LEXUS LBX

高級スニーカーを目指した小型ラグジュアリー・ヴィークル

February 2024

text kentaro matsuo

 

 

 

 

 画面いっぱいにスニーカーの写真が映し出される。今日はレクサスの新車発表会のはずなのに……。

 

「私たちはこのスニーカーのようなクルマを目指したのです」

 

 そう言ったのは、チーフエンジニアの遠藤邦彦氏である。映されていたのは、メゾン マルジェラの「レプリカ」だ。もともとは1970〜90年代あたりまで旧西ドイツ軍に支給されていたトレーニング・シューズである。だからジャーマン・トレーナーとも呼ばれている。主にチェコやスロバキア、ボスニアで作られていた。

 

 しかし、軍による制式採用が終わると、生産のための設備は次々と廃棄されていった。そのひとつを日本人靴デザイナー、田中清司氏が買い受け、復刻品を作って、90年代半ばにパリの展示会へ出品した。それを見たマルジェラが自らのコレクションに取り入れ、世界的ヒットになったといわれている(諸説あり)。

 

 いずれにしても、その復活劇に日本人が絡んでいたことは間違いない。そして今回、再びジャーマン・トレーナーにインスパイアされたクルマを日本人が作ることになったのだ。

 

 

 

 

 レクサスLBXである。これは「Lexus Breakthrough X(cross)-over」の略だという。何をブレイクスルーするかというと、サイズによるクルマのヒエラルキーである。目指したのはスニーカーのように気軽に履けるが、ラグジュアリー・ブランド並みのステイタスを持つ一台だ。だからマルジェラのスニーカーがイメージソースとなったのだ。

 

 

 

 

 確かに、LBXのサイズは小さい。全長4,190✕全幅1,825✕全高1,545mmという数字は、例えばメルセデス・ベンツGLAやBMW X1と比べても、さらにひとまわり小型である。海外仕様で1,560mmあった全高をシャークフィンアンテナを取り去ることによって、1,550mm以下にしたことは大きい。都内の立体駐車場でも大概のところには入庫させることができる。

 

 

 

 

 フロントには、レクサスのアイコンであったスピンドルグリルが見当たらない。

 

「開発の初期段階までは、スピンドルグリルはあったのです。しかし豊田章男(現会長)から、『壊してしまえ』といわれた。そこでイチからデザインを考え直しました」とはプロダクトチーフデザイナーの袴田浩昭氏。

 

 そこで生まれたのが、ご覧のユニファイドスピンドルである。紡錘形のモチーフは残しつつ、左右のフロントライトは一直線に繋げられ、まったく新しい造形として生まれ変わっている。レクサスのラインナップの中でも、新しい世代であることを感じさせる。

 

 

 

 

 サイズは小さいが存在感は大きく。そのためにボディは大胆なラインで彩られた。えぐり込んだようなサイドや大きな段差を描くウィンドウなど、今までの小型車には見られなかった意匠を取り入れている。

 

 車体の四隅で踏ん張った、18インチの大径ホイールは、クルマにどっしりとした安定感を与えている

 

 

 

 

 リヤも左右のテールランプが繋がったユニークなデザインを採用している。ボディ上部に乗ったキャビンは台形に絞り込まれている。小さいクルマはスペース効率を追求するあまり、真四角なカタチに帰着しがちだが、ここでは真逆のチャレンジがなされている。

 

 

 

 

 LBXには「Cool」と「Relax」ふたつのラインがあって、エクステリア、インテリアともに異なるテイストを提案している(Coolのルーフカラーはボディ同色ではなく、ブラックで統一される)。

 

 こちらはRelaxのインテリア。上質のレザーの質感をそのまま生かしたシンプルな空間だ。変な模様や安っぽいメッキ部品が使われておらず、実にセンスがいい。

 

 

 

 

