THE BUSH FIRE SERVICE

世界のファッショニスタに学べ
ニック、マックス&フレディ・フォルクス

November 2020

THE RAKE本国版のコントリビューティング・エディターであるニック・フォルクス、そしてそのご子息マックスとフレディがロックダウン中に始めたシガーレビューYouTubeがおもしろいと評判だ。

誌面で取り扱えないほど遠い存在なってしまう前に早速登場してもらおう。

 

 

text tom chamberlin  translation wosanai  photography alexandra foulkes

 

 

 

Nick, Max & Freddie Foulkes/ニック、マックス & フレディ・フォルクス

左から順に、マックス・フォルクス、ニック・フォルクス、フレディ・フォルクス。西ロンドンのシェパーズ・ブッシュにある自宅にて、代々伝わる椅子に座りセルフポートレート。ニックはオックスフォード大学卒業。THE RAKEのコントリビューティング・エディターを務める傍ら、世界中の新聞や雑誌に寄稿している。ファッション、時計、シガーなどに造詣が深く、20冊以上にも及ぶ著書のひとつに『Cigars: A Guide』がある。マックスはMaster of Havana Cigarsの称号を持ち、フレディはコートールド美術研究所に通う傍ら、モデルやドキュメンタリー・ディレクターなどをしている。YouTube動画にはニックとマックスが登場し、フレディはアートディレクションを担当。

 

ニックが着用しているピンクのコーデュロイスーツは1998年にテリー・ヘイストがハケットのヘッド・カッターだったときに仕立てたもの。安物の洋服を買うことが本当に経済的であるかどうかを教えてくれる一着である。これほどの時が経っていても、今年ニックがテリーに仕立ててもらったスーツ(日本版ISSUE34, P88に掲載)となんら遜色がない。

 

 

 

 YouTubeのセンセーショナルな話題に事欠かない世の中になった。ローガン・ポールからニンジャまで、さまざまなYouTube動画が登場しては世間の話題をさらい、今やエンターテインメントにおける最も重要なもののひとつとなった。

 

 彼らに怖いものなどないように見えたが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界を変えた。そしてこの感染症と人類の戦いの中、YouTuberたちに新たなライバルが出現した。ニック・フォルクスとその息子たちマックスとフレディだ。彼らはウィットに富んだ軽妙な語り口と洗練されたセンスが感じられる着こなしでシガーについて話す。

 

左:ニックのスタイルで最も象徴的なのは、リングに違いない。中指につけられているものは最近チズウィック・オークションで手に入れた聖職者の指輪。彼のスピリチュアルな一面をそれで表しているのだろうか、それともただこのサイズ感が気に入っただけなのだろうか? マックスも言っていたが、この父子には収集癖が見事に遺伝しているようである/右:1960年代後半のヴィンテージライターはダンヒルのもの。ホワイトゴールドがドリップされている。ニック曰く “いかしすぎてるジュエラー” ことAndrew Grimaが施したもの。

 

 

エルメスのポケットチーフは、よくニックがコーディネイトに取り入れるアイテム。着こなしポイントは、これだけを孤立させてしまわないことにある。今回はソックスとマッチしている。ニックの祖父もたいへんウェルドレッサーであったらしいが、基本的にスタイルは独学で磨いたと彼は言う。

 

 

 

 彼らのレビューのやり方は非常にシンプルだ。西ロンドンのシェパーズ・ブッシュにある自宅でゆるりとシガーのレビューをするだけ。歴史的背景だけでなく、まったく関係のない話をすることもしばしばある。それなのに、なぜだか見ずにはいられなくなってしまう。その理由を考えてみたい。例えばマックス。彼は父親のざっくばらんな人柄や、本物を知るテイストを受け継いでいる。そのテイストというのは、それこそ世界中の人々が欲しているものであろう。ニックはご存じの通り比類なきベストドレッサーだ。彼がなろうと思ってなったわけではない。周りが彼をそう讃えるのだ。世界は常にニック・フォルクスを欲している。

 

 

