DEFINING SUCCESS: Exclusive Interview Matthew Macfadyen

俳優:マシュー・マクファディン、成功の定義

September 2024

米国で旋風を巻き起こしたドラマ『メディア王~華麗なる一族~』が、昨年幕を閉じた。トム・ワムズガンズ役を演じたマシュー・マクファディンに、今後のキャリアで目指す先と、それがもたらす意味について訊ねた。
text stephen wood
photography gavin bond
fashion direction grace gilfeather
production jj media

Matthew Macfadyen / マシュー・マクファディン1974年、イギリス・ノーフォーク州生まれ。名門、王立演劇学校で学んだ後、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに所属。舞台俳優として経験を積み、2000年にスクリーンデビュー。2005年、ジョー・ライト監督作の映画『プライドと偏見』でダーシー役を演じて注目を集める。以降、さまざまな映画やイギリスのテレビドラマシリーズで活躍。
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 米国の富豪一族の泥沼劇を描いたHBOのドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』(2018〜2023年)で、マシュー・マクファディンはロイ家の王座に上り詰めるトム・ワムズガンズ役を完璧に演じた。髭を剃り、スーツを纏った計算高いこの役を長らく見てきたから、彼と顔を合わせたとき、イメージの修正に時間を要した。彼は次に演じる役のために髭を伸ばし、頭髪は整えず、服もカジュアルだった。ワムズガンズなら使わない「素敵な」という単語を会話にちりばめ、神経質そうな役柄とは正反対の空気を漂わせていた。

『メディア王〜華麗なる一族〜』は、4シーズン放送され、その巧みな脚本と名演で賞レースを席巻した。シーズン4の最終回が放送されたのは昨年5月。その後マクファディンは新たな道を歩み、さまざまな待機作がある。しかしそれらが世に出るまで、私たちはこのドラマに関心を持ち続ける。それだけ彼はアメリカ人らしい人物を大胆な演技で表現し、強烈な印象を残したのだ。マクファディン自身も認めるが、これは製作総指揮を務めたジェシー・アームストロングが練り上げた脚本のおかげでもあった。次々と繰り出される巧妙なセリフ、巧みに織り込まれた哀愁が視聴者を魅了した。

 ドラマの終焉によりマクファディンは葛藤を抱えているようだ。最高の仕事が終わるのは「ちょっとした心痛」だが、別の角度から自分を見つめてもいる。

「トムをもう演じられないのは寂しいけれど、同じ役を永遠に演じることはできない。だから、役から離れることができて妙にホッとしている部分もあるんだ」

 この中立的な姿勢、相反する感情や意見のバランスを取ろうとする点が彼らしい。彼は時々、話していると最後に言い淀む。おそらく別の考えが頭に浮かび、それにも言及しようとするからだろう。謙虚で、自分を客観的に見つめるタイプでもある。メディアには賛辞の言葉が並ぶ。

「キャリアは超高層レベルまで上昇した」、「時代を象徴するドラマに象徴的な貢献をしたのは間違いない」。業界を制覇した気分かと尋ねてみると、彼は賛辞を受け取りつつも独特の修正を加える。

「確かに、いい波に乗ってる気分です。ヒット作を持つと自由度も少し増しますからね。でもそう簡単な話ではなく、次に何をすべきか必死に考えています。映画に立て続けに出演しても、当たらなかったらおしまい。乗っていた波は……」

サファリジャケット、ヘンリーネックシャツ、チーフ all by Anderson & Sheppard

 そこまで言って彼は言葉を濁す。そしてまた思慮深い態度を見せる。「この業界は特異。そう思っていないと気が触れてしまいますよ。自分の出方をどう変えるべきかなんてわかりません。仕事が来るのを待って、最良の結果を出せるよう尽くすだけ。制作会社を立ち上げる役者もいますが、僕には真似できない」

 このドラマのセリフは、辛辣で醜くて奇天烈なのに、ぐっと心を摑まれる。

「痛みや悲劇は、喜劇と表裏一体だからこそ人の心を揺さぶるんです。痛みがないところにコメディは成立しないし、その逆もまた然り。それをジェシーはわかってる。世界は馬鹿げていて、酷くて、それでいて最高に面白くて、愛情に溢れている。だからこのドラマは愛されたんだと思う」

 大ヒットの影響は今も続く。特に米国では人に気づかれることが増えたため、プライバシーの侵害に悩まされている。

「嬉しさもありますが、妙な気持ちでもあります。僕が一視聴者だったら一緒に自撮りしようなんて考えないですよ。ここ(イギリス)でも、同じ」

「セントラルパークでよくジョギングしますが、最近はいつの間にか並走する人たちがいるので。やはり不安になります」

FASHION ASSISTANT: HELLY PRINGLE
DIGITAL TECHNICIAN: BRANDON HEPWORTH
PHOTOGRAPHY TEAM: PHILLIP BRADLEY, MARTIN ROACH AND ANTHONY SHURMER
GROOMER: CIONA JOHNSON-KING AT AARTLONDON USING ELF, BIO EFFECT & COLORWOW
CAR: ELECTRIC MERCEDES-BENZ SL PAGODA BY EVERRATI

本記事は2024年9月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 60