PHILLIPS HONG KONG Head of Sale, Associate Director, Watches Zi Yong Ho Interview
フィリップス香港 時計部門長ホ・ジヨン氏インタビュー:香港オークションで注目を集めたふたつの時計とは
December 2021
伝統的なオークションハウスといえば、多くの人々がクリスティーズとサザビーズの名前を挙げるかもしれないが、もう一社めきめきと頭角を表してきているオークションハウスがある。フィリップスだ。
1796年にイギリスのウェストミンスターでハリー・フィリップスによって設立された同社は、コンテンポラリーアートを中心に宝石や写真など7つのジャンルに特化している。そのなかでも近年では時計分野において著しい成長を遂げており、例えば今年は、ジュネーブで時計オークション史上最高の売上高を記録したり、これまで世界のどのオークションハウスも実現したことのなかった、年間すべてのセールでのホワイトグローブ(全ロット完売)を達成。
さらにこの1年間の売上高を比較しても、2020年からは57%増、
エリアをアジアだけに絞ると、さらにその成長は著しい。実際、この1年間における時計オークションの売上高の45%
また、デジタルの面において様々な取り組みを行ったことにより、11月末に香港で開催された「The Hong Kong Watch Auction: XIII」には、世界70カ国から過去最多となる約1800名がオンラインで参加。アジアでの時計セール史上最高の売上高2億3100万香港ドル(約33億6300万円)に達し、記録に残る2日間となった。
同オークションには、パテック フィリップやロレックス、オーデマ ピゲから、F.P.ジュルヌやハリー・ウィンストン、ジェラルド ジェンタまで、300点以上の作品が出品されたのだが、そのなかでもオークションの目玉として注目を集めていた2点の時計について、フィリップス香港 時計部門長のホ・ジヨン氏に詳しく聞いてみた。
フィリップス香港 時計部門長のホ・ジヨン氏。画像出典元:フィリップス
––––11月のオークションでは300の時計が出品されたそうですが、そのなかでもなぜこの2点が最も卓越した時計のふたつとして選ばれたのでしょうか。
他でもなくその珍しさからです。1973年のパテック フィリップ(Ref.3448/100)「ブルー・ロワイヤル」永久カレンダーは、同モデルにおいて唯一文字盤にサファイアがはめ込まれているものです。たったふたつしか販売されたことのないプラチナケース入りのモデルでもあります。
パテック フィリップと深いつながりのある顧客だからこそ、プラチナケースに入れるという特別なリクエストを実現できたのです。現行のRef.3448/100は同じスペックのものが他に発見されていないことから、唯一無二である可能性も大きい。この点が、さらに価値を与えています。
予想落札価格だった1000万香港ドルをはるかに上回る17,795,000香港ドル(2,283,098米ドル)で落札されたパテック フィリップのタイムピース。画像出典元:フィリップス
また、ロレックス デイトナ(Ref. 6241)のイエローゴールドクロノグラフ、通称JPSこと「ポール・ニューマン ジョン・プレイヤー・スペシャル」はこれまで一度もオークションに出品されたことがありません。たった4年間の間にわずか300本しか生産されなかったこのモデルはデイトナシリーズのなかでも最も珍しく渇望されるモデルです。状態の良さ、そしてフランスのインポートホールマークであるのフクロウ型の刻印とジュネーヴ・ヘルヴェティアの刻印が鮮明に残っている点も希少性のひとつです。
ポールニューマン JPSにおける世界最高落札記録達成し、予想落札価格の9,400,000香港ドルをはるかに上回る13,560,000香港ドル(1,739,748 米ドル)で落札されたロレックスの一本。画像出典元:フィリップス
––––パテック フィリップRef. 3448はフライパンを意味するパデローネという愛称がついているようですが、どのような背景でその愛称で呼ばれるようになったのでしょうか。
イタリアのコレクターに名付けられたもので、見た目からフライパンを連想させるというシンプルな理由です。ちなみに他にもあだ名を持ったモデルが存在しており、その名もディスコヴォランテ(イタリア語で「空飛ぶ円盤」)。由来は同じで、イタリアのコレクター達が、その時計がUFOに似ていることから名をつけたのです。
画像出典元:フィリップス
––––世界で初めての自動巻式永久カレンダーとして登場したパテック フィリップのRef.3448ですが、その開発秘話や与えた影響について逸話があればお聞かせください。
発売当時、18世紀の複雑機構を現代の基準に合わせて革新的に再現し、永久カレンダーを時計界にもたらしたのはパテック フィリップだけでした。独自に18世紀のコンプリケーションウォッチを復活させるべく、現代の基準にリエンジニアリングしたのです。1962年に発売された時から16年間、この自動巻式永久カレンダーが生産されていました。
このモデルがいかに革新的だったかという点は、1963年のパテック フィリップの社内カタログ「自分で考える時計」でも見てとることができます。持ち主が適宜調整する必要のない永久カレンダーは、他の時計メーカーの流れを作る、業界にとってはまさに驚異的な技術でした。
11月末に香港で開催されたオークションでの様子。画像出典元:フィリップス
––––もうひとつのスターロットとしてポールニューマンJPSが登場しましたが、ポールニューマンシリーズ自体の落札価格が、ここ30年ほどで非常に高額に推移している理由についてどのように分析されますか。
デイトナシリーズが発売された当時は大胆な文字盤が当時の流行に合わず、今ほど人気ではありませんでした。しかし、俳優でありレーシングドライバーでもあるポール・ニューマンがこの時計を身につけたことによって、世界中で注目を浴びるようになったのです。
そうして、これらの初期のデイトナの価値が徐々に上がっていました。初期のデイトナは少量生産で、“Paul Newman”の文字盤構成に様々なバリエーションがあり、小売店のサインやトロピカルダイヤルなどの細かいディテールを加えることで、市場価値をさらに高めています。
希少性が高まることによって、高額な金額を支払ってでもコレクションに加えたいというコレクターの情熱と欲求を掻き立てるのです。