 こちらはCoolのインテリア。レザーとウルトラスエードが組み合わされている。ウルトラスエード(人工スエード)は欧州の高級車もこぞって採用する高級素材だ。カラーはブラック&ダークグレーでコーディネイトしてあり、色使いは最小限にとどめられている。ぱっと見、イタリアのクルマの内装のようで、日本車離れしたデザイン・センスを感じさせる。

 

 

 

 

 あれだけ凹凸の多いエクステリアなのに、リヤシートを含む、室内空間は意外なほど広い。大人4人が長距離ドライブに出かけるのに、何の不都合もない。ヘッドクリアランスが大きく、室内の圧迫感が少ない。これはプラットフォームを見直し、SUVとしては異例に低い着座位置を実現したことが効いているのだろう。

 

 

 

 

 チープな素材の表面をあれこれいじって、高級そうに見せようとすると、ますます貧乏くさくなる。本当にいいものを使っているのなら、デザインはシンプルにして、素材の良さをそのまま生かせばいい。LBXのインテリアはそんな哲学に沿って作られているように思えた。

 

 シート表皮やトリム、エアロパーツなどの内外装を自分好みにチョイスし、世界で唯一の一台を作り上げることができる「Bespoke Build」のサービスも予定しているという。1点モノを好む富裕層の気持ちを理解している。

 

 

 

 

 動力は1.5Lガソリン3気筒エンジンにモーターを組み合わせたもの。とりたてて速くはないが、実用上は十分なパワーを得ている。FFとAWDがあり、前者の燃費は27.7km/Lという数値を誇っている。

 

 乗り心地は、すこぶるいい。高い剛性のボディとサスペンションが、路面のドンツキを上手にいなしてくれる。足回りはしっとりと落ち着いており、まるでふたまわりくらい大きなクルマに乗っているようだ。

 

 それでいて、ボディが小さいので、どんなところでも運転しやすい。狭い道でも臆することなくスイスイと入っていける。都市部での使い勝手は最高だろう。最小回転半径は5.2mで、まさかと思えるほど小回りがきく。パーキングやUターンが最もやりやすいクルマのひとつだといえる。

 

 

 

 

 渋滞時に先方のクルマについて行ってくれるアドバンスド ドライブ、アプリ操作で駐車が可能なアドバンスド パークをはじめ、レクサスが誇る世界最高レベルのハイテクがぎっしりと詰め込まれている。

 

 例えば、信号が赤から青に変わったり、先行車の発進に気づかないでいると、声でお知らせしてくれる機能までついている。優秀なナビゲーターが隣りに座っているようだ。

 

 それでいて、ダッシュボードまわりはすっきりとまとめられている。物理スイッチもほどよく残されていて、誰でもが直感的に操作できる配置となっている。

 

 

 

 

 LBXに乗っていると、都市部で巨大なクルマを転がすことが、いかにバカバカしいかがわかる。小山のようなボディで車幅いっぱいに走ったり、駐車場の枠からはみ出しそうになったり……。どう考えても、「見せびらかし」以外の効用はない。

 

 その点、LBXは小さく、アーバン・コミュータとして理にかなっている。その上で見る人が見れば、オーナーの趣味のよさがわかるというクルマである。

 

事実、LBXは日本車としては意外なほどセンスよくまとめられたクルマだ。獅子舞のようなモールだらけのフロントフェイスや、仏壇のような木目調インテリアとは無縁である。シンプルで機能的、しかし心に残るものがある。まさにマルジェラのスニーカーのような一台に仕上がっているのだ。

 

 ちなみにLBXは全車両が日本の岩手工場で生産される予定だという。歴史的円安の折、改めて日本製の「小さくて高性能な日本車」を見直すときだろう。

 

 

Lexus LBX “Relax”

全長✕全高✕全幅:4,190✕1,825✕1,545mm

車両重量:1,310kg

動力:1.5L直列3気筒+モーター

エンジン最高出力. 91ps/5,500rpm.

エンジン最大トルク. 120N・m/3,800-4,800rpm

駆動形式:FF(他にAWDあり)

燃費:27.7km/L(2WDモデル、WLTC燃費モード)

¥4,600,000〜 Lexus