左:ビスポークのスプリット・トウ・タッセルローファーはエリック クックのもの。博物館並みのシューズコレクションの中のひとつ。すべて余念なくポリッシュされ、最高の状態で保管されている。靴好きであれば誰もが彼を見習うべきであろうが、このレベルに達するのは難しいだろう。革靴について真剣に語り合う、そのときがまさに紳士になった瞬間なのかもしれない/右:ダンヒルのシガーカッターは、ラペルやウエストコートのチェーンに付けて持ち歩く。彼がシガーをたしなみ始めたときから愛用しているアイテム。もう30年になるという。このスカルのメメント・モリはショパールの共同社長であるキャロライン・ショイフレさんからいただいたもの。

 

 

 

 ひとつ例を挙げたい。世界には2種類のミュージシャンがいる。感覚でプレイできるタイプと1万時間を超えるようなスパルタトレーニングによって培われた技術でプレイするタイプだ。前者はよく、天賦の才を授かった人間と呼ばれる。ジェフ・バックリィやルイ・アームストロング、ジミ・ヘンドリックスなどがそうだろう。

 

 ニックにおいてはそれがスタイリングというわけだ。確かに彼が選ぶサルトリアルなアイテムは個性の強いものが多いのだが、ただ主張の強いアイテムを集めればベストドレッサーになれるわけではもちろんない。ニックの類い希なる審美眼が、その細部、そして所有するべきか否かを明確に判断しているのだ。

 

 もちろんグレイフランネルやシンプルなブルーのスーツも普通に着こなし、結局その場で一番のウェルドレッサーになってしまうのが彼だ。彼のスタイルを形容するときにダンディズム、エキセントリシティ等の言葉を使うかもしれないが、それは果たして的を射ているのだろうか。ダンディにはきっと誰でもなれるだろうし、エキセントリックな装いもそれほど難しいことではない。しかしニック・フォルクスが成し遂げているスタイルは彼にしかできないのだ。

 

 

 

マックスが着ているスーツはニックが80年代にハケットで仕立てたもの。「父のお古を着ていてひとつだけ問題があるのは、父は僕が着ているのを見ると返してくれと言ってくることですね」。プリーテッドのデニムシャツはFavourbrookのもの。

 

 

 24歳のマックスのインスタグラムは、基本的にはふたつのテーマで埋め尽くされている。ラップとシガーだ。後者について言えば、ロックダウン以前であれば私たちは彼の姿をロンドンのシガーショップDavidoffで毎日のように目にすることができた。ジャーミン・ストリートとセント・ジェームス・ストリートの一角では、オックスブリッジでは教えてくれないお勉強が毎日山のように、そして浴びるほどあるのだ。父親も彼の活躍には胸を張っているという。

 

 

左:マックスを見ても、コーディネイトに対する哲学が窺える。ハケットのポケットチーフは、スーツのチェックとマッチさせている。/右:父親同様にマックス、フレディのふたりともリングへの関心度は高い。マックスが言うところによると、父親の真似をしてつけているというわけではないようだ。「確かに父を見て育つと、指がアクセサリーをつけるには最適な場所であると理解することは簡単なのですが、僕たちには僕たちなりのやり方があるのです」

 

左:Mount Street Shoe Companyのスリッパはリラックス用。YouTubeの撮影でもよく着用している。「数足所有していて、場面によって使い分けています」/右:マックス曰く「体のどの部位であれ、光るものを取り入れることができるならばそうするべきだと思っています。けれども耳はダメです」。彼は彼なりのコンサバティブなアプローチがある。ちなみにネックレスは、一度に10本以上つけることは絶対にないという。

 

 

 

「僕は洋服のチョイスやそのスタイリングについては、完全に父から受け継いでいるものがあると思います」

 

 彼はその立ち居振る舞いが非常にニックに似ている。しかしそれは父親を模倣しているという意味ではない。これも遺伝が為す業なのだろうか、ニックが自然と唯一無二のベストドレッサーであり彼自身であるように、マックスもまた誰も真似のできない彼自身であるのだ。

 

