカラーのカラフルな外壁やアーチ型のエントランスといったコロニアル様式の建築と、中国、マレー、インド文化が交ざり合う旧市街ジョージタウンの街並みは、アジア随一の美しさを誇る。

 2008年にユネスコ世界遺産に登録されてから、ジョージタウンは歴史を守りながら新しい感性を取り入れ続けている。コロニアル様式の建物内ではブティックホテルやレストラン、モダンなカフェが賑わいを見せており、なかでも急速に進化を遂げているのがフード&バーシーンだ。伝統を再解釈し、地のものを多用しながら、ひと皿の料理や一杯のカクテルへと昇華させるシェフやバーテンダーが次々と現れている。歴史の重みと自由な創造性。このふたつが共存する場所に、今ペナンの真価が発揮されている。

多文化が融合するいま最もアツいペナン島


ペナン島は面積が東京23区の半分ほどしかない小さな島。日本からは直行便がなく、クアラルンプールやシンガポール、香港やバンコク経由でペナン国際空港へ。所要時間はおよそ8〜9時間。アジア屈指のビーチリゾートとしても知られる。

フーディたちが目指す地ペナン そんなペナン島のフードシーンを語る上で欠かせないのが、フレンチの技法を軸にしたモダンガストロノミー「Au Jardin」を率いるキム・ホック・スー氏と、創作ファインダイニング「Gēn」のジョンソン・ウォン氏のふたりのシェフである。

 前者の「Au Jardin」が店を構えるのは、かつてバスの車庫だった建物をリノベーションしたアートスペースの一角。トタンで覆われたインダストリアルな外観とは裏腹に、店内には温もりと洗練が共存する静謐な空間が広がる。1階にはオープンキッチンが見えるダイニング、2階にはプライベートルームがあり、“庭”を意味する店名のような穏やかな雰囲気に包まれている。

 2018年のオープン以来、同店はペナンを代表するレストランとして評価を高め、2023年にはミシュラン一ツ星を獲得。シェフが掲げる哲学「La Cuisine Naturelle(自然の料理)」を表現するべく、土地の恵みを最大限に生かしながら、キムが修業を重ねたフレンチの技法で繊細かつ奥行きのある味わいを引き出している。食材の85%はマレーシア国内の農家から仕入れ、そのうち65%は店から20km圏内という徹底したローカル志向だ。

 コース仕立ての料理は、前菜からデザートまで遊び心と工夫に満ちている。なかでもハイライトは、コニャックや藁、地元のスパイスで熟成させた鴨のロースト。14日間じっくり熟成させた鴨を、提供直前に皮に切れ目を入れてこんがりと焼き上げ(写真1枚目)、鮮やかなピンク色に仕上げたひと皿だ。鴨肉をさらに引き立てるのが季節の野菜や果物。訪れた日には丁寧に下拵えされたバナナの花や、発酵グアバのピューレなどを合わせ、その味わいに奥行きをもたらしていた。

左:パンとバターも絶品。左下は多くのゲストを虜にするトマトチャツネバター。右:シェフのキムはペナン島出身。「The White Hart」や「Freemasons Arms by Wiswell」といった英国を代表するガストロパブをはじめとする数々の名店での修業を経て帰国。2018年に同店をオープンさせた。

白やベージュ、ゴールドを基調とした店内。写真に写っていない手前側には、カウンター席とオープンキッチンが広がっている。
Restaurant Au Jardin125, Jalan Timah, 10150 George town, Penang
TEL. +60-12-428-9594
Instagram: @restaurantaujardin

料理を通してマレーシアを伝える 一方、少し北東へ歩みを進めると、ジョンソン氏が手がける「Gēn」に辿り着く。漢字で“根”を意味する店名にある通り、同店はマレーシアという土地と食文化の“根っこ”に立ち返ることをコンセプトに掲げ、その時に最も新鮮で旬な食材を使うことを大事にしている。

 マレーシア出身のジョンソン氏は、シドニーのル・コルドン・ブルーを卒業後、マカオの「Joël Robuchon」やコペンハーゲンの「Noma」といった世界中の名だたるレストランで経験を重ねた人物。2016年に母国へ戻り、2018年に「Gēn」を立ち上げた。2024年にはミシュランの「Young Chef Award」を受賞した彼は、今ペナンで注目される若きシェフのひとりといえる。

 一面ガラス張りの壁を柔らかなカーテンが包む店内。アクセントを添える紺色のナプキンや、木や石材の質感が、温かくも凜とした空気感を醸し出している。奥まで見えるオープンキッチンのおかげで、ゲストは各テーブルからシェフたちの繊細な手仕事を間近に感じることもできる。同店で供される料理は、伝統的な風味を現代的に再構築したもの。マレーシア各地の旬の食材を、驚きと洗練をもって皿の上でモダンに表現している。コースはランチ8皿、ディナー11皿のテイスティングスタイル。なかでも印象に残ったのは締めに提供されるカレー。主役は淡水魚のジェイドパーチ。しっとりと火入れされた身はふっくらとしており、そこにパンダンが香るお米の優しい甘みと、海藻のミネラル感やコリコリとした食感が重なる。25種類ものスパイスを合わせて作られたしっかりと辛いカレーは、魚とご飯の相性も抜群だ。

メインの一例。こちらのカレーは2026年2月頃まで提供予定。ペナンのアイェル・イータム産の香り高い生姜を合わせた海藻(左下)や、6カ月以上熟成させた特製の燻製魚骨醬油(左上)をプラスすると味の変化も楽しめる。

明るくナチュラルな店内。

右:シェフのジョンソン・ウォン氏。左:地元で養殖された新鮮なムール貝を松の葉で燻製し、栗のクリームを合わせたひと品。
Gēn8, Gat Lebuh Gereja, 10300 George Town, Penang
TEL. +60-12-511-3323
Instagram: @genpenang

ペナンの夜を彩るバーホッピング バーシーンの賑わいも見逃せない。「Au Jardin」のすぐ近くにあるバー「Backdoor Bodega」は、一見するとごく普通の洋服店。しかし店内のレジ奥にあるドアを開けると、そこには遊び心に溢れたバーが広がっている。シグネチャーカクテルのひとつは街の名前を冠した「Georgetown Gimlet」。ライムの酸味とジンのキレに加え、生姜やタマリンド、レモングラスなどが合わさったエスニックな余韻が残る。そしてもうひとつ、ローカルに人気のハンバーガーを模したカクテルは、この店のウィットと技術力を象徴する一杯だ。トマトや玉ねぎ、ウスターソースにチーズの風味……ひと口含むとまさにハンバーガーを食べているような感覚になる。誰もが驚きに包まれるだろう。その革新的なメニューは国際的にも高く評価されており、2025年には「世界のベスト50バー」の部門賞である「Siete Misterios Best Cocktail Menu Award 2025」を受賞したほどだ。

Backdoor Bodega Instagram: @backdoorbodega
元は洋服店「The Swagger Salon」のスタッフ用のパントリーとして、創業者のコー・ユン・シェン氏が自らの楽しみのために2016年にオープンした「Backdoor Bodega」。ペナンという土地からインスピレーションを得たカクテルは、どれも他では出合えないような、ユニークなものばかり。上のカクテルは本文中で触れている「Georgetown Gimlet」。

 そんな「Backdoor Bodega」のすぐ隣にある「Good Friends Club」は、その足で立ち寄ってほしい一軒。ペナン出身の創業者ロレイン・タン氏が率いる同店では、使用する素材の約90%をペナンおよびマレーシア北部の小規模かつオーガニックな農家から直接仕入れている。メニューは“よい人々とよい素材”の繫がりをテーマにしており、信頼する農家や職人たちと協働し、彼らの技と情熱を、カクテルを通して表現。シグネチャーカクテルのひとつである「TCC(Teow Cheow Chui)」は、テキーラをベースに、地元産のトマトやアイェル・イータム産の生姜などを合わせたすっきりとした一杯。複雑な素材が幾層にも重なりながらも、口当たりは軽やかで、ふわりと広がる生姜のフレーバーが絶妙だ。


Good Friends Club Instagram: @goodfriendsclubpg
マゼンタとブルーのネオンが可愛らしい店内は、ペナンの歴史ある建築の趣と、モダンな感性を融合させた空間。迎えてくれるスタッフたちの「Hello, good friend!」というかけ声に、街の豊かな文化と温もりを感じるだろう。若々しさと陽気さ、そしてエネルギーに溢れている。カクテルは、「TCC(Teow Cheow Chui)」。

 もうひとつの注目すべきバーは2024年12月にオープンした「The Suckling Pig」。ここは「アジアのベストバー50」常連のシンガポール屈指の有名バーで、10年近く研鑽を積んだエイドリアン・シーヤオ・フー氏が手がける一軒だ。下積みを経て、家族と地元マレーシアへの思いを胸に帰国を決意。急速に進化を遂げるペナンのフード&バーシーンに惹かれ、この地で新たな挑戦を始めた。レトロなBGMが流れ、ミラーボールが煌めく店内は、なんだかほっと落ち着く不思議な空間。メニューにはアルコール度数の低いカクテルから順に記載されており、マレーシアでは珍しい温かいカクテルも複数揃っている。華やかさと技巧、そして静けさの余韻。その三拍子が揃ったこの店は、ペナンのバーシーンの成熟を象徴する一軒といえるだろう。

The Suckling Pig Instagram: @thesucklingpig_pg
店内は、経験を重ねた大人のための隠れ家のような空間。低いバーカウンターも心地がよい。上のカクテル「Chinatown Negroni」は中国酒「白酒」とジンのベースに、カンパリを合わせた一杯。チョコレートビターがリッチで芳醇な余韻を残す。炎を使用した温かいカクテルの演出も見事。

 ペナンはどこまでも自由だ。ローカルの味覚とモダンな感性が共鳴し合い生まれるのは、ただのグルメ体験やバー体験ではない。扉をくぐり、料理を口に運ぶたび、グラスを傾けるたびに、この街の奥行きが少しずつ見えてくる。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 67
not found