Exclusive Interview Kevin Bacon: NO TIME TO DIE

【インタビュー】俳優ケヴィン・ベーコン 今、この瞬間を生きる

September 2025

半世紀近くにわたり、ハリウッドを生き抜いてきたケヴィン・ベーコン。名声に縛られることなく、ただ衝動のままに走り続ける。67歳にしてなお、彼の時間は今、この瞬間にある。
text stephen wood
photography brian bowen smith
fashion direction grace gilfeather

Kevin Bacon / ケヴィン・ベーコン1958年、ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。『アニマル・ハウス』(1978年)で映 画デビュー。『フットルース』(1984年)でブレイクを果たして以降、『アポロ13』(1995年)、『ミスティック・リバー』(2003年)などに出演。音楽活動にも取り組み、実兄と結成したバンド「ザ・ベーコンブラザーズ」でも知られる。さらに、俳優ネットワークを題材にした遊び「ケヴィン・ベーコンの6次の隔たり」が広まり、ポップカルチャーにおける特異な存在感を放っている。

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 ケヴィン・ベーコンは他人からどう思われようと気にしない。名声についてまわる見せかけのイメージや地位に振り回されないくらいの経験を積んでいる。

「自分がバカに見えようと、平気さ」

 表裏がなく謙虚、そして噓くささを嗅ぎ分ける感性。傑作映画の主人公を見るようで、思わず応援したくなる。

「オスカーは獲ったことがない。でも、俺の名前がついた遊びはあるな(笑)」

 このインタビューは、第97回アカデミー賞授賞式の3日後に行われた。式の当日、ベーコンは粋なダークスーツを身に纏い、妻で俳優、監督でもあるキーラ・セジウィックとともに、アフターパーティに出席していた。彼が最後に授賞式に参加したのは、1984年にまで遡る。その年の大ヒット作、『フットルース』に主演した清潔感溢れる新しいスターは、音響編集賞のプレゼンターとして登壇。ハリウッド中の話題をさらった。

「クレイジーだったよ。俺はあの年の最高にイケてる男だったんだよな?『フットルース』は、俺がハリウッドに足を踏み入れる最初の一歩だった」

 ベーコンは『フットルース』で一躍脚光を浴びたものの、その後は主演男優としては流行から振り落とされた。再起のきっかけを摑んだのは、若さゆえのエゴを抑え、個性派俳優の道を選んでからだ。『JFK』(1991年)や『ア・フュー・グッドメン』(1992年)、『ミスティック・リバー』(2003年)など、時代を代表する数々の作品において、ベーコンは脇を固めてきた。ジャック・ニコルソン、ロバート・デ・ニーロ、メリル・ストリープ、ダスティン・ホフマンといった伝説的俳優と共演し、クリント・イーストウッド、オリバー・ストーン、ポール・バーホーベンといった巨匠たちの作品に出演した。ベーコンは半世紀近くにわたるキャリアを通じ、実に100本以上の映画やテレビ番組、舞台に出演してきた。その功績は決して軽んじられるものではない。だがベーコンは、作品がどう受け取られるかを実はとても気にしている。

「演じるのが大好きなんだよ。演技が好きという理由だけで、強いこだわりがある。『アクション』と『カット』の間こそが至高の時間。大きく羽ばたくための場なんだ。それまで磨いてきたスキル、晒け出される人間の脆さや弱さ、これまでの人生で何度となく拒絶、否定されてきたすべての経験を動員して芝居に昇華させる」

 1984年にイケていた男は、今では「サバイバー」または「大御所」などと呼ばれることが多い。アカデミー賞を受賞したことのない最高の俳優として名前が挙げられることもある。それは彼のキャリアにおいて、どれだけの意味があり、どれほど重要なことだろうか。ベーコンがアカデミー賞のレッドカーペットを歩いてから40年以上も経っていることに私たちが驚きを示すと、「その記録は今もしっかり更新中だ」と彼は笑い飛ばす。

「行く理由がなかったんでね。あれ以来呼ばれてない。タチが悪かったんだな」

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ハリウッドと農場の2拠点生活 ベーコンは、ハリウッドの世界に片足を突っ込みつつ、いわゆる一般の世界に身を置いている。妻セジウィックとともに、マンハッタンとコネティカット州郊外にある農場の2拠点で生活しているのだ。素朴な暮らしを切り取ったSNSの投稿は何百万ものフォロワーを惹きつける。

「ハリウッドのコミュニティに100%浸っていると思ったことは一度もないな」

 サンダルにスウェットパンツ、Tシャツといういでたち。農場のヤギの前で泥だらけのギターを弾いて聞かせたり、ブタに向かってジョークを飛ばしたり、セジウィックとダンスしたりデュエットしたりする。SNSには、35歳の息子トラヴィスや、33歳の娘ソシーもたまに顔を出す。農場にいるベーコンが、心穏やかに暮らしていることが画面から伝わってくる。

「動物と一緒にいると、自分についてたくさんの気づきがある。あいつらは人間が抱えるストレスに敏感だからね。おかげで精神的に随分救われているよ。心拍が落ち着いていくのを感じる。頭の中の考えごとから抜け出すのはいいこと。瞑想とかって、そういうことだろ?」

 農場を購入したのは、1983年。その5年後に、セジウィックと結婚した。

「馬と過ごす生活に、ずっと憧れを持っていた。それで冗談半分で不動産屋と一緒に家を見て回ったんだ。買うつもりはないのに。で、コネティカット州のこの場所に来たとき、何の縁もない土地だったのに、『ああ、ここにしよう』って」

「夢が叶った瞬間だったね。あの頃の俺は自給自足の生活に心底憧れていた。すごく孤独で、自分と馬と犬がいればそれでいい、とさえ考えていた。仕事から帰ってきたら薪を割ってシンプルな生活に戻るような……そんな生活」

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PHOTOGRAPHY TEAM: BRANDON SMITH, KEVIN MCHUGH, PAUL RAE
GROOMING: BEATE PETRUCCELLI
WITH THANKS TO COPIOUS MANAGEMENT

本記事は2025年9月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 66

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