MAKING IT

ヴィターレ・バルべリス・カノニコによるサステナビリティと若手テーラーの共演“MAKING IT”

November 2024

サヴィル・ロウから選ばれた、多様なバックグラウンドを持つ若手テーラーに焦点を当て、ウール産業の持続可能性とビスポークのクラフツマンシップ継承を謳うプロジェクトの全貌をリポート。

 

 

text yoshimi hasegawa

photography lloyd almond productions

 

 

左から、若手テーラー5人(後述)、VBC長谷川喜美氏、ウールマークイタリア代表ファブリツィオ・セルヴェンテ氏、アンダーソン&シェパード副会長アンダ・ローランド氏、VBCクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・バルベリス・カノニコ氏、ザ・キャンペーン・フォー・ウールCOOピーター・アクロイド氏(後列)、ダイアン・アーモンド氏(CFW)。

 

 

 

 サヴィル・ロウ、そしてビスポークのテーラリングといったクラフツマンシップ、さらにウール産業に、サステナブル(持続可能)な未来はあるのだろうか? 環境保護や労働者の高齢化と技術継承が課題とされるこれらの産業において、明るい指標となるプロジェクトが発表された。

 

 2024年10月15日、ロンドンの歴史的文化遺産であるウェリントン・アーチにて、特別プロジェクト「メイキング・イット」のお披露目が行われた。

 

 このプロジェクトはヴィターレ・バルベリス・カノニコ(以下、VBC )社とザ・キャンペーン・フォー・ウール(以下CFW)がスポンサードし、五人の若手テーラーを選出。サステナブルな天然繊維であるオーストラリア産メリノウールを原材料としたVBC製造の生地を使い、5人のテーラーがそれぞれのビスポーク作品を作り上げるプロセスを撮影し、フィルムとして記録。それを各SNSチャンネルを通じて発表する試みだ。

THE CAMPAIGN FOR WOOLとは?


ザ・キャンペーン・フォー・ウールは英国王チャールズ3世国王陛下がパトロンを務める非営利の国際組織。天然繊維ウールの特性とサステナビリティ(持続可能性)について消費者の認識を高め、ウール産業、および付随する産業の環境保護への訴えを目的とし、グローバルな活動を展開。www.campaignforwool.org/

 

 参加テーラーはアリステア・ニモ(キャサリン・サージェント所属)、エミリー・ヘイワード(アンダーソン&シェパード所属) 、フランシス・ペイリー(インディペンデント)、モリー・アンダーソン(リチャード・アンダーソン所属)、ニコラス・サイモン(インディペンデント)。ハウススタイルや職種、性別に至るまで、個々に異なるバックグラウンドを持つ若手テーラーが多様性を重視して選ばれた。

 

 彼らはイタリア北西部ビエッラに位置するVBC本社工場を訪問し、最先端の機械設備とサステナブルな生地製造プロセスを体験した後、個々のスタイルに合う生地を選んで作品作りを行った。

 

 この日は完成作品のお披露目とともに、2次元コードによる初のトランスペアレンシー(透明性)デジタル・パスポートにより、製品のトレーサビリティを紹介。ラグジュアリーセクターに造詣の深い編集者ポール・クラフトン氏をモデレーターに、5人のテーラーとのトークプレゼンテーションが開催された。

 

 クラフトン氏は、「ビスポークテーラリングの未来は、この素晴らしいプロジェクトに代表される若いテーラーたちの手中にあります。経歴もスタイルも異なるこのグループは、技術的な専門知識と現代的な美学を融合させ、何百年も受け継がれてきた技術に斬新なアイデアをもたらすという点で一致しています。この先何十年も、彼らがどのようにビスポークの芸術を継承していくのか、これからが非常に楽しみです」と語った。

 

 

5人の若手テーラーとポール・クラフトン氏との座談の夕べ

会場となったウェリントン・アーチでは5テーラーの作品のディスプレイとともに、元ロブ・リポート編集長であり、メンズウェアに造詣が深いジャーナリストのポール・クラフトン氏がモデレーターを務め、5人のテーラーとのトークプレゼンテーションが開催された。5人はテーラーの中でも異なる職種(カッターと裁縫職人)、異なる性別、異なるハウススタイルを持ち、多様性のある人選となっている。トークでは何故サヴィル・ロウのテーラーになろうと思ったのか、個々の経緯が語られ、業界の現状や課題など、活発な意見が交わされた。左から、フランシス・ペイリー氏、エミリー・ヘイワード氏、ポール・クラフトン氏、ニコラス・サイモン氏、モリー・アンダーソン氏、アリステア・ニモ氏。

 

 

 

 VBCのクリエイティブ・ディレクターにして13世代目でもあるフランチェスコ・バルベリス・カノニコ氏は今回のプロジェクトの重要性をこう説く。

 

「将来のビジョンは、持続可能性、革新性、そしてここで働く人々への配慮です。ウールは持続可能で、耐久性があり、常に最も優れた繊維です。これはこの産業で働く人々の情熱に導かれたストーリーで、ビスポークスーツを思い浮かべるとき、同時に、このファブリックが徹底した環境保全による製造技術のもと、幾つもの工程をかけて作られたことを思い浮かべることでしょう。サステナブルなVBCのファブリックが将来有望なビスポークテーラーの作品となる。これはとてもエキサイティングなプロジェクトです。彼らの作品を見てください。彼らのような若い作り手をサポートすると同時に、タイムレスなスーツの新しい魅力をアピールしています」

