北川美雪の「良い服」は人生を変える
Good Clothing Can Change Your Life

VESTAのスーツコンサルタント、北川美雪氏が、「パワーオブスーツ」をキーワードに、スーツを単なる服ではなく「人生を変える武器」として捉え、その魅力をお伝えしていく。

【第1回】ドレスウェア好き紳士、セカンドライフの装い変化を語る

Thursday, March 6th, 2025

Click here for the English version.

 

 

 はじめまして、北川美雪です。私はこれまで、多くのビジネスリーダー、エグゼクティブ、政治家、そして感度の高い紳士たちのスーツ選びをお手伝いしてきました。VESTAのスーツコンサルタントとして、単に「良いスーツ」を提案するのではなく、「その人が本来持つ魅力を最大限に引き出す一着」を提供することを使命としています。

 

 本コラムでは「パワーオブスーツ」をキーワードに、スーツを単なる服ではなく「人生を変える武器」として捉え、その魅力を皆さんにお伝えしていきます。スーツ愛好家の紳士淑女に加え、国内外のスタイルインフルエンサーや成功者のインタビューを交えながら、現代におけるスーツの役割を再定義し、ビジネスやプライベートにおいて一歩先を行くための着こなしのヒントをご紹介します。

 


 

和田健志さん Instagram: @kwada1963

 

長年愛用する銀座ヴェスタで仕立てた、スコティッシュツイードのジャケットの絶妙なチェック柄。

 

 

 

 元大手保険会社にて長年活躍し、現在はセカンドライフを満喫されている和田健志さん。彼の装いには、単なるファッションを超えた哲学が感じられます。今回は、和田さんの着こなしの原点、影響を受けたスタイル、そしてセカンドライフにおけるファッションの在り方についてお話を伺いました。

 

 

仕事からセカンドライフへ

 

 大学卒業後、新卒で国内大手保険会社に入社し、34年間勤め上げた和田さん。57歳のときに早期退職し、友人の誘いで大阪の医療法人に転職。その後、60歳で完全リタイアし、現在は全国を旅しながら、悠々自適な日々を送っています。彼のInstagramには、旅先での風景と共にジャケットスタイルがよく登場します。

 

「スーツを着る機会は減りましたが、ジャケットは常に持ち歩いています。食事の際など、上着があるとやはり安心しますね」

 

 リタイア後の生活において、ファッションの大切さはむしろ増していると和田さんは語ります。カジュアルな服装が許される場面が増える一方で、自身のスタイルを大切にすることで、日常にメリハリをつけ、充実感を得られるのだそう。

 

「ネクタイを締める機会は減りましたが、色や柄を選べば、普段の装いにもジャケットは欠かせません。出かけるときにジャケットを羽織ると、一日がきちんと始まる気がするんです」

 

 

 

洗練された装いと所作は、まさに大人のダンディズムを象徴している。

 

 

 

スーツとジャケットの原点

 

 和田さんのファッション哲学は、高校時代のアイビーブームに影響を受けたことから始まっています。当時の制服のルールが厳しかったことで、靴や小物にこだわるようになったのだとか。

 

「ローファーは禁止だったので、16歳の頃からストレートチップの革靴を履いていました。最初に親に買ってもらったのは大塚製靴のもの。たった一足しか持っていなかったので、毎日しっかり磨いていましたね」

 

 大学時代はカジュアルなスタイルを楽しんでいましたが、社会人になると父親の馴染みのテーラーでイージーオーダーのスーツを仕立ててもらうように。そして、自身で初めて購入したスーツはポール・スチュアートのものだったそうです。

 

「当時の初任給が20万円弱。スーツは10万円ほどしましたが、ボーナスが出るたびに一着ずつ買い足していました」

 

 スーツに対するこだわりは、長年のキャリアを通じて培われましたが、今でもその意識は変わりません。

 

 

 

影響を受けたジェームズ・ボンドのスタイル

 

 紳士服のアイコンとして和田さんが挙げるのは、映画『007』シリーズのジェームズ・ボンド。特にピアース・ブロスナンのスタイルが好みなのだとか。

 

「彼はバランスが取れた装いをしていました。特に影響を受けたのは、ダブルカフスのシャツ(ターンナップ)、TVフォールドのポケットチーフ、そしてシングルスーツの際のボタンの開け閉めの所作。立ち上がった時に第1ボタンを留め、座るときに外す。こうした細かいポイントは、今でも意識しています」

 

 映画のワンシーンのように、洗練された所作と装いは、和田さんの日常にも自然と溶け込んでいます。さらに、時計や靴、ベルトなどの小物にも気を配ることで、トータルコーディネートの完成度を高めているそうです。

 

 

この日も、ポケットチーフはボンドに影響を受けたTVフォールド。

 

 

 

時計や靴へのこだわり

 

 スーツやジャケットと同様に、和田さんは時計や靴にも強いこだわりを持っています。

 

「年齢を重ねるほど、シンプルな3針の時計を好むようになりました。実は大学卒業時からロレックスをしていたんですが、その頃はまだちょっと背伸びをしていた感覚もありましたね」

 

 また、靴にまつわるエピソードも印象的です。

 

「北九州駐在時、ある取引先の社長が商談後にエレベーターホールまで追いかけてきて、『和田さん、ジョンロブのシティIIですよね。私も愛用しているんです』と話しかけてくださいました。ファッションを通じて、思わぬところで共感が生まれる瞬間があるんですよね」

 

 

ブラウンのジョンロブ製フルブローグシューズが醸し出すクラシックな品格。

 

 

 

装いがもたらす仕事とプライベートへの影響

 

 和田さんのこうした装いへの気配りは、仕事面・プライベート面の両方でポジティブな影響を与えてきました。

 

「仕事では、装いを整えることで自然と同じ価値観を持つ人と早く分かり合えましたし、プライベートでも、ドレスコードがあるレストランでは初対面の方ともスムーズに会話が弾むことが多かったですね」

 

 身だしなみを整えることは、自分自身のためだけでなく、周囲への印象にも影響を与えるもの。和田さんは、その大切さを長年の経験から実感してきました。

 

 和田さんのスタイルは、長年の経験と自身の哲学が反映されたもの。ジェームズ・ボンドに学んだ所作、若い頃から培った「本物」へのこだわり、そしてセカンドライフを豊かにする装いの工夫。

 

 彼の着こなしは、単なるファッションではなく、人生そのものの品格を表しているのです。

 

 

Author: 北川美雪(きたがわ みゆき)

東京・銀座のテーラー「VESTA by John Ford」のゼネラルマネージャー。英語、イタリア語、フランス語に堪能、メンズファッションのエキスパートとして25年のキャリアを持つ。確かな素材選びとセンスの良い仕立てに定評があり、国内外のトップ経営者、政治家、各国の要人・大使らが顧客として名を連ねる。歴代の駐日イタリア大使にも絶賛された。ファッションに関する深い造詣を持ち、多くの雑誌などで記事を執筆している。好きな食べ物は「てっさ」である。https://johnford.co.jp/