LOUIS XIII - Executive Director ANNE- LAURE PRESSAT —Interview—
ルイ13世が“奇跡の雫”に託した哲学─VIRTÙで味わう「レア・カスク 42.1」─
September 2025
100年先を見据えて造られるコニャックの王「ルイ13世」のエグゼクティブ・ディレクター、アン=ロール・プレサ氏が初来日。アジア屈指の名バーにて、メゾンが保つ大胆さと謙虚さの精神を語った。
photography tatsuya ozawa

Anne- Laure Pressat/アン=ロール・プレサ
レミーコアントローグループにインターンとして加わり、「ルイ13世」のブランドアンバサダーを経て、ロンドンで傘下複数ブランドのブランドマネージャーとして活躍。フランス本社復帰後は、イノベーション&サステナブル開発部門で、「レア・カスク」をはじめとする「ルイ13世」の革新的なプロジェクトを推進。2023年より現職。
VIRTÙ
東京都千代田区大手町1-2-1 フォーシーズンズホテル東京大手町39F TEL. 03-6810-0655
アールデコ様式に日本とフランスの美学が息づいた、おもてなし精神が光る名店。2025年アジアのベストバー50では18位を獲得。「レア・カスク 42.1」のバイ・ザ・グラスは、15ml ¥445,000、30ml¥900,000(税・サ料込)。
「時間こそ、原料そのものです」―エグゼクティブ・ディレクター、アン=ロール・プレサ氏は、「ルイ13世」を“時間”そのものをデキャンタに封じ込めた芸術だと形容する。ティエルソン(100年を超える歴史を持つ熟成樽)におさめられたオー・ド・ヴィー(原酒)が、時を経て複雑にブレンドされ、ようやく誕生するのがコニャックの王「ルイ13世」である。
その始まりは1874年。当時、4代目としてコニャック造りを行っていたポール=エミール・レミー・マルタンが、破天荒な発想に挑んだ。それは、コニャック地方最上級のグランド・シャンパーニュ地区の葡萄のみを用いたオー・ド・ヴィーを熟成させて造る究極のコニャック。周囲からは批判されたが、彼はひとつひとつの樽に未来を託し、自らが生きていない時代のために挑戦した。その大胆で革新的な精神は、代々のセラーマスターたちに受け継がれている。
「セラーマスターは、自分を“ただの通りすがりにすぎない”と表現します」
プレサ氏は、その言葉に「ルイ13世」の謙虚さがよく表れていると語る。「彼らの仕事は、先代から受け継いだオー・ド・ヴィーを預かり、100年後のセラーマスターへ託すこと。そこには、大胆な革新と同時に、伝統への深い敬意と責任が存在します。大胆さと謙虚さ、その両極を持っているからこそ、時の芸術の魅力を伝えることができるのです」
革新性を表現するひとつに、「レア・カスク」がある。これはある日、ひとつの樽が他のオー・ド・ヴィーとのブレンドを憚るほどの異なる個性を帯びるもので、通常よりも高いアルコール度数と唯一無二のアロマが偶発的にもたらされた、文字通り“極めて希少な樽”である。
「セラーマスターが自らの責任範囲を超えたと認めたとき、それはレア・カスクを“発見した”ことになるのです。人の手を離れた、自然が生んだ“奇跡の雫”。これまで3度しか発見されていません」
自然の力が育んだ“奇跡の雫”
比類なき複雑さと唯一無二のアロマを持ち、「ルイ13世」が受け継ぐ叡智の“核”を担う「レア・カスク 42.1」。デキャンタはバカラ社によるブラック・クリスタル製。中央メダリオンにはアルコール度数を示す表記が、NFC対応のネックにはロジウムとゴールドの装飾がそれぞれ施され、「ルイ13世」を象徴するフルール・ド・リスのパターンがあしらわれている。 世界限定775本。¥7,700,000 Louis XIII(レミー コアントロー ジャパン Tel.03-6441-3025)
最新の「レア・カスク 42.1」は、アルコール度数42.1%で、世界限定775本。特別な液体は、特別なデキャンタ、特別なコフレに収められ、まさに頂点と呼べる芸術に仕上げられている。もちろん、味わえる場所もまた特別である。日本で唯一バイ・ザ・グラスを愉しめるのが、今回のインタビュー取材の場となった、フォーシーズンズホテル東京大手町のバー「VIRTÙ(ヴェルテュ)」だ。
「訪れた瞬間に心を動かされる空間でした。インテリア装飾、メニュー表の言葉遣いや描かれたモチーフなど、細部にまでストーリーテリングが詰まっています。レア・カスクというレガシーを伝える場所として、本当に理想的な場所です」
プレサ氏が口にした、ある顧客のエピソードも印象的だった。その客は、娘が21歳になる誕生日に開けるために「レア・カスク 42.1」を購入したが、その場に居合わせた妻のために、すぐ飲めるバイ・ザ・グラスをVIRTÙでオーダーし、ひとときを愉しんだという。それぞれのデキャンタに、人生の節目や物語を宿す。プレサ氏は「知的好奇心があり、感動できる心を持った方にこそ、この味わいをぜひ体験していただきたいです」と語った。
インタビューの最後に、「この仕事を続ける中で忘れられない瞬間は?」と尋ねると、彼女は少し考えた後こう答えた。
「たくさんありますが、共通しているのは、人と人が出会い感動を分かち合う時間です。どこにいても、相手の肩書きも関係なく、『ルイ13世』を囲んで話が広がる。その時間こそが、私たちが100年以上にわたり届けたいものなのだと思います」
100年という時間が醸し出すその味わいは、樽の中だけでなく、人と人との間にも、静かに染みわたってゆく。








