FROM THE HEART TO THE HANDS : DOLCE&GABBANA

ドルチェ&ガッバーナの絢爛かつサルトリアルな世界

December 2024

最高のショーと称賛される「アルタ サルトリア」。そのアーカイブがミラノの宮殿に集結した。会場にはサルトの家に生まれたデザイナーの、服に対するこだわりが詰まっていた。

 

 

text kentaro matsuo

 

 

「オペラ」と名付けられた展示の一角。燕尾服、ローブなど、ドルチェ&ガッバーナが持つ、テーラード技術の高さを伺い知ることができる。

 

 

 

「世界最高のメンズ・ファッションショーは何か?」

 

 まさに百家争鳴になりそうな問いである。しかしながら、スケールの大きさ、会場のゴージャスさ、訪れるセレブリティやビリオネアの数までカウントすれば、答えは自ずと決まってくる。それはイタリアのファッションハウス、ドルチェ&ガッバーナが毎年催している「アルタ サルトリア」である。

 

 アルタ サルトリア コレクションはひと言でいうと、メンズ向けのオートクチュールである。レディスクチュールである「アルタモーダ」と同時に大規模なショーを含むイベントが開かれ、開催場所は毎年変わる。今までシチリア、コモ湖、ヴェネツィアなど、イタリアを代表する景勝地を舞台としてきた(2024年はサルデーニャ島)。

 

 ドルチェ&ガッバーナはデザイナーズブランドとされているが、本当の凄さはアトリエにある。イタリア全土より腕のいい職人をスカウトし、自社工房に囲っているのだ。発表されるアイテムは、刺繍、ハンドペインティング、彫金などが施された、クラフツマンシップの粋を集めたもの。すべてがユニークピース(一点もの)で、同じデザインはふたつとない。価格は非公表だが、中には数千万円のものもあるという。

 

 世界各地より超富裕層のゲストたちが集まり、ショーで発表されたばかりの洋服をその場で購入していく。それはショッピングというより、芸術品のオークションに近い。こうしてドルチェ&ガッバーナが生み出した作品は、それぞれの幸せなオーナーのもとへ届けられるのだ。

 

 

去る2024年7月3日イタリア、サルデーニャ島のリゾート地、フォルテ ヴィレッジにて行われたショー「アルタ サルトリア」のフィナーレ。フォルテ ヴィレッジは世界クラスの設備、素晴らしい眺望、そして比類のないサービスを提供するエクスクルーシブなデスティネーションである。Photo: Marco Bahler

 

 

サルデーニャ特産のピビオネス織りなど職人による膨大な「ファットアマーノ(手仕事)」から生み出された作品たちに観客たちは息を呑んだ。ランウェイを歩くモデルたちは、ひとりひとりがさながら歩くアートピースのようであった。Photo: Marco Bahler

 

 

クロージングパーティに登場した歌手ケイティ・ペリーとデザイナー、ドメニコ・ドルチェ(右)、ステファノ・ガッバーナ(左)。Photo: Marco Bahler

 

 

 

 

 2024年、世界中に散らばっていったコレクションはミラノ、パラッツォ・レアーレに再集結した。ドルチェ&ガッバーナ初のエキシビション「From the Heart to the Hands: Dolce&Gabbana(フロム ザハート トゥ ザ ハンズ:ドルチェ&ガッバーナ)」にて展示されるためである。

 

 キュレーションは世界的に著名なキュレーター、フロランス・ミュラーが担当した。ただ洋服を並べるだけでなく、没入型のインスタレーションやデジタルアートが追加され、まるでおとぎの国へ迷い込んだような空間をつくり上げた。ユニークなクリエイションを鑑賞しながらアート、建築、音楽、イタリアの伝統、演劇、ラ・ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)といった、ドルチェ&ガッバーナのさまざまな側面を巡ることができる。

 

 THE RAKEとして、特に興味深いのは、ブランドのサルトリアルな部分にスポットを当てたコーナーである。まるでテーラーの仕事部屋を思わせる一角にアンフィニッシュのスーツやジャケットがかけられている。ドルチェ&ガッバーナのデザイナーのひとり、ドメニコ・ドルチェの生家はシチリアのサルトなのだ。彼は幼い頃からテーラリングについて学び、6歳になる頃には自分の服をデザインし、仕立てていたという。ブランドのサルトリアルに対する深いこだわりが感じられる展示であった。

 

 展覧会のタイトル「フロム ザ ハート トゥ ザ ハンズ」は、アイデアがハートで生まれ、ハンド(手作業)によって形づくられるさまを表している。これこそ、クリエイティブなデザインと、サルトリアル的なテクニックが共存する、ドルチェ&ガッバーナにふさわしい言葉なのである。

 

 

ミラノ、パラッツォ・レアーレで開かれた「フロム ザ ハート トゥ ザ ハンズ:ドルチェ&ガッバーナ展」の様子。展示は国際的に著名なアート&ファッション・キュレーター、フロランス・ミュラーが手がけた。館内はアルタ モーダ、アルタサルトリアで発表された作品を主に、さまざまなインスタレーションに満ちていた。場内は「ハンドメイド」、「映画『山猫』」、「シチリアの伝統」、「オペラ」などテーマごとに区切られ、手仕事の粋を集めたコレクションが展示されていた。Photo: Michael Adair

 

 

今回のエキシビションでは、ドルチェ&ガッバーナのアトリエとラボも忠実に再現されていた。ハーフフィニッシュのジャケットのラペルに施された、手仕事ならではの芯据えが露わになっていた。決められた時間になるとテーラー、裁縫師、職人たちが実際に作業をし、その風景を見ることで、来場者は作品づくりの世界へと誘われた。