BECAUSE YOU'RE GORGEOUS

レストモッドの美学

July 2024

旧車を新品同様に仕上げ、現代の生活にマッチした仕様に改造したものをレストモッドと呼ぶ。中でもセオン デザインが手がけたポルシェ911は、自動車の芸術作品である。THE RAKEはその乗り味を確かめるため、オックスフォードシャーへ向かった。
text simon de burton

歴代のどのモデルとも違うセオン デザインのポルシェ911。空冷911の個性を抽出し、まったく新しいクルマを作り上げている。ボディのほとんどはカーボン製となっている。

 英国のサマセット州にあるチェダー峡谷を初めて訪れたのは、1976年の長く暑い夏のことだった。それは学校の遠足で、私たち小学生を暑苦しいロンドンから遠ざけてくれた。この時期の記録によると、6月から8月末までの間、英国各地での気温は、いつも30度を超えていた。

 数週間前、私が「英国で2番目に偉大な自然の驚異」と呼ばれるこの地を再び訪れたときは、目的が違っていた。崖沿いの曲がりくねった道で、軽快でユニーク、そして優美に仕上げられたポルシェ911のハンドルを握るのだ。今回はこの土地ならではの寒さと雨に見舞われてしまったが……。

 “GBR00l”は、オックスフォードシャーを拠点とするセオン デザインが英国のバイヤーのために製作した最初のクルマである。同社は、「バックデイト」または「レストモッド」と呼ばれる911を提供している。1964年から製造された空冷モデルのデザインと1999年に登場した水冷世代の性能を組み合わせるために、一から作り直したクルマである。

 2016年に設立されたセオン デザインは、旧型911のモディファイを手がけるメーカーだ。設立したのは元自動車デザイナーのアダム・ホーリーである。最初はホーリーが自分用にクルマをカスタマイズすることから始まった。

「私はメカニックではありませんから、クルマの製作はプロに依頼していました。最初に作ったのは993世代のスーパーカップ・カーのエンジンを搭載した911 SC でした。運転し始めてすぐに、このクルマにはマーケットでの需要があると感じました。なぜなら、ガソリンスタンドで給油する度に多くの人に話しかけられ、再び発進するまでに20分もかかってしまうことが何度もあったからです」とホーリーは言う。

THEON DESIGN / Porsche 911

 セオン デザインの立ち上げにあたり、ホーリーは経験豊富な911のエンジニアたちと協力し、3台のクルマにレストアを施すことから始めた。これらはパソコンの画面上の3Dモデリングを使って行われた。このシステムを使って、今日のようなレストア・ビジネスを発展させたのである。ホーリーはセオン デザインのクルマを、レストモッドでも、バックデイトでもなく、「レクリエーション」と呼びたいという。なぜなら彼の911は、ポルシェの生産ラインから生まれた特定のモデルと同じ形をしているわけではないからだ。

「このクルマは、さまざまな世代の911の融合なのです」と彼は言う。ドアミラーは991スピードスターのコンセプトカーのものをベースにしている。フロントエンドの処理は1970年代の希少なRSRレーシングカーにインスパイアされている。リアウイングはオリジナルのクルマに似ているが、微妙に手を加えてある。

 他の多くの空冷911のモディファイと同じく、ベースとなっているのは1989年から94年の間に生産された964世代の車両である。なぜなら後の993世代はボディ形状が大きく異なるのに対し、964のボディパネルは生産開始時にまでさかのぼるすべての911と互換性があるからだ。

「964はクラシックな形をした最後の空冷911でした。しかし、1990年代になると重量増が問題となってきます」

ベースとなっているのは1989年から94年の間に生産された964世代の車両。空冷ならではのシルエットで高い人気を誇るモデルだ。

 セオン デザインの解決策は、ボディのほとんどをカーボンファイバーで作り直すことだった(ドアだけは側面衝突を考えてスチール製)。その結果、総重量は1,163kgとなり、通常の2輪駆動の964カレラ2より200kg、4輪駆動の964カレラ2より300kgも軽くなった。ロータスの創業者コーリン・チャップマンの名言「軽さを加えろ」に忠実だったわけだ。

