美味しい溜息

Friday, March 26th, 2021

text shige oshiro

photography tatsuya ozawa

 

 

 

お気に入りの一軒でもある「匠 誠」は、ビルの6階にひっそりと入る隠れ家的な店。大将の志村誠氏は、四谷の「すし匠」で14年間修業した後に独立。今年4周年を迎えた。

 

 

 

 物心がついた頃からだろうか、馴染みの鮨屋の大将に可愛がられ、板前になろうかと思うぐらいに鮨屋の魅力に取り憑かれた。今は愉しむことに専念し、鮨屋巡りを趣味としているが、もうかれこれ全国300軒近くは、食べ歩いただろうか。銀座の「すきやばし次郎」や「鮨青木」、四谷の「すし匠」や「三谷」、青山の「進吾」、金沢の「小松弥助」や「乙女寿司」……名だたる名店はもとより、その土地の地元の漁師が通う小さな鮨屋から、住宅街で老夫婦ふたりでひっそりと営む小さな鮨屋まで、ありとあらゆる店を巡っている。どこもそれぞれ個性があって、実に愉しいのである。

 

 当たり前のことを言うようで笑われそうだが、日本は鮨屋の宝庫だ。

 

 鮨屋の楽しみ方は人それぞれだと思うが、私は、ひたすらに大将と向かい合い、阿吽の呼吸で供される、ひとつひとつのネタをじっくりと味わい、美味しい溜息をつきながら、静かに頂くのが好きである。

 

 私の持論ではあるが、暖簾越しから大将の顔が正面に見えるお店は、間違いなく美味い。大将の顔を見ながら入店し、目の前に座れたらまず、間違いなく美味しいものが供される。その時点で期待は膨らむばかりである。

 

「鮨屋の板前は、歌舞伎役者と一緒だよ。ここは舞台。多いに見栄を切らないとね」

 

 嬉しそうに話をしていた馴染みの鮨屋の大将の顔をふと思いだした。大きくてふっくらした手で握られる大将の鮨は、名店と呼ばれるお店ともまたひと味違う、やさしい味なのである。

 

 さて、今宵も大将の歌舞伎を見に行くとするか。

 

 

春子鯛の握りは同店を代表する一貫。

 

同店も暖簾越しに大将の顔が見える。〔匠 誠〕東京都新宿区新宿4-1-9 新宿ユースビル6階 TEL.03-6457-7570

 

 

 

Letter from the President とは?

ザ・レイク・ジャパン代表取締役の大城が出合ってきたもののなかで、特に彼自身の心を大きく動かしたコト・モノを紹介する。