MGB: The Ultimate British Sports Car?
蘇るMGBの伝統、フロントライン・カーズ
September 2025
クラシックを愛しながらも、
author charlie thomas
イングランド南東部に位置する州、オックスフォードシャーは、近年ちょっとしたクルマ好きの楽園となっている。数多くの自動車関連企業がここに拠点を構えているからだ。
F1チームではアルピーヌとザウバーがオックスフォードシャーを拠点としており、すぐ近くにはシルバーストーン・サーキットもある。さらに、多くのフォーミュラEチームが本拠地を置き、この一帯は「モータースポーツ・バレー」として知られるようになった。
英国初となる自動車をテーマにしたリゾート&テクノロジーセンター「ビスターモーション」もあり、加えて、イギリス屈指のレストモッド(旧車をベースに新車同様の装備を施したクルマ)メーカーもオックスフォードシャーに集まっている。レンジローバーを再構築する〈キングスリー・カーズ〉や、ポルシェ911を手掛ける〈セオン・デザイン〉などがその代表だ。そして、MGBを専門に扱う〈フロントライン・カーズ〉もまた、ここに拠点を構えている。
![]() |
![]() |
オリジナルのMGを生み出したモーリス・ガレージは、ウィリアム・モリスとセシル・キンバーによって1924年に設立された。ブランドの歴史の大半はオックスフォードシャーで刻まれ、古都アビンドンに構えた自社工場で1980年まで生産が続いた。その間にミジェット、MGA、そしてもちろんMGBといった名車が次々とラインオフしていったのである。
しかしその後の歩みは決して順調ではなかった。ブリティッシュ・レイランド傘下のローバー・グループを経てBMWの管理下に入り存続を図ったものの、2005年に完全崩壊。かつてわれわれが知っていたMGブランドは幕を閉じた。現在では2007年に中国の上汽集団に買収され、生産拠点もすべて中国へ移されている。
フロントライン・カーズは、まさにオリジナルMGの後を引き継ぐ存在である。かつては不可能だった精度と品質をもって、新たなMGを作り出しているのだ。工場は、オリジナルのアビンドン工場からほど近いスティーブントンにある。規模は小さく控えめだが、そのテクノロジーは驚くべきものだ。
フロントライン・カーズは1991年、ティム・フェンナによって創設された。設立当初はレース仕様に仕立てたMG用ドライブトレインの製作を手掛けていたが、やがてチューニングパーツの供給へと事業を拡大。そしてついに、自らの手で一台のコンプリートカーを作り上げるに至る。その第一作が、同社初のレストモッド「LE50」である(やがて“レストモッド”という言葉はモータリング界で広く浸透していった)。
2012年に登場したLE50は、わずか50台の限定生産。徹底的にゼロから再構築され、心臓部にはマツダMX-5(日本名:ロードスター)の2.0リッター直列4気筒エンジンを搭載。独自チューニングによって最高238馬力を発揮し、往年のMGBが誇った100馬力から飛躍的な進化を遂げていた。組み合わされるギアボックスもMX-5の6速マニュアル。そして足まわりを支えるサスペンションやブレーキは、フロントラインが独自に設計したものだった。
次に姿を現したのが現行モデル「LE60」だ。MGB GTを究極のかたちで再構築したこの一台は、そぎ落とされたクラシックな佇まいに、現代的かつ刺激的なパフォーマンスを融合させている。
「LE60には、30年にわたる経験のすべてを注ぎ込みました。妥協を許さぬ“究極のMGB GT”といえます。一台のクラシックカーに求められるすべてを備えた、唯一無二の存在なのです」とフェンナは語る。
チューンされた4.8リッターのローバー製V8エンジンは375馬力を発揮し、0-60マイル(約96km/h)加速はわずか3.6秒。新型ポルシェ911 GT3にわずか0.2秒と迫る俊敏さを誇る。
![]() |
![]() |
しかし、真夏のある日にフロントラインを訪れた際、私が最初にステアリングを握ったのはLE60ではなかった。迎えてくれたのは、外装をポルシェ・クラシック・グレーに塗装し、内装をサルーンレッドのレザーで仕立てたデモカーであった。LE50とほぼ同等の仕様を持つ、フロントラインがオーダーメイドで手掛けた一台だ。
心臓部にはマツダMX-5のエンジンを搭載。今回はNC型(三代目)由来の2.5リッター直列4気筒で、最高出力は285馬力に達する。半ロールケージや4点式レーシングハーネスが示す通り高性能を誇りながらも、驚くほどイージーで快適に走らせることができる。
ベースとなったのは1971年製のクラシックカーだが、その中身には現代的な要素が巧みに盛り込まれている。パワーステアリング、集中ドアロック、エアコン、Bluetooth対応ステレオ、パワーウィンドウ──。クラッチは軽く、MX-5のギアボックスは予測通りに反応し、扱いやすさは抜群だ。
そしてキャビンに身を収めれば、思わず息をのむ。赤いレザーがほぼすべてを覆い尽くし、スリムで多眼式のアナログメーターが並ぶ美しいダッシュボードは、まるで第二次世界大戦時の戦闘機を思わせる。インテリアはフロントラインの工房で、丹念に手作業で仕立てられ、完成までに200時間以上を要するという。
路上に出ると、フロントラインのクルマは格別だ。現行モデルでは得がたい「特別な時間」をドライバーに与えてくれる。現代のクルマと比べて小さなサイズゆえ、Bロード(英国の地方道路)のワインディングを駆け抜けるのに理想的なのだ。
コーナーへ飛び込む自信を与えてくれる一方で、「このクルマは本来50年以上前の設計だ」という事実も忘れさせない。ターンインでは昔ながらのアンダーステアが顔を出し、タイヤとサスペンションを“ためて”やって初めてグリップするのだ。
エンジンはまさにハイライトである。独立スロットルボディとレーシーなエキゾーストシステムによって、ギアを繋ぐごとに咆哮を轟かせ、荒々しい吸気音がドライバーをレッドゾーンに駆り立てる。
何よりも、ただ純粋に楽しい。それは、クルマがまだ機械そのものであり、コンピュータに頼らず路面に踏みとどまっていたシンプルな時代を想起させる。それでいて、現代のスポーツカーに真っ向から挑めるパフォーマンスを備えているのだから、好ましくないわけがない。
フロントラインMGBは、過去の栄光をただ再現するのではなく、未来へと走り続ける英国スポーツカーの証である。それは半世紀前の記憶と、現代の情熱がひとつに溶け合った、唯一無二のドライビングエクスペリエンスといえるのだ。

















