職歴77年、セラフィーニじっちゃんの手作り鞄
Wednesday, November 20th, 2019
こんにちは。
アフターアワーズの来年の仕込みやら発掘やらミーティングやらでローマに来ています(今から数時間にはナポリに向けて出発です)。
ローマはファッション不毛の地とか言われていますが、今回ご紹介するフェッルッチオ・セラフィーニじっちゃんほか、
アルティジャーノに絞っていくと実はいろいろネタがあって、将来的にはもう少し紹介できるんじゃないかなぁと思っています。
セラフィーニじっちゃんの鞄はアフターアワーズで扱いだしてから1カ月ほどで完売してしまいましたが、
今回訪ねたらお願いしていた鞄ができあがっていましたので、11月下旬~12月上旬にはオンラインショップに再び並ぶ予定です。
ローマのフェッルッチオ・セラフィーニじっちゃん(86歳)に作ってもらった鞄を使っていると、「どこの鞄?」とよく訊かれる。興味をもってくれるのは、決まってクラシックなサルトリア仕立てのスーツが大好きな人たちだ。きっと何十年も前から変わっていないであろうじっちゃんの鞄の、素朴で飾らない雰囲気を気に入ってくれたんだと思う。かくいう僕もそうだ。じっちゃんの鞄を使い始めて10年以上が経つけれど、好きなところは、やっぱり今も昔もファッション性が皆無なところだったりする。
じっちゃんは1933年にローマで生まれた。第二次世界大戦中、小学校の地下室が爆撃の避難所となって閉鎖された1942年の朝、馬具職人だった父親に連れられ工房に入ったのが、77年にもなる氏の長いキャリアの始まりだ。
「父が切って、縫って、ポリッシュした大きな革のかたまり、黄金色に光り輝く金具、光沢をたっぷり湛えたサドル。9歳の少年だった私の目には、工房のすべての光景が最高に素晴らしいものに映ったんだ」
フェッルッチオ少年は戦後すぐ、父親の工房「レイナ」で本格的に馬具作りに取り組みはじめた。父親が引退した60年にコンドッティ通りの工房(58年にフランチェスケッティ通りから移転)を閉め、ヴァチカン美術館からほど近い閑静なカイオ マリオ通りに自身の工房を構えた。
じっちゃんの仕事は今も昔も何ひとつ変わらない。最高品質の革を使用しているとか、手縫いだけにこだわっているとか、そういった類の鞄ではないけれど、丁寧かつ実直に作られていて、そこには旧きよきイタリアの職人の手仕事がある。オーバースペックになることも、華美な演出も一切なく、シンプルに、ひとつひとつの工程に嘘偽りなく、実用性(今日的ではないが)・長く使える耐久性を備えた鞄といったところか。
実際にその鞄を10年以上使ってきて、デザインに飽きるどころかむしろ愛着が増していくところに、サルトリア仕立てのスーツとすごく近しいものを感じた。これを読んでいただいている皆さんにもじっちゃんの鞄の素晴らしさを体感していただきたく、今回アフターアワーズのために時間をかけて少量の鞄を作ってもらった次第である。
注文時にこだわったことはただひとつ。何もいじらないことだ。日本に入ってくるほかのイタリアメーカーの鞄のように、ライニングをつけたり中の収納ポケットを増やしたりショルダーパッドをつけたりすれば使い勝手が向上していいんだろうけど、昔ながらのイタリアの鞄の薫りが薄れてじっちゃんの鞄らしさを損ねてしまうので、そういったリクエストは一切なしにした。
新しさはまるでないけれど、(イタリアの真のクラシックな鞄自体が絶滅寸前ゆえ、そういった意味では逆に新鮮かも?)、そのかわりトレンドに左右されずに長く使っていただけると思う(サルトリア仕立ての服が好きな人たちには、分かってもらえるはず)。
じっちゃんは86歳。今もしっかり元気だけれど、さすがに1日中働くのは体力的にきついそうで、午前中のみ工房で仕事する日々を送っている。もしかしたらイタリアで最高齢の鞄職人かもしれないなぁ。
じっちゃんが手がけた鞄、アフターアワーズではリュックとクラッチバッグをご用意していますが、そんなわけで数がとっても少ないのでお早めにどうぞ(おかげさまで完売してしまいましたが、 間もなく再入荷予定です)。
イタリアではPorta Documenti(ポルタ ドクメンティ)と呼ばれている、A4サイズの書類を収納できるクラシックなドキュメントケース。¥49,500(税込) ※現在は完売中で、11月下旬~12月上旬に再入荷予定です。
写真・文 藤田雄宏