HEIRS OF ELEGANCE

受け継がれるエレガンス──サヴォイア家と近衞家

October 2025

2025年5月、イタリア旧王家で王位請求者のエマヌエーレ・フィリベルト・ディ・サヴォイア伊王太子が、サヴォイア家騎士団のガラディナーのため来日。五摂家筆頭で維新後は公爵家の近衞家後嗣、近衞忠大氏と対談を行った。
text tsuyoshi giuseppe tomita
photography tatsuya ozawa

Tadahiro Konoe
近衞 忠大
1970年東京生まれ。中臣鎌足・藤原道長直系の五摂家筆頭で、維新後は公爵家の近衞家後嗣。大正天皇と近衞文麿首相は曽祖父、父は国際赤十字元会長、母は三笠宮崇仁親王長女。スイス育ちで英仏語に堪能なクリエイティブ・ディレクター。宮中歌会始で長年両陛下の御前で詠じ、近衞家の至宝を収めた陽明文庫など伝統文化の継承・普及に多数携わる。(https://youtu.be/2zP8C7fULVE?si=qKiSumpBvNTkdBDQ

Emanuele Filiberto di Savoia
エマヌエーレ・フィリベルト・ディ・サヴォイア伊王太子
1972年スイス生まれ。サヴォイア伊王家当主、サヴォイア家騎士団総長、ヴェネツィア及びピエモンテ公爵として、世界で人道・慈善活動を行う。飛行機やヘリコプターの免許を持ち、サンレモ音楽祭出場などの現代的な王子像に加え、実業家としても活躍。サヴォイア家騎士団 日本支部 https://savoia.or.jp

 日伊を代表する大貴族の直系であるエマヌエーレ・フィリベルト・ディ・サヴォイア伊王太子と近衞忠大氏はジュネーブのインターナショナルスクールの同窓で、「エマヌエーレ」、「ヒロ」と呼び合う仲だ。ペコラ銀座の佐藤英明氏にオーダーした新しいスーツを着用し、エレガンスについて話していただいた。伊王太子は言う。

「エレガンス?装いなら、何といってもブルー、ブルー、ブルー。そしてシンプルであること。サヴォイア家にはシンプルさがエレガンスの重要な要素との考えがあります。これは、イタリアでも最高峰の仕立てを習得した佐藤さんが、日本人の緻密さと誠実さで作った最高のスーツ。着られることは無上の喜びです。サヴォイア家にはブルー・サヴォイアという固有の色があります。さっき佐藤さんの店で、それを彷彿とさせるシルクカシミアのイタリア生地を見つけました。次はこれですね。特に値の張る生地とのこと、後で相談しましょう(笑)。裏地はもちろんブルー・サヴォイアで。他にも、ノード・サヴォイアという結び方など、家に伝わるさまざまな伝統があります。こういう伝統継承を含め、日伊は文化や考え方が似ていますね。父の服は、長くミラノのペコラ親方が作っていましたが、一番弟子の佐藤さんは、それを手伝っていたと聞きました。世界の狭さにはびっくりです」

 これを聞いた近衞氏はこう応えた。

「思い描いた通りのエレガントなスーツに満足しています。仕立てはもちろん、着心地もスタイルも最高。アヴァンギャルドな美的センスで有名だった近衞家熈(豫樂院)へのオマージュで、スーツとジレの裏地を明るいブルーグレー地にしたのは内緒です(笑)。日本の貴族にも古来から階位や家に応じて固有の色や柄などがあって、家や背景がわかる文化があります。時代によりますが、例えば五摂家筆頭の近衞家では黒地に躑躅立涌(つつじたてわく)という織柄。冠には俵菱。幼い頃から家族の集まりが祖父の三笠宮邸などでしたから、スーツは必須でした。英国仕込みの叔父の寛仁親王殿下(ヒゲの殿下)には厳しく指導をされましたが、立場と場所にふさわしい装いの重要性を教えてくれたと感謝しています。次は、夏のお昼のガーデンパーティ向けに、生成りのアイリッシュリネンで作りたいと思っています。曽祖父の文麿や叔父たちへのノスタルジーと憧憬を込めて、夏の『エレガントの極み』をテーマとしたいですね」

PECORA GINZA

ペコラ銀座イタリア、ミラノの最上級オーダーメイド、マリオ・ペコラの系譜を引く名店。
中央区銀座4丁目3-2 清水ビル3F
TEL.03-3535-6465(要予約)
営業時間:11:00~19:00 日祝定休
www.pecoraginza.com

THE RAKE JAPAN EDITION issue 65
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