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藤田雄宏が勧める、今オーダーすべき職人 02:PEGNO D’AMORE

May 2023

遂に誕生! ナポリ在住の日本人カミチャイア
text yuko fujita

Tomoko Hirata / 平田 智子大学を卒業後、広告・舞台の衣装会社でデザイン、パターン、縫製に携わる。子供服の生産管理を経て英国に留学し、2016年よりナポリ。2017年からルカ・アヴィタービレでシャツ作りを学ぶ。2022年に独立し、ビスポークシャツブランド「ペーニョ ダモーレ」を始動。

 何度かお会いしたことのある一級建築士のお父様は、ミラノのサルトリア クレセントやローマのチェレンターノで仕立てたスーツにローマのバッティストーニで仕立てたシャツなどを愛用し、控えめなクラシックエレガンスを愛するとても素敵な紳士だ。“今も未来も心地よい暮らしを”という想いを、衣と住の親子コラボレーションで形にできたら、という夢があったのだろう。ナポリに行ってみれば?と送り出されたお嬢様が、平田智子氏である。

 彼女は2017年、ナポリの心臓部、ガレリア ウンベルトの向かいのパラッツォに入っているカミチェリア、「ルカ・アヴィタービレ」の扉を叩いた。

「私が入ったのはちょうどルカのカミチェリアが軌道に乗り始めた頃でした。ルカのこだわりや美意識、新しいことに積極的に取り組む姿を間近に見られて、インターナショナルなカミチェリアへと成長していくのを中から体験できたことは、貴重な財産になりました。もちろん、仕事においても日々驚きと発見の連続でした」

 パターンや縫製に関しては経験を積んでいた平田氏だが、ナポリでは裁断時において、計算した答えだけに頼らず頭の中で立体的に考え、感覚でハサミを入れていくのに驚かされた。縫い手の個性がそのままシャツに表れ、縫い手によって仕上がりが大きく異なることも、日本の常識からは到底考えられないことだった。だったら素晴らしい縫い手とだけ仕事をしたくて、独立するにあたって、“ナポリでいちばん”の素晴らしい仕事をするマンマに縫製を手伝ってもらうことにした。

 日本ではなくイタリアの、それもナポリで独立するあたりがやはりエネルギッシュだが、ルカのところに入った当時の平田氏からは想像がつかないほど、今の彼女は随分と逞しくなったように思える。

「ナポリではよそ者という感覚でいたら、ずっとよそ者のままなんです。グイグイ中に入って積極的に意見したり、言い負かされないよう、ときにケンカもするようになりましたから、だいぶ逞しくなったと思います。ビスポークのお客様とお話しするときも、責任をもって一緒に作り上げていく意識で仕事をしています」

 しかし、日本人がナポリで仕立てるシャツをビスポークできる日が来るなんて。智子パパに大感謝だ!

ペーニョ ダモーレ(イタリア語で「愛の証」。中世ではシャツは愛の証の贈り物だったことから、そのように大切に仕立てたいとの思いを込めて命名)のシャツ。端正でミシン縫製も美しい。8工程が手縫いだ。

クルーザーのデッキで着る用に顧客がオーダーしたコットンフランネルのパジャマ。風が強い洋上なので、夏でもフランネルが望まれるのだ。ナポリの富裕層からは、こういったオーダーがフツウに入る。

シャツと共生地のトランクスも人気のアイテム。後ろ接ぎがないクラシックなタイプも作る。

DATA

平田氏が日本に帰国するのは年に1回だが、石津健太氏のサルトリア イコア(www.sartoriaicoa.jp)にて、ぺーニョ ダモーレのシャツのオーダーが常時可能。仮縫いもイコアで行われる。仮縫い込みで、納期は約4カ月〜。
bespoke@tomokohirata.com

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 50