左:Master of Havana Cigarsの称号を持ち、オンラインでプロフェッショナルなシガーレビューをするような人間が、シガーに火をつける道具を手放すことはない。イニシャルが彫られたエス・テー・デュポン以上のものを見つけるのは難しいだろう。これは、Master of Havana Cigarsの試験を取り仕切るハンターズ&フランカウのジェマ・フリーマン氏からいただいたもの/右:1981年製のロレックス オイスターは18歳の誕生日にプレゼントされたもの。スケートボード等で汗をかいた若い日をともに過ごしてきたタフな相棒である。若気の至りだと彼は語るが、「もうこれを身に着けてスケートボードは絶対にしません」とつけ加えた。

 

 

 

 

デザインはニックとのコラボレーションだという、20歳の誕生日に受け取ったビスポークのジャケットはエルメネジルド ゼニアで仕立てたもの。60年代初頭のトラウザーズはセカンドハンドならぬ、サードハンド。なぜなら、ニックが若い頃にセカンドハンドで購入したものだからだ。サングラスはどこのものかよく覚えていないらしい。とりあえず気に入らなかったので自分で黒くペイントしたそうだ。 

 

 

 フレディは21歳の若者ではあるが、卓越したその装いは実年齢からはかけ離れていて、しばしば我々を混乱させる。彼をひと言で表すことは不可能に思える。コートールド美術研究所の奨学金を受ける学生であり、モデル、ドキュメンタリー・ディレクター、そしてポートベローマーケットに自分のスペースを持っているヴィンテージクロージングディーラーだ。彼はテディーボーイやグリーサーズ、ロッカーズから強い影響を受けている。

 

「サブカルチャーに生きた彼らは、自分の洋服をカスタマイズすることに取り憑かれていたように思います。チェーンやスタッズなどが彼らの代名詞ともいえるでしょう。僕も長い間シガーバンドをリング代わりに指に巻いていました」

 

 

左:フレディのエドワード8世の戴冠式の記念ハンカチーフは、もちろんヴィンテージ。ポートベローマーケットで購入したもの。最近こういったモチーフのハンカチやスカーフをしばしば目にするようになったが、ヴィンテージ風のものは良質なヴィンテージにはとうてい及ばないと思わせてくれるアイテムだ/右:1971年製のロレックス オイスターは18歳の誕生日プレゼント。ブレスレットとマッチさせていて、彼はこれらを依然として“ミニマル・ファッション”だと語る。フォルクス家の哲学や彼らの伝統からしたら、これらは確実にミニマルに違いない。30年代のサルトリアリズムに取り憑かれていた過去は遠い昔の話なのだ。

 

英国海軍航空隊に所属していた祖父からもらったゴールドのタイクリップは、来るべくして彼の所に来たようなもの。ニットタイはそこまで古いものではないが60年代のヴィンテージ。

 

 

 サルトリアルはしばしばコンサバティブで、そのスタイリングで冒険をしないという印象を持たれがちである。それはサルトリアルスタイルをつまらないものにするという危険性をはらんでいるわけだ。フレディの柔軟な発想はこの問題点の解決策になるかもしれない。

 

 あまりにも遠い存在になってしまう前に、ニックとその息子たちには早速ポケット・ガイドに登場していただいた。

 

左:1952年パターンのブリティッシュアーミーシャツは、ボックスプリーツポケットが特徴的。フレディのスタイルにはミリタリーの要素があるかもしれない。十代の頃は30年代的なものに傾倒していたようだ。「どんなものであれ、誰かが他の誰かをコピーするといったことには本当にうんざりなんです」。どんなアイテムを選ぼうが彼はそれを個性的に着こなす。スカイブルーのブレイシズは、ケンプトンのサンバリー・アンティーク・マーケットで購入したもの/右:サンダースの英国王立海軍のサービスシューズは、ポートベローマーケットで購入したもの。こういったミリタリーものを扱っていたディーラーは、いつのまにかいなくなってしまったらしい。

 

 

THE RAKE JAPAN EDITION issue36