Saint-Louis “Cadence Collection”

サンルイから、現代的なデザインに伝統技を駆使した「カドンス」コレクション誕生

August 2023

text miki tanaka

 

 

〈カドンス〉ステムグラス、デキャンタ ©Maxime Tétard 

 

 

 

 1586年、フランス・ミュンツタールで創業した、ヨーロッパ最古のクリスタルメゾン「サンルイ」。1767年に、フランス国王ルイ15世より、サンルイ王立ガラス工房の称号を授かった名門で、現在はエルメスグループに属する。

 

 そんなサンルイから、フランス人デザイナー、ピエール・シャルパンのデザインによる、テーブルウェアや照明、バーウェア、デコレーションなど29個の製品群によるライフスタイルコレクション「カドンス」が誕生。シャルパンのドローイングから生まれた水平線と垂直線が、互いに呼応しながら素材にリズムを与え、クリスタルの輝きや透明感を際立たせたデザインに、何世代にもわたり受け継がれてきた職人技が融合したコレクションだ。

 

 

ピエール・シャルパン(サンルイ、コールドワークのアトリエにて)©Jean-Philippe Mesguen 

 

〈カドンス〉テーブルウェア、バーウェア、デコレーション ©Maxime Tétard 

 

〈カドンス〉テーブルランプとペンダントランプ (紙またはクリスタルのシェードとの組み合わせが可能) ©Maxime Tétard 

 

 

 

 同コレクションではホットワークの工房で職人によって行われる吹き技法「回し吹き」が駆使されている。これは溶解炉が1450℃に達すると、職人は鉄製の棒を使い溶解炉からクリスタルを取り出し、取り出したクリスタルに職人が息を吹き込み、吹き竿を回転させながら型に流し入れることでクリスタルが成形するというもの。クリスタルはほんの数分で冷えて固まってしまうため、素早い動作で、長く息を吹く技が必要とされる。

 

 

〈カドンス〉ペンダントライトスタンド(ラージ)と、ハンドカットを施しているワイングラス(スモール)©Jean-Philippe Mesguen 

 

 

 

 また、クリスタルのカッティングは、コールドワークの工房で何工程にもわたり行われ、正確性と素早さが求められる高度な製法が用いられている。モチーフの高さや分割数を、オブジェの形状に合わせ手作業で一時的にあたりを付ける「コンパッサージュ」と呼ばれる工程や、ホイール型の砥石で垂直方向と水平方向に線を引く「カッティンググリッド」を経て、必要に応じてドローイングに近づけるように、オブジェのシルエットに合わせ、仕上げがなされる。

 

 クリスタルランプシェードの内側は、「サンドブラスト」と呼ばれる技法により、光を通しつつもマットな質感を表現。ペーパーランプシェードは、卓越した技術を有する優れたフランスの工房に贈られる「リビングヘリテージカンパニー」の称号を持つふたつのデザインハウスによって、同コレクションのために特別に作られている。フランス東部のストラスブールで400年以上の歴史を誇る工房で作られた紙は、その特殊な構造により、光を当てると透明な水平線が浮き上がり、この線は職人の手ではく押しされることによって刻まれ、その後、次の工房でシェードが形成される。

 

 使いやすく、控えめでありながら、際立つ存在感の「カドンス」コレクション。クリスタルという格式高い素材でも、日常に取り入れやすいシンプルなフォルムとデザインは、日々の生活をラグジュアリーに彩ってくれる。

 

 

〈カドンス〉右:フラワーベース、ペーパーシェードペンダントランプ、クリスタルシェードテーブルランプ、タンブラー 左:紙とクリスタル製のシェードがあしらわれたテーブルランプ、ボウル ©Maxime Tétard