 

 最後に、ザ・キャンペーン・フォー・ウールCOOであるピーター・アクロイド氏はこう結んだ。

 

「ザ・キャンペーン・フォー・ウールの教育的活動やイベントは、ウールが地球を支援し、自然で再生可能、生分解性という特性を持つことを世界に伝えています。このコラボレーション・プロジェクトは、国王陛下が最近発表された『気候、コミュニティ、連邦、文化』というパーソナルな焦点に完全に合致しています。持続可能な天然素材としてのウールの重要性は、気候変動の影響がかつてないほど人々の関心を集めている今、さらに高まっています。このプロジェクトを通して、若手テーラーの伝統技術の継承を祝う重要な役割を果たすことができたことを大変嬉しく思っています。ビスポーク・テーラリングの技術は環境的に持続可能な原材料を使用し、高度に熟練した職人技を求める現在の需要の高まりに完璧に呼応しています。これはすべての核である環境保全の価値観へコミットメントした素晴らしいプロジェクトです」

 

 ビスポークによって作られる服は究極のサステナブル・ファッションでもある。サヴィル・ロウで修業したテーラーは英国最高峰の技術とスタイルを新しい若手へと引き継いでいる。いかにこの伝統技法を未来へと持続可能な形で引き継いでいくか、それぞれのアプローチがある。‘メイキング・イット’は現代に生きるテーラーたちとこの芸術を称賛するプロジェクトだ。

 

 

5名の若手テーラーが

VBCのオーストラリアンメリノで仕立てた作品を発表

 

Francis Paley

チトルバラ・モーガンで修業後、独立したフランシス・ペイリー氏。ネイビーヘリンボーンオーバーコート生地(550g)を使用し、90年代にインスピレーションを得た、構築的なショルダーラインを持つタイムレスなオーバーコートを作成。

 

 

Nicholas Simon

サヴィル・ロウで修業後、現在、サザンプトンで自身のテーラーを経営するニコラス・サイモン氏は、ミリタリーに起源を持つコートをグリーンのセミウールフランネル(450g)を用いてカジュアルに、より現代的に表現した。

 

 

Emily Hayward / Anderson & Sheppard

アンダーソン&シェパードでコートメイカーとして11年の経歴をもつエミリー・ヘイワード氏。チョークストライプのグレーフランネル(340g)、ダブルのワイドトラウザーズは女性が着用するメンズスーツのエレガンスを表現。

 

 

Molly Anderson / Richard Anderson

父リチャード・アンダーソンの元、カッターとして修業するモリー・アンダーソン氏。選んだのはラヴェンダー・グレンチェック・フランネル(290g)。父譲りのハウススタイル、シングル1ボタンジャケットにウエストコートを作成。

 

 

キャサリン・サージェント所属のカッター、アリステア・ニモ氏は自身のオリジン、スコットランド国立博物館のアーカイブからヒントを得て、フランネルタータン(360g)を選択。メンズとレディス双方に対応できる強みを生かした。

 

 

 

Report from a special event held at Wellington Arch in London

ウェリントン・アーチでのイベントには豪華メンバーが集結!

英国とイタリア、ともに服飾文化に源流をもつ両国が一堂に会した貴重な一夜。英国メンズウェア界のキーパーソンがサステナビリティとビスポークの芸術を祝福した。




(いずれも左から)左:VBCのマーケティングマネジャー、コスタンツァ・デルツァンノ氏、ペイリー氏、VBCのPRマネージャー、ヴァレンティーナ・ベルティ氏。右:ウールマーク・カンパニーおよびCFWイタリア代表ファブリツィオ・セルヴェンテ氏とザ・キャンペーン・フォー・ウール、CFWダイアン・アーモンド氏。





(いずれも左から)左:8.ダンヒルのクリエイティブ・ダイレクター、サイモン・ホロウェイ氏とダンヒルチーム。中:ダッシングツイード代表のガイ・ヒルズ氏とペイリー氏。右:リチャード・ジェームズマネージングディレクターのショーン・ディクソン氏とブランドディレクタートビー・ラム氏。




(いずれも左から)左:VBC PR&マーケティングアドバイザー長谷川喜美氏とヘンリー・プールのマネージングディレクター、サイモン・カンディー氏。右:キャサリン・サージェント氏と同社のレベッカ・ジョセフ・ダブリン氏、アンダーソン&シェパード副会長、アンダ・ローランド氏。

 

 

 

サステナビリティな製造をリードするVBC

創業1663年、VBCは2023年にバルベリス・カノニコ家の繊維事業360周年を迎えた。オーストラリア産メリノ種を主に最高級の原料を厳選した製造を行う。「メイド・イン・イタリー」のウールでは最大規模のプロデューサーであり、世界最古の一貫生産を行うファブリックメーカーのひとつである。同時に、工場排水の100%浄水化や再生可能エネルギー使用といった環境保全から、従業員の聴覚障害防止に全織機の防音カバー設置など、伝統と現代性を融合させ、地球環境保全の向上を常に行っている。

 

 

 

VITALE BARBERIS CANONICO

www.vitalebarberiscanonico.com