OPPORTUNITY COMES ONCE IN A LIFETIME

自分を奮い立たせるもの

September 2020

物事を前に進めるために、時にはエミネムを聴いてみるというのも一案だ。クレイグ・ロバーツは、自己不信に陥ったときにはいつも“8マイル・ロード”を訪れたくなるという。俳優だけでなく、新進気鋭の監督としても活躍する彼のルーツに迫る。

 

 

text tom chamberlin 

photography sandro baebler

 fashion direction jo grzeszczuk

 

 

 

Craig Roberts/クレイグ・ロバーツ

1991年ウェールズ出身。子役として活躍後、2010年の映画『サブマリン』で初主演。同作での演技が評価され、その後、『ジェーン・エア』、『ネイバーズ』などに出演。俳優としてだけでなく、監督業にも積極的に取り組む注目の若手。

スーツCamoshita United Arrows シャツ Canali タイ Rubinacci for The Rake 時計 property of Craig Roberts

 

 

 

 クレイグ・ロバーツは、『卒業』のダスティン・ホフマンや、『フェリスはある朝突然に』のマシュー・ブロデリックのような草食系男子の流れを汲む俳優の代表格だ。彼らの存在は、『メンズヘルス』誌の表紙モデルのような筋骨たくましい男や、1日の大半を悪人退治に費やすヒーローばかりが求められているわけではないことを証明している。

 

 クレイグが初めて世に出た作品は、映画『サブマリン』。ウェールズ人俳優である彼は、同作において悩み多き思春期ならではの振る舞いを表現し、幅広い支持を獲得した。その後も『ネイバーズ』、『22ジャンプ・ストリート』、『マッド・ドライヴ』で主要な役を演じてきた。現在は、自身が監督を務める映画に向けて準備中だ。

 

 

ウェールズのご出身ですが、自身の演技活動はウェールズという土地からどのような影響を受けましたか?

 怒られるかもしれませんが、おそらく無関係だと思います。南ウェールズの山がちな地域で育った僕は、演劇や音楽に馴染みがなく、探さなければ見つからないような遠い存在でした。

 

 

では、どのような経緯で演技の世界と出会ったのですか?

 最初はひとりで映画館へ行っていただけでしたが、昔の映画のほうがはるかに面白いことに気がついて、一気にのめり込んでいきました。こんな世界があることを教えてくれたのは、ある意味ウェールズのおかげかもしれません。ウェールズの外へ踏み出すことが、自分を成長させてくれると常に感じていましたから。ですが、ウェールズは素晴らしいところで、どんどん発展しています。産業の進出も目に見えて活発になりましたし、それが続くよう願っています。

 

 

演技に夢中になったきっかけは?

 リチャード・アイオアディ監督の映画『サブマリン』に出演したことです。作品の撮影中に、「自分が本当にやりたいことはこれだ」と思ったことを覚えています。それまでは五里霧中の状態でひどい役者でしたが、監督のおかげで「やれるかもしれない」という気持ちが持てた。それ以降は「この仕事が本当に好きだ」と思えるようになりました。映画作りに参加できたことも大きかったかもしれません。正直なところ、あの映画ならどんな仕事をしても楽しめたと思います。

 

 

ご自身を客観的に見て、俳優としてどこに位置づけていますか? ジェームズ・ボンドになることを想像しましたか?

 業界内での自分の位置づけは理解しています。爆発する車を飛び越えたりしなくていいので(笑)、満足しています。映画『卒業』でダスティン・ホフマンが登場してくれたことは、とても幸運でありがたいこと。でなければ、僕が映画で主演するなんてあり得なかったと思います。ダスティン・ホフマンが演じるベンジャミン・ブラドックは人づきあいが非常に下手。それまでは、そんな男を応援することなど滅多になかったでしょう。

 

 

これまでの道のりを険しくしたものは何でしょう?

 安穏としていたくない、という自分の気持ちだと思います。僕にとっての大きな節目は、『Just Jim(原題)』という映画。僕は脚本を書き、監督を務め、さらに演技もしましたが、悲しいことに反応はよくありませんでした。ここでいう反応とは、映画そのものというより僕が制作にまで携わろうとしていることについてです。ですが僕は演技だけを続けることで完全に満足するつもりは一切ありませんでした。

 

 それに俳優として、同じような役柄を何度も演じていた。映画はずっと大好きだったのですが、こんな風にインタビューを受けて尊敬する人物を尋ねられると、ほとんど俳優の名前を挙げず、ポール・トーマス・アンダーソンのように監督や脚本家のような人々の名前をいつも挙げている自分に気づいたんです。それで、僕は監督業も始めたというわけです。別のことに取り組もうとすると、経験したことがないほどの疑問が湧いてきて、判断が鈍る。でもその過程があるからこそ、監督業を本当に好きだということに気づきました。今後もまたやっていