FRAGMENTS OF FANTASY

ファンタジーを結ぶ、エルメスのタイ

December 2023

かつては男性を束縛するものだったネクタイは、エルメスによって、自らの個性を表現するファッション・アクセサリーとなった。

 

 

 

2023年AWの最新コレクションより。刺繍からパターン、総柄プリントまで、さまざまなバリエーションが揃っている。上左:馬の刺繍入り ¥50,600 上右: ¥33,000 下3本:すべて ¥33,000 all by Hermès Photo©Hermès

 

 

 エルメスが初めてネクタイを製作したのは1949年のことである。きっかけは、フランス・カンヌのブティックで、顧客がカジノに入場する際のドレスコードを満たすため、ネクタイを求めて来店したからだという。当初は無地と、柄はドット、ストライプくらいしかなかった。

 

 1950年代になると、エルメスによってシルクツイルにプリントする技術が開発された。動物などをモチーフとした総柄プリントはデザイナー、アンリ・ドリニーによって創案された。彼は50年以上もパリのフォーブル・サントノーレ店内にアトリエを構えていた天才である。多くの模様はドリニーのいたずら描きから始まった。

 

 生産は一貫してリヨンのテキスタイル工房にて行われている。本体は2枚のシルク製パネルと、2枚の芯地で構成され、中央は長さ1.7mの1本の糸によって貫かれている。形崩れしたら、その糸を引いて元の形に戻すことができる。ラベルは先端から8インチの位置に縫い付けられる。

 

 

左:ネクタイはブレードとテールに分かれ、それぞれ裏地と芯地で構成されている。特殊な折りは手作業でのみ可能。右:柄の輪郭をチョークで生地になぞり手作業で切り取る。Photo©Sophie Tajan

 

 

 

 シーズンごとにテーマは更新されるが、決して流行は追わない。起毛シルクやウール、シルクニット、キルティング、リバーシブルや刺繍をあしらったモデルもある。幅は8cmから始まり、7cm、6cmと選択肢が増えてきた。

 

 現在のタイは2011年にメンズシルクのクリエイティブ・ディレクターに就任したクリストフ・ゴワノーによって監修されている。タイにスカーフのアイデアを持ち込んだ彼は次のように述べる。

 

「今の時代、男性がネクタイを締めるのは、締めなければならないからではなく、締めたいからです。ネクタイはもはや、特定のグループや慣習に従うことを示すものではありません。サイズや柄で遊んだり、房飾りのホースヘッドを付けたり、刺繍のモチーフのシャワーを浴びせたり……。ネクタイは気楽で自由なファッション・アクセサリーとなったのです」

 

 エルメスのタイは、“束縛”とは正反対のものを象徴する。それは自らの個性を表現し、ファンタジーの世界で遊ぶためのツールなのである。

 

 

裏地は、ネクタイのブレードとテールの端に縫い付けられる。芯地を固定し、ネクタイにホールド感を与える。Photo©Sophie Tajan

 

 

中心は1本の絹糸で縫われる。縫い終わりはループ状になっている。Photo©Sophie Tajan