THE ROYAL AUTOMOBILE CLUB

最高のステイタスを持つ自動車クラブ

November 2020

ロンドンのジェントルメンズ・クラブ、そこは超富裕層というだけでは踏み入れることのできない、世界でも最高のステータスを意味する。

中でも名門中の名門がロイヤル・オートモビル・クラブだ。

 

 

text yoshimi hasegawa

photography courtesy of the royal automobile club and henry poole

 

 

 

スーパーモデル デヴィッド・ガンディ氏はカーエンスージアストとしても有名だ。ジャガーXK120ライトウェイト ロードスターを愛車に持つ彼もロイヤル・オートモビル・クラブのメンバーのひとり。ダークグレーの8オンス、ウィンドウチェックのトロピカル・ウースティッドを使用した3ピーススーツは、アンバサダーも務めるヘンリー・プールのもの。7代目当主のサイモン・カンディ氏とも知己の仲だ。

 

 

 

「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるか、言いあててみせよう」

 

 かのフランスの美食家ブリア・サヴァランはこう言った。だが、英国では事情は異なっていた。どのジェントルメンズ・クラブに入っているのか、それでどんな人物かがわかる。

 

 歴史、文化、伝統、金で贖うことのできないものこそ、最高のステータスになり得る。その事実を私たちに知らしめる場所が存在する。ロンドンのジェントルメンズ・クラブはその筆頭だろう。

 

 18世紀、貴族の会員制クラブに端を発したジェントルメンズ・クラブは、英国の政党関係者関連のクラブであるホワイツ、ブルックス、ブーデルズ、外交官関係者のためのトラべラーズクラブ、軍関係車のためのアーミー&ネイビークラブなど、その主旨によって20を超えるクラブが今も存在している。

 

 

クラブのエントランスを抜けて正面のホール中央には会員に因んだ歴代の名車が展示され、毎週、新たな展示車が登場する。この日の展示車両は戦前の英国車で名車として名高い1932年製フレイザー・ナッシュ。ヘンリー・プール一族が代々所有していた思い入れのあるヴィンテージ・カーだ。これは先代の当主6代目アンガス・カンディ氏が所有していた個体を完全にレストアし、2016年ウィンザー城で開催されたコンクール・デレガンスにも出品した、思い入れの深いクルマだという。

 

 

 

 クラブの入会には厳格な規定があり、メンバーからの推薦と紹介があってウェイティングリストに登録され、その後、役員会による承認があって入会となる。

 

 普通の英国人はおろか、超富裕層であってもこうしたクラブに足を踏み入れたことのない者も多い。金銭だけでなく、その人物がクラブにふさわしいかが厳しく精査されるからだ。それがロンドンのジェントルメンズ・クラブが今でも最高のステータスを保っている理由だろう。

 

 フレデリック・スミスによって1897年に創立されたロイヤル・オートモビル・クラブ(RAC)は自動車関連の組織としては英国最古、世界でも二番目に長い歴史を誇る。

 

 ロンドンのセント・ジェームズにある大通りパル・マルにはジェントルメンズ・クラブが集中している。なかでも「パル・マルの宮殿」と称されたRCAのクラブハウスは1911年以来、そのほぼ中央に居を構えている。デザインはメッサーズ・ミューズ・アンド・デヴィスが担当。ホテル、ザ・リッツと同じ建築家と聞けば、その豪華さも容易に理解できることだろう。ブリティッシュ・グランプリ・トロフィーを含む、英国自動車史の歴史を物語る数々のトロフィーが館内の至るところに展示されている。

 

 

ここロンドンのパル・マルにある本館に加え、サリー州エプソンのウッドコート・パークにカントリークラブハウスがある。本館の館内には3つのレストラン、2つのバー、ドローイングルーム、ライブラリー、理髪店、宿泊施設、ロンドンのジェントルメンズ・クラブ唯一のインドアプールなどが用意され、ロンドンのクラブの中で最大級の規模を誇る。パブリックエリアでの携帯電話の通話、パソコンの使用やビジネスミーティングももちろん禁止。ビジネスを持ち込まないのが正統派クラブの伝統だ。

 

 

 

 

 メンバーは伝説のドライバー スターリング・モスからアストン・マーティン・ラゴンダ社CCOマレック・ライヒマンにデザイナー ポール・スミスと実に多彩。会員はバー、レストラン、宿泊施設とすべて使用可能となる。過去、英国料理が不味いと言われ続けた背景には、上流階級は自分のクラブで食事をしていたため、外食文化が育たなかったというジョークが存在するほどだ。

 

 ジェントルメンズ・クラブといえば、常に話題にのぼるのがドレスコードだろう。予想に違わず、RACではジーンズやデニムを使用した服は原則禁止、胸をはだけた装いも禁止されている。パブリックエリアではタイドアップが必要なスマートと、必要ないスマートカジュアルの2種類のドレスコードがあり、時間によって異なる。ジャケットは夏季を除いて必須である。

 

 こうした環境では、英国のジェントルメンズ・アティアーに欠かせないのがビスポークスーツということになる。

 

 現存するサヴィル・ロウ最古のテーラー、ヘンリー・プールのマネージング・ディレクター サイモン・カンディ氏は自身もエンスージャストとして知られ、ヘンリー・プール創業200周年の2006年からのメンバーだ。ここでは会員同士の交流も盛んだという。

 

「イベントを通じて前会長のトム・パーヴス氏、現会長のベン・カッソン氏と親しくなりました。そこで生まれたのがセグレイヴ・ツイードです。水陸両方の最高速度記録保持者ヘンリー・セグレイブ卿を讃えたセグレイヴ・トロフィーに因んだもので、ドライバーとして顕著な業績をあげた者に贈られます。RCAのシンボルカラーであるネイビー、レッド、ホワイトを取り入れた11オンスのツイードは公式クラブジャケットとなっています」とカンディ氏は語る。

 

 

Simon Cundey/サイモン・カンディ

サヴィル・ロウに現存する最古のテーラー、創業1806年のヘンリー・プールの7代目当主。ヴィンテージ・カーに造詣が深く、別荘のあるワイト島では1965年製ランドローバー マークⅡを操る。ピークラペルの3ピース、ホーランド&シェリー社の9オンス、チョークストライプ・フランネルはヘンリー・プールのシグネチャーのひとつ。

 

 

 第72回のグッドウッド・メンバーズ・ミーティングでは、デヴィッド・ガンディ氏、ベン・カッソン氏、カンディ氏がジャガーCタイプをドライブし、大きな話題となった。

 

 ガンディ氏はサヴィル・ロウのクラフツマンシップのサポーターでもある。

 

「デヴィッドは真贋を見極める眼を持っていて、ジーンズとシャツのカジュアルな時と同様に、3ピーススーツをリラックスして着こなし、心から愉しんで着こなしていると思います」とカンディ氏。

 

 モータースポーツと自動車文化のヘリテージを賛美する者が集う神聖で特別な場所、それがロイヤル・オートモビル・クラブなのだ。

 

 

ロイヤル・オートモビル・クラブのコートヤードで寛ぐデヴィッド・ガンディ氏。屋外のテラスではカジュアルに、オリジナルハウスチェックを使用したヘンリー・プールのビスポークジャケットを着こなしている。

 

本記事はISSUE32(2020年1月24日発売号)にて掲載されたものです。
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