SIGMA fp Vol.01

モノとして“触り心地がいい”カメラ

March 2021

text & photography kentaro matsuo

 

 

 

 

 昔からカメラが好きで、中学生の頃には、写真部に所属していたこともある私・松尾だが、長らくカメラは触っていなかった。今や携帯さえあれば、なんでも撮影できるし、それ以上のクオリティが求められる場合は、プロに頼むのが手っ取り早いからだ(カメラマンにおけるプロとアマチュアの差は、ボクシングと同じくらいある。アマチュアは、絶対にプロには勝てない)。

 

 しかし今回ブログの撮影で、シグマ社長、山木和人さんにお会いし、その熱いお話しを聞いているうちに、カメラに対する興味が再び湧いてきた。運良くシグマの最新カメラfpをしばらくお借りできることになったので、素人ながらにインプレッションをお届けしてみようと思う。

 

 SIGMA fpは、非常にコンパクトなボディのなかに、フルサイズセンサーを仕込んだ意欲作である。カメラショップの店頭で比べてみても、フルサイズでここまで小さいカメラは他にない。しかしながら、一番の魅力はなんといっても、その素晴らしいデザインだ。デザイナー岩崎一郎氏が監修したというそれは、シンプルで、機能をそのままカタチにしたような造形だ。インテリの長谷川喜美女史に言わせると「ブラウン時代のディーター・ラムスを思わせる」そうで、バウハウス的な匂いがプンプンする。

 

 日本の大手カメラメーカーがリリースしているカメラは、性能的には“いたれりつくせり”なのかもしれないけれど、あのグニャグニャした曲線とプラスチッキーな質感が、どうしても好きになれない。その点fpのボディはアルミ合金で出来ており、金属のカタマリ感がハンパない。爪先でボディを突くと、カツカツと硬質な音が響く。手に取るとその触感はひんやりとしていてなにか“いいモノを持っているなぁ”という気分になる。

 

 

 

 ボディの上と横にたくさんの穴が一列に並んでいるので、これは一体なんだろうと思っていたら、ヒートシンク(放熱板)だという。内部にこもる熱を逃がすための装置ということだが、こういったものをデザインの一部として取り入れているカメラは見たことがない。なんだか空冷オートバイ・エンジンの冷却フィンを思わせる。こういう“理由がある”デザインは大好きだ。

 

 

 

 

 スイッチ類が少なく、それぞれのボタンが大きいのもいい。各スイッチの操作感も、カチリカチリと小気味いい。私はすっかり老眼が進んでしまって、細かい文字や数字は見えないのだが、これならいちいちメガネをかけなくても、もろもろのオンオフが可能だ。実際にはMENUの中にはすごくいろいろな機能が多層的に隠されているらしいけれど、そういうのはおいおい覚えていけばいい。

 

 

 

 バッテリーを格納する場所の蓋のストッパーがスライド式ではなく、小さなラッチを引き起こし、回転させて開ける仕様になっている。小さいながらも精巧な仕掛けで(スライド式のほうが開け閉めは簡単かも知れないけれど)こういうところにお金をかけているのを知ると、オーナーとして嬉しくなると思う。モノとしての上質感を徹底的に高めようというこだわりが伺える。

 

 

 

 

 真四角なボディには左右それぞれと底部にネジ穴が開いている。標準的な1/4インチサイズのネジ穴で、ここに三脚をはじめ、さまざまなオプションを取り付けられる。普通のカメラにはネジ穴は底にしか付いていないが、fpには3つものネジ穴が、それも堂々と開けられている。便利なものは隠そうとせず、逆にデザインのアクセントとしてしまうところが、バウハウス的な所以だ。

 

 

 

 

 レンズはシグマがレンズキットとして販売している45mmF2.8 DG DN|Contemporaryだ。Iシリーズと呼ばれる新世代レンズ群のうちのひとつで、金属製のボディを持ち、すこぶる高級感に溢れている。山木さんが強調していたのは、絞りとボディ、ふたつのリングの外径が完全に揃っている、いわゆる“ツライチ”の状態になっていること。ふつうは精度をごまかすために、あえて段差をつけるそうだ。絞りリングを回すと、まるでハイエンド・オーディオのボリューム・ノブのようなクリック感がある。ピントリングもスカスカせず、ねっとりと回る。どちらも“いいモノを触っているなぁ”という感じだ。

 

 

 

 

 レンズを外すと、小さなボディに似つかわしくない、巨大なセンサー部がむき出しになる。センサーの表面はまるでタマムシのように、見る角度によって色が変わる。カメラの心臓部がすぐに覗けてしまうのは、ミラーレスならではだ(ちょっと触ってみたい誘惑にかられるが、もちろん厳禁だ)。この構造のおかげで、さまざまなオールドレンズがアダプターを介して使えるようになったのだ。私も父の形見のカメラに付いているレンズを付けて、写真を撮影してみようと思っている。

 

 SIGMA fpは、触っているだけで満足できるカメラだ。実は撮影はまだあまりしておらず、絞りリングを回したり、バッテリー・ラッチを開いたり、スイッチのオンオフを繰り返してばかりいるけれど、ぜんぜん飽きない。モノとしての“触り心地”がとてもいいからだ。もしかしたら私は、撮影という行為よりも、カメラという物体をいじりまわすほうが好きなのかも知れない(笑)。逆にいうとfpは、そういうタイプの人には絶対におすすめだ。

 

 繰り返しになるが、今の時代、写真だけなら携帯で十分撮れる(今回のfpの写真は、すべてiphoneで撮りました)。

 

 fpは、コンパクト・カメラというよりも、機械式時計やライトウエイト・スポーツカーに近い存在かもしれない。“所有する喜び”という点で、これの右に出るカメラは、そうそうないのではないだろうか。

 

 

 

SIGMA fp

外形寸法:112.6 × 69.9× 45.3 mm

質量:370g(ボディ単体)

イメージセンサー:35mmフルサイズ 2,460万画素

オープン価格(シグマ オンラインショップ価格 ¥220,000)

www.sigma-global.com/jp/cameras/fp-series/

 

 

 

<素人作例>

借りたばかりのfpで、川崎市麻生区に位置するシグマ本社の前で。新型LEXUS LSと。どちらもメイド・イン・ジャパンを代表するラグジュアリー・ブランドだといえる。シグマのビルは本当にかっこいいので、また撮影に使わせてください!(笑)