FLOATING HEAVEN
海に浮かぶホテル“guntû”で瀬戸内の魅力を堪能し尽くす
July 2019
舞台は瀬戸内海。従来の船旅の概念を覆す、新たな旅のスタイルが誕生した。高級旅館を思わせる客船で、せとうちの島々を巡る。非日常を求めて、いまこそ航海へ。
text yukina tokida
photos by Tetsuya Ito / Setouchi Cruise, Inc.
瀬戸内海をゆったりと進むガンツウ。巡航速度はおよそ時速18.5km(10ノット)。揺れが少ないのはもちろん、エンジン音も静かであるため、船の上にいることを忘れてしまうほど。船酔いについても心配無用だ。
海運業の中心地としてだけでなく、物流の大動脈としても繁栄を極めてきた瀬戸内。古くから豊富な海産物に恵まれているだけでなく、東西に長く延びる沿岸地域には、今日においても塩やオリーブオイル、レモンや日本酒等と、日本屈指の名産地がひしめいている。そんなこの地の魅力を思う存分堪能する旅ができるのが、2017年の10 月に就航した客船「guntû(ガンツウ)」だ。ガンツウの発着地は、尾道市のベラビスタマリーナ。マリーナまでは、広島空港とJR 福山駅から送迎サービスがある。出港時間に余裕をもってマリーナに向かい、専用ラウンジでゆっくりするのもおすすめだ。
ベラビスタマリーナを出発したあとは、瀬戸内海を錨泊しながら島々を巡る旅がはじまる。本船が着岸することなく旅は進み、島を訪れたい際にはテンダーボートに乗り換える。ありそうでなかった、新たな旅のスタイルといえよう。巡行コースは10 航路以上あり、基本は東回りもしくは西回りの2泊3日、3泊4日コース。7~9月には既存航路の名所を回る中央航路6コースが新設され、鞆の浦の「お手火祭り」や愛媛の「みなと祭花火大会」などの季節のイベントに合わせた特別航路7コースも登場する。
船の前方に位置する最も広い「ザガンツウスイート」(約90 ㎡/2泊1名90 万円~)の寝室。進行方向を一望できる大きな窓が設えられている。「テラススイート」(約50㎡)は2泊1名40 万円~、「グランドスイート」(約80 ㎡)は2泊1名70 万円~。
海の上に浮かぶ“高級旅館”
いざ船内へ足を踏み入れてみると、そこには華美な装飾のない、木材が多用された温かみのある空間が広がる。その趣はまさに“高級旅館”。ガンツウは従来の豪華客船とはひと味ちがうのだ。穏やかな瀬戸内の雰囲気になじむ、温もり溢れる意匠に仕上げられている。
設計・デザインを担当したのは、「竹林寺納骨堂」や「阿佐ヶ谷の書庫」を代表作にもつ建築家・堀部安嗣氏。氏の手がける作品の特徴である、“気取りのないラグジュアリーな上質感”が、客船の随所にちりばめられている。
切妻屋根が美しい展望デッキ。
わずか19 室の客室は、いずれも50㎡以上のスイートルーム。どの部屋も窓が大きく取られ、テラスも備わっているため、部屋にいながらにして瀬戸内海の景色を眺めることができる。特に、一番広い「ザガンツウスイート」は、客船としては珍しく船の前方に位置するため、進行方向の景色を一望できる唯一の部屋。ベッドに横たわりながら、前から横へと移り行く眺望を楽しみたい。
そもそもガンツウとは、瀬戸内海に生息する“イシガニ”(ワタリガニの一種)のこと。尾道地方の方言で、親しみを込めてこう呼ばれている。調理してそのまま食すのはもちろん、いい出汁がとれるために味噌汁に使われることが多い。そんな味わい深いガンツウのように、時が経つほどに人々から愛される船になるように、と名づけられたという。
ガンツウの全容。
好きなものを、好きなだけ
旅における大きな楽しみのひとつである食事。ここガンツウでの食事の基本は「好きなものを、好きなだけ」。オールインクルーシブであるため、この言葉通り、気の向くままに食事を楽しむことができるのだ。メインダイニングの監修を務めるのは、東京の名店「重よし」の佐藤憲三氏。その味は折り紙付きだ。
和食はもちろん、洋食や作りたての和菓子、点てたばかりの抹茶まで、あらゆるジャンルの食が用意されている。極めつきは、メインダイニングの奥にある6席の鮨カウンター。「淡路島亙」の坂本亙生氏が監修する鮨を思う存分堪能できるのだ。瀬戸内の海の幸、山の幸を思いのままに味わい尽くす、“食の旅”になることは必至であろう。夜にはバーやラウンジ、“縁側”で一献かたむけるのもいい。部屋の浴衣に着替えて、ただただゆったり過ごすのも旅の醍醐味だ。
瀬戸内が育んだ新鮮な海と山の幸。季節の味覚を堪能したい。
鮨カウンター。瀬戸内の旬の海の幸を、6席だけの特別な空間で愉しむ鮨は格別だ。
瀬戸内の島々を巡る船外体験
一般的な豪華客船と異なり、プールやカジノ、劇場といったエンタメ設備がないガンツウ。その代わりに、船を降りて瀬戸内の島々を巡る船外体験が豊富に用意されている。例えば、宮島での「朝さんぽ」や「釣り体験」。観光では入ることのできない小路を散歩し、島の高台にあるカフェで淹れたてのコーヒーを愉しんだり、自分で獲った魚をその場もしくはダイニングで調理してもらうことができる。
他にも嚴島神社を訪れるなど、さまざまなアクティビティが用意されているので、じっくりと吟味したいところだ。また、サウナ付きの大浴場やスパ、トレーニングルームが完備していることも実に嬉しいポイント。いつものルーティンを崩すことなく、船上でひと汗かくことができるのだ。
前面がガラス張りのトレーニングルーム。マシンはイタリアのテクノジム社の最新機器が揃う。
スパの檜風呂。スチームサウナやドライサウナも完備している。
瀬戸内の自然素材を取り入れたエステや整体のメニューも充実。
“好きなものを、好きなだけ”……海上での時間をより特別なものにしてくれる空間で、ゆったりと過ぎる時の流れを感じながら瀬戸内の魅力に酔いしれたい。
広々とした縁側。ガラス越しの眺望にならないよう、腰をかける場所が一段高く設計されている。
guntû (ガンツウ)
【予約・販売】ガンツウギャラリー
東京都千代田区内幸町1-1-1 帝国ホテル本館中二階
営業時間10:00~18:00 水曜定休(来店は予約制)
TEL.03-6823-6055