COMPLETE CALENDAR WATCHES
ブランパンを象徴する機構 “コンプリートカレンダー”の魅力
March 2023
月、曜日、日付のトリプルカレンダーにムーンフェイズを加えたコンプリートカレンダーは、ブランパンがとても大切にしている機構である。
text tetsuo shinoda
フィフティ ファゾムス バチスカーフ コンプリートカレンダー
「フィフティ ファゾムス」の兄弟モデルとして1956年に誕生したのが、「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」。バチスカーフとはスイスの物理学者オーギュスト・ピカールが開発した小型潜水艇のことであり、時代の最新テクノロジーを思わせるようなシャープなベゼルのデザインが特徴だった。ダイバーズウォッチは潜水計器として誕生したため、ケースの強度や視認性が重視され、繊細な付加機構が組み込まれることは極めて稀である。しかしブランパンには、約70年にわたって積み重ねてきたダイバーズウォッチのノウハウがあるため、コンプリートカレンダーという機構も組み合わせることが可能なのだ。ブランパンの象徴たるこの機構を、いつでもどこでも使いたいと考えるなら、モダンなダイバーズウォッチであるこのモデルが間違いない。カジュアルはもちろんのこと、スーツスタイルのハズシとしてもよさそうだ。チタンのケースはややグレイメタリックな色調となっており、ダイヤルやベゼル、ストラップも同系色でまとめられている。カレンダーディスクやムーンフェイズのディスクもモノトーンのため、全体の色のバランスも秀逸。細部にまで気を配った時計だ。搭載するのは自社製キャリバー6654.P。自動巻き、Tiケース、43mm。300m防水。
コンプリートカレンダー機構は、ブランパンの歴史と深く関係している。ジャン・ジャック・ブランパンによって1735年に創業したブランパンは、現存するスイス最古の時計ブランドである。1953年にダイバーズウォッチの原点とされる傑作「フィフティ ファゾムス」を誕生させるなど時計業界で高い評価を受けていたが、1970年代の日本から始まったクオーツ革命に影響を受け、一時休眠状態に陥ってしまう。
この危機を救ったのが、時計業界の凄腕経営者として知られていたジャン-クロード・ビバーだった。彼は1983年に、友人で高級ムーブメント製造会社フレデリック・ピゲの社長であったジャック・ピゲとともにブランパンの再興に乗り出し、当時は時代遅れとみなされていた機械式ムーブメントに徹底的にこだわった時計を次々と生み出してゆく。それらは後に「シックス・マスターピース」と呼ばれることとなり、機械式時計の再評価へとつながった。
このシックス・マスターピースとは、6種のコンプリケーションウォッチのことで、ムーンフェイズ、ウルトラスリム、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、トゥールビヨンがそれにあたる。そしてその第1弾モデルとして1983年に誕生したのが、ムーンフェイズを搭載した「コンプリートカレンダー」であった。つまりこの機構は、ブランパン再興のシンボルであり、そしてスイスの機械式時計が再評価されていく出発点でもあった。それだけ重要な機構なのだ。
そして2022年も、コンプリートカレンダーはブランパンの象徴であり続ける。12時位置のふたつの小窓で月と曜日を表示し、カレンダーは針式の表示となっている。6時位置のムーンフェイズには顔を描き込むのが、変わらないブランパンの流儀。創業地の名を冠したドレスウォッチの「ヴィルレ」だけでなく、モダンダイバーズウォッチの「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」にもこの機構を組み込んでいる。
現在のコンプリートカレンダー搭載モデルは、いずれも自社製のキャリバー6654系のムーブメントを使用しているため、カレンダー表示のレイアウトは基本的に同じである。しかしコレクションやケースサイズ、さらにはカラーリングによって受ける印象はかなり異なる。つまりブランパンのレガシーを、自分のスタイルに合った時計で楽しめるということ。だからブランパンのコンプリートカレンダーは、誰にとっても魅力的なのだ。
ヴィルレ コンプリートカレンダー
“スイス時計産業のゆりかご”と称されるジュウ渓谷にある小さな町ヴィルレは、ブランパンの創業地。この聖地の名を冠したドレスウォッチは、コンプリートカレンダーモデルにとって本家本流といえる。搭載する自社製キャリバー6654.4は、72時間のロングパワーリザーブながら厚みは5.48mmに抑えられており、時計全体の厚みも10.9mmしかない。着用時には見えないラグの裏にカレンダーの調整ボタンを備える「アンダーラグコレクター」は、ブランパンが特許を取得した機構。自動巻き、SSケース、40mm。