ALFRED DUNHILL’S THE WHITE SPOT

愛煙家の憧れダンヒルのパイプ、その魅力

July 2024

ダンヒルは、高品質なクロージングやレザーのコレクションに定評があるブランドだが、躍進のきっかけとなったのは、パイプを中心とした喫煙具であった。そのシンボル「ホワイトスポット」は、今でも愛煙家の憧れだ。
photography natsuko okada

ダンヒルが毎年クリスマスにリリースする限定のパイプセット。こちらは童話『幸福な王子』(オスカー・ワイルド作)をモチーフとした2023年の作品だ。スターリングシルバー製のタンパーは王子をかたどっており、目にサファイア、剣の柄にルビーがはめ込まれている。『幸福な王子』シリーズは2023年から7年間シリーズ化される。これはその第一弾。ブック型ケース付き。コレクター垂涎の一品である。世界限定300本。¥498,300 Dunhill(ダンヒル Tel.0800-000-0835)

 認知科学者の苫米地英人氏は、人間の脳の働きを詳らかにする数々の著書で知られているが、実は大のパイプファンでもあり、パイプについての著作もある。

「1907年7月7日、ロンドンのウエスト・エンドにダンヒルがオープンします。タバコにしてもパイプにしても最高級品ばかりを並べたダンヒルはたちまち人気店となります。さらに5年後、ダンヒルは工房を作って自社でパイプの製作販売に乗り出すのですが、これが業界の常識を覆すものでした。最高品質の材料ばかりを使ったパイプは人々の目を引きましたが、その値段にも驚かされました。その頃の最上級クラスの2倍の価格だったのです。同業者たちはそんな高価なパイプが売れるわけがないとバカにしていたようですが、イギリスの上流階級を中心に飛ぶように売れていきます。貴族たちは、ディナーのあとの喫煙タイムに、そのためだけに仕立てた専用のスモーキングジャケットを着用し、ゆったりとタバコをくゆらせたのです」(『パイプ福音書』苫米地英人著より)

 苫米地氏によれば、現代のパイプ文化はダンヒルによってつくられた部分が大きいという。吸い口に配されたホワイトスポット(白い小さな点でダンヒルパイプのトレードマーク)は、今も昔も愛煙家の憧れなのである。

 しかしながら、気軽に手が出せる葉巻と違って、パイプに接する機会は少ない。生まれてから一度もパイプを吸ったことがない読者も多いだろう。そこで今回はパイプ愛好家であり、ダンヒルパイプのコレクターである広島・富士見カメラ館館長、羽井匡紀氏にご登場いただき、お話を伺った。奥深いパイプの世界(かつては専門雑誌さえ存在した)の魅力の片鱗だけでもお伝えできれば幸いである。

Masatoshi Hanei / 羽井 匡紀広島・富士見カメラ館館長。往年のフィルムカメラやライカのコレクション、販売を手がける。喫煙具とパイプのコレクターとしても知られ、ダンヒルをはじめとする世界一流のパイプを収集している。Instagram:@fujimicamera

―パイプを始めたきっかけを教えてください
「最初は紙巻きタバコをやめようと思って始めたんですよ。そうしたら、香りがいいし、周りの人も嫌がらない。私はよく『パイプは肺にも灰にも気を遣わなくていい』と言うのです。基本的に煙は肺の中には入れませんから(入れる人もいる)、健康への悪影響も少ないはずです」

―葉巻とは何が違うのですか?
「私は葉巻も好きで、よくやるのですが、葉巻はお金がかかります。その点パイプタバコは、圧倒的に安いのが魅力です。パイプ本体は高いものですが、その後のコストは比較にならないほど安価です。また葉巻は保管に気をつけなければいけませんが、パイプタバコは缶入りなので扱いが簡単です。その代わり、パイプはシガーバーなどで気軽に1本というわけにはいきません。レンタルはないので、必ずマイパイプを持参しなければなりません」

―パイプは何本くらいお持ちなのですか?
「ダンヒルに限ると20~30本は持っています。他に日本の作家が作ったものもあります。日常的に使いまわしているのは5本程度です。同じパイプを毎日使い続けるのはパイプのためによくないので、ローテーションを組むようにしています」

すべて羽井氏のコレクションより。ダンヒルの限定セットの数々。すべてブック型のケースに収められている。左から、「インペリアル・ドラゴン」(世界限定88本)、「くるみ割り人形とねずみの王様」(E.T.A.ホフマン作)(世界限定300本)、「ブリティッシュ・ブルドッグ」(世界限定100本)、「ダルメシアン・ドッグ」(世界限定20本)。

―ダンヒルのパイプの魅力はなんですか?
「デザインが洗練されているところです。原料がいいのはもちろんですが、ラインが美しいのです。昔、行きつけのバーのマスターが吹かしているのを見て、『カッコいいなぁ』と思ったのが集めだしたきっかけです。ホワイトスポットは、いつの時代も愛煙家の憧れなのです。銀座のダンヒルには、月に2、3度、髪を切りに行っています(店内にバーバーあり)。その度にパイプ売り場を覗いて、限定品などに出会うと、そのまま置いて帰るわけにはいかなくて(笑)」

―普段はどのようにして楽しまれていますか?
「家でも外でも、ゆっくりとした時間を楽しむのが基本です。パイプ道楽は結構時間がかかるものなのです。掃除をして、葉を詰め火を点けて、一回吸い終わるのに最低でも15~20分はかかります。不便さをも楽しむつもりで……。私はパイプをやるためだけの椅子を特注して作ってもらいました(笑)。肘掛けが特別に長くなっていて、片方にパイプ、もう片方にグラスが置けるようになっています。パイプと酒を楽しむときに、一歩も動かなくていいように考えたものです」

タバコの葉をパイプのボウルに詰めているところ。タンパーと呼ばれる底が平らの棒のような道具でよい塩梅に詰め込んでいく。この加減が難しい。この後、マッチやライターを使って火を点け、ゆっくりとふかしていく。

ダンヒルのパイプの中でも特に優れた木目模様・造形を持つモデルにはDRスターが与えられる。その星の数によって、さらに細かくランク分けされている。奥から、4スターのビリヤード型¥772,970、6スターの極上品 ¥2,231,460、3スターのベント型¥454,190 all by Dunhill(ダンヒル Tel.0800-000-0835)

本記事は2024年5月27日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 58

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