Richard Mille × Brough Superior RMB01

疾走するアートピース:リシャール・ミル × ブラフ シューペリア

December 2025

フランスで一台ずつハンドメイドされる RMB01 は、レーシングバイクという枠を超え、もはや“走る芸術作品”と言うべき存在だ。

 

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 高級時計の世界で名を馳せるリシャール・ミルは、これまでフェラーリやマクラーレンといった名門F1チームを支え、フェリペ・マッサ、シャルル・ルクレールなど一流ドライバーのパートナーでもあり続けてきた。しかし、このスイスブランドが“実際の乗り物そのもの”の開発に深く関わったのは、じつは今回が初めてである。

 

 コラボレーションの相手は「モーターサイクルのロールス・ロイス」と謳われる、伝説的メーカー「ブラフ シューペリア」。その両者が手を組んだレーシングバイクが RMB01 だ。

 

 RMB01は、ブラフ シューペリアのトゥールーズ工房で丹念に手作りされている。車体にはリシャール・ミルの時計哲学を思わせるディテールが息づき、開発にはミル氏本人が18か月にわたりCEOティエリー・アンリエット氏と密に関わったという。エンジンこそ既存モデルと共通だが、ボディワークは完全新規。1910年代初頭、木製オーバルトラックを疾走した“ボードトラッカー”のシルエットを現代に再解釈している。

 

 

 

 

 提案された12案の中から選ばれたこのスタイルは、スリムで彫刻のようなタンク、ストイックなシート、スケルトナイズされた構造など、リシャール・ミルの建築的な美学を連想させる。

 

 素材へのこだわりも徹底している。フレームはフォージド・カーボンファイバー製、各所にはチタンやビレット(削り出し)アルミニウムを使用。多くのエンジンパーツはアルミブロックから削り出され、合金パーツの一部にはリシャール・ミルのトゥールビヨンにオマージュを捧げた“スプリットケージ”デザインが施されている。

 

 RMB01は思わず走り出したくなる佇まいだが、あくまでサーキット専用車。公道走行は許可されていない。

 

 

 

 

 代わりに私が試乗したのは、同ブランドのSS100。1924年の名車を現代に蘇らせたモデルだ。クラシカルな外観とアグレッシブなポジションを兼ね備え、その存在感はRMB01とは異なる方向だが圧巻である。Vツインエンジンは標準で102bhpを発揮し、公道でも迫力のあるパフォーマンスを味わえる。低く響く咆哮とともに、マシンは鋭い加速をみせる。

 

 私自身は、ブラフ シューペリアの“造形美”に特に魅せられている。ヴィンテージ・テイストを称えるため、ゴールドトップの1959レザージャケット、ヴィンテージ・リーバイス、ソロヴェアのブーツを身にまとい、バイクとの世界観を合わせてみた。

 

 ワークショップへ戻ると、そこには再びRMB01が鎮座していた。130bhpへとチューンされたエンジンが唸りを上げ、専用設計のレーシングエキゾーストが荒々しい音色を響かせている。視覚も聴覚も刺激する、まさに完璧な“走るアートピース”だ。

 

 

 

 

 細部を注視すれば、その完成度はさらに際立つ。リシャール・ミルが手掛けた完全機械式メーター、クッションレザーの上に編み込みレザーを重ねたシート、そしてタンクを包み込みながら美しいVツインを露わにするカーボンフレーム。これらは機能以上に、バイクを“特別な存在”へと昇華させる装飾だ。

 

 生産台数はわずか 150台。価格は 20万ユーロ(約3,400万円前後)〜。希少で、華やかで、そして圧倒的に美しい。RMB01は、ふたつの名門が生んだ新たな伝説である。