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紳士必携のドレスウォッチ、パトリモニー

October 2024

ヴァシュロン・コンスタンタンは今年、スリムで完璧なドレスウォッチ「パトリモニー」の誕生20周年を寿ぐ。
text justin hast

パトリモニー・マニュアルワインディングシンプルを極めた2針モデルは40mmから39mmへとわずかにサイズダウン。着用感が向上し、エレガントな雰囲気が増した。ドーム状のダイヤルは、新色のアンティークシルバーカラーを採用。オリーブグリーンのアリゲーターレザーストラップとの組み合わせは現代的で新鮮な印象だ。厚さわずか2.6mmの自社製キャリバー1440を搭載。ケースバックには好みの文字をエングレービングできる。手巻き、18KWGケース、39mm。¥3,740,000 Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン TEL.0120-63-1755)

 どんな人の時計コレクションにも、シンプルに時間を表示するドレスウォッチが必要だ。時計愛好家としてさらに一歩進むなら、できれば薄型で手巻きの、バトン針を備えたものを選びたい。これは紳士のワードローブに白シャツ、ネイビースーツ、グレーのフランネルのトラウザーズ、磨かれたブローグシューズといった定番が必要であるのと同じである。

 こうした時計を探しているなら、ヴァシュロン・コンスタンタンの「パトリモニー」に出合うだろう。今年、誕生20周年を迎えるパトリモニーは、1755年創業の老舗時計メゾン(それだけで注目に値する)が手がける、シンプルでありながら独創的なドレスウォッチである。

 デザイナーの理想は、インデックスと針、ドットのミニッツトラックをあしらっただけのシンプルなデザインでも、袖口からちらりと見えただけでそれとわかる時計を生み出すことだ。華美な主張は必要ない。ブルネロ・クチネリ氏が「パトリモニー」を着用しているという事実が、この時計の魅力を物語っている。

 ヴァシュロン・コンスタンタンが「パトリモニー」コレクションを発表した2004年は、機械式時計が再び注目を集めて大衆に浸透し始めた頃で、クラシカルなデザインが流行していた。「パトリモニー」コレクションは、1950年代のエレガントな超薄型時計、特に1957年にヴァシュロン・コンスタンタンが製作したふたつの歴史的モデルからインスピレーションを得ている。時針、分針、センターセコンド針を備えるRef.6187と、6時位置に細長い十字架で表現されたスモールセコンドを備えるRef.6179である。どちらもラウンドケース、スリムなベゼル、短いラグ、フラットな文字盤、そしてパール状のミニッツトラックを備えていた。

「パトリモニー」の原型となったふたつのタイムピース


左:1957年に発表されたRef.6179。右:同じく1957年のRef.6187。どちらもラウンドケース、スリムなベゼル、短いラグ、フラットな文字盤、そしてパール状のミニッツトラックを備えており、超薄型の手巻きキャリバーを搭載していた。

「パトリモニー」は2004年、クラシック、タイムレス、エレガント、ミニマリストといった要素をすべて備えるコレクションとして、50年代に開発されたモデルにインスピレーションを得て誕生した。

 50年代は、スリルを求める冒険家たちに寄り添うツールウォッチが多数台頭した時代だったが、ヴァシュロン・コンスタンタンはクラシカルで機能的なタイムピースを製作する考え方を変えなかった。とりわけ印象深いのは1957年製の2本、Ref.6179とRef.6187である。それぞれ超薄型で伝説的な手巻きキャリバー1001と1002を搭載しており、唯一の違いは秒針の位置で、前者は6時位置に、後者はセンターに配されていた。

 徹底的に無駄を省いた、控えめな美しさを表現したこの2モデルこそ、現代の「パトリモニー」コレクションの原型となっている。

 2013年には、ヴァシュロン・コンスタンタンは「パトリモニー」のミニット・リピーターモデルに挑み、ジュネーブ・シールを取得した超薄型のキャリバー1731を開発した。このモデルは、世界で最も薄いミニット・リピーター・ムーブメント(厚さ3.9mm)と、世界で最も薄い手巻きのミニット・リピーター・ウォッチ(ケース厚8.1mm)というふたつの記録を打ち立てたのだ。驚異的である。

「パトリモニー」は、その形状が特徴のひとつだ。アプライドインデックスは繊細なカーブを描くケースの輪郭に沿って緩やかな弧を描くよう配置されており、針はパール状のミニッツトラックに沿って時を刻む。男性用も女性用もあり、ケース径は36mmから42.5mmまで揃う。先述のミニット・リピーターのほか、超薄型のパーペチュアルカレンダーや、レトログラード日付表示を備えたモデル、そこにさらに高精度ムーンフェイズを組み合わせたモデルなど、自社製ムーブメントにさまざまな複雑機構を搭載してきた。まさに不朽のクラシカルなコレクションといえるのだ。

「パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト」のダイヤル。

左:「パトリモニー・マニュアルワインディング」は39mmで着用感も良好。右:同モデルの18KPGケース。

 新作で私が特に注目したのは、40mmから39mmへとわずかに小ぶりとなった「パトリモニー・マニュアルワインディング」。ホワイトゴールドとピンクゴールドの2モデルが登場した。ヴァシュロン・コンスタンタンらしいスタイルだが、ホワイトゴールドのケースにゴールドのマーカーと針を合わせるなど、伝統的なデザインの中に新しい要素を加えてアップデートさせている。これらのモデルがどれほど素晴らしいかを十分に理解するには、その歴史と時計界における位置付けを振り返る必要がある。私はこの時計のスリムなシルエットとすっきりとしたダイヤルが大好きだ。洗練されたドレスウォッチの典型だと思う。

 シンプルであればあるほど、完成されたデザインを作り上げるのは難しいとされる。パトリモニーは、偉大なマスターピースと同様に、決して流行に左右されないデザインである。

パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイトアイコニックなふたつの複雑機構を搭載する新作。ダイヤル上部にレトログラード式のデイト表示を、6時位置に122年に1回の調整で済む高精度ムーンフェイズを配した。シースルーバックから、マルタ十字を象った22Kゴールド製ローター搭載の自社製キャリバー2460 R31Lを鑑賞できる。ストラップは新色のオリーブグリーンで、現代的かつ軽やかな印象だ。自動巻き、18KWGケース、42.5mm。¥7,348,000 Vacheron Constantin(ヴァシュロン・コンスタンタン TEL.0120-63-1755)