 エンジンも強化されている。911の伝説的なフラット6エンジンは、GBR001の場合、7,350rpmで390馬力を発揮するようにチューンアップされている。

 特注のミリタリー仕様の配線ケーブル(オリジナルよりはるかに軽量)を採用し、パワーステアリングとエアコンのコンプレッサーをフロントに移設した結果、リッターあたり100馬力を発生し、重量配分もほぼ完璧な911が誕生した。

 おまけに、6つの独立したスロットルボディを採用したエンジンの改造によって、驚くほどクリーンでミニマムな外装を実現させている。まさに自動車の芸術品といえるだろう。ホーリーの美学、そしてディテールへのこだわりは、スレートグレーの塗装、クラシックなフックススタイルのホイール、そして控えめなクローム装飾に表れている。

微妙にモデイファイされたリアウイングのライン。

ホイールにはクラシカルな5本スポークのフックススタイルが採用されている。

 内装に目を移すと、通常の964ではプラスチックでできている部分がすべてアルミニウムに置き換えられている。レカロ製シートとドアパネルは、ボッテガ・ヴェネタ風のレザーでトリミングされている。ダッシュボードの計器類は、オリジナルを電子制御で再現したものだ。

 少なくともルックス面では、セオン デザインはポルシェの伝説的スポーツカーである911を、特別なキャラクターを保ちながらアップデートし、改良するという目標を間違いなく達成した。ではGBR001の乗り味はどうだろうか?

 1981年型911 SCを過去20年間所有してきた私は、このクルマがいかに崇高なドライビング・マシンになりうるかをよく理解しているが、セオン デザインはそれを新たな次元へと押し上げた。

 低速域ではおとなしいが、いざとなれば猛烈な加速も可能である。そのハンドリングはとても確実で予測しやすい。ハンドルを握ることに熱中していないともったいないような気がするほどだ。セラミック・コーティングされたエキゾースト・システムの咆哮がチェダー峡谷の壁に響き渡る。ヒューランド製の6速ギアボックスが、芳醇なエンジンの広い回転域をフルに活用することを促す。

 GBR001に一度でも乗ったことがある人は、必ずこのクルマを所有したいと思うだろう。セオン デザインの改造費の価格が£380,000からで、さらにドナーカーの価格(おそらくさらに£40,000)がかかる(プラス税金も)。その価値はある。ただ、私には払うことができない額である。1976年の時点で、GBR00lでチェダー峡谷をクルージングする日が来ると知っていたら、私は血眼になって、そのときから貯金を始めていただろうに……。

横に連なる丸型メーターは911の代名詞。すべて最新の電子制御が組み込まれている。

内装はオリジナルでプラスチックだった部分がすべてアルミニウムに置き換えられている。

 世界を見渡すとこのセオン デザイン以外にも素敵なレストモッド ファクトリーが存在する。THE RAKEが注目する6つのファクトリーをご紹介していこう。

RESTO-MOD FACTORY 001: ABODA GARAGE
エレガンスの極み、新車で手に入る190SL、280SL

ABODA GARAGE/ 190SL MERCEDES BENZ

 ABODA GARAGEは日本で展開されるレストモッドのブランドだ。メルセデスベンツ190SLと280SLの2車種を取り扱っている。ベースとなる車両はヨーロッパやアメリカなどで手配され、シャシーとボディはドイツの工場で丁寧にレストアされる。

 組み付けられる部品の約90%は当時の新品、もしくは再生産された新しい部品だという。クラシックカーは故障や部品供給の心配があるが、美しいクルマに安心してスタイリッシュに乗りたいという顧客に、2年間の保証をつけた「新車」としてクルマを提供している。現車はボディからエンジンルームまで、まるで60年の時をタイムトラベルしてきたかのように美しい輝きを放っている。

60年前の顧客と同じように内外装のカラーやレザーのフィニッシュまで自分で選ぶことができる。価格は190SLが€320,000、280SLが€355,000となる。納期はおおよそ1年、年間の日本への生産割当台数は10台だという。Aboda Garage

RESTO-MOD FACTORY 002: SINGER
現代のブームの火付け役

SINGER/ Porsche 911先日、日本輸入第一号車として公開された「ポルシェ911リイマジンド・バイ・シンガー・クラシック・スタディ」。ベースとは964型ポルシェ911のクーペボディ。デザインはナロー風となっている。エンジンは4Lで、390bhp /7,000rpmを発揮する。足回りはオーリンズ製可変式ダンパー、ブレンボ製キャリパー、カーボン・セラミック・ローターなどが装備されている。

 シンガーは2009年にカリフォルニア州ロサンジェルスで設立された。レストアラーとしてはもはや老舗ともいえるブランドだ。空冷時代の964や930ターボをベースに、完璧なレストアとアップデートを施し、第一級のスポーツカーに仕上げている。

 この911を徹底的にレストアするアイデアは、創設者ロブ・ディッキンソンが考え出したといっても過言ではない。スローガンは“Everything is Important”であり、ディテールにこだわったクルマ作りに定評がある。2017年にはスイスに時計部門「Singer Reimagined」を立ち上げ、自動車の枠を超えてブランドは成長を続けている。日本では高級外車を多く扱うディーラーが手がける予定で、国内で正規ルートで買うことができそうだ。

レザーに包まれたインテリア。前席にカーボン製バケットシートが装着されている。ダッシュボードには、Apple CarPlay対応オーディオやエアコン操作パネルが収められている。写真の車両のレストア費用は¥80,000,000以上(ドナー車両別)

RESTO-MOD FACTORY 003: CYAN RACING
レースチームが手がけた名車

CYAN RACING / volvo P1800ボディはカーボン製で車重990kgと軽い。これに2.0Lターボ414馬力のエンジンが組み合わされる。パフォーマンスは抜群だ。

 シアン レーシングは1996年、スウェーデンにて設立された。もとはボルボのワークスを運営していた。そのチームがレストモッドしたのが、2020年に発表されたボルボP1800シアンである。初代P1800が発売されたのは1960年。ジャガーEタイプの1年前、フェラーリ250GTOの2年前、ポルシェ911の3年前だった。往年の名車を現代のスーパースポーツとして仕上げた一台である。

ドライビング・エクスペリエンスを歪めるようなドライバー補助装置はなく、スタビリティ・コントロール、ABS、ブレーキ・ブースターもない。インテリアは当時の雰囲気をとことん追求したものとなっている。

RESTO-MOD FACTORY 004: E-TYPE UK
流麗なクーペに最新装備を

E-TYPE UK / Jaguar E-type

 E-Type UKは2008年に英国ケント州にて設立されたメーカーだ。その名の通り、1961年発売の名車、ジャガーEタイプを専門に扱う。もともとはレストアショップだったが、その仕様を突き詰めていくうちに、現在のようなレストモッド・ブランドとなった。エンジンは400bhpにパワーアップ、ミッションや足回りも強化型に換装され、第一級のスポーツカーに仕上がっている。

内装はクラシカルだがLEDイルミネーション、スタートボタン、電動ウインドウ、セントラルロック、シートヒーター、Bluetoothサウンドシステムなど最新装備の搭載が可能だ。

RESTO-MOD FACTORY 005: TOTEM AUTOMOBILI
大パワーで蘇るジュリア

TOTEM AUTOMOBILI/ Alfa Romeo Giulia GTA

 トーテム アウトモビリは2009年に創業したイタリアのスタートアップ企業である。1965年に登場したアルファ ロメオ ジュリア GTAに現在のアルファ ロメオの2.8リッター V6ツインターボエンジンを搭載した「GT スーパー」を製造している。他に100%EVのバージョンも用意されている。外装はカーボン製で、内装にはレザーがふんだんに使われている。現代のスーパーカーにも引けを取らないパフォーマンスを誇るレストモッドである。

トーテムのGTスーパーは600psの大パワーエンジンを搭載するも、車重は1,180kgに抑えられており、0-100km加速3.18秒、最高速度250km/hをマークする。内装はヴィンテージ感溢れるものだが、最新のインフォテイメント・システムが搭載されている。

RESTO-MOD FACTORY 006: LUNAZ DESIGN
持続可能なクラシックカー

LUNAZ / Rolls-Roys

 ルナズ デザインは2019年に英国にて創業した。投資者にはデビッド・ベッカムも名を連ねているという。アストンマーティンやジャガー、ロールス・ロイスなどの往年の名車を、電動化して蘇らせることを目的としている。レストモッドに加え、より環境に優しいクルマの開発を目指しているブランドである。

電動化されたロールス・ロイス ファントム。400km以上の最大航続距離を誇る。内装は、オリジナルを尊重しつつ、より現代的な表面処理が施され、カスタマイズが可能。最新のタッチスクリーンなども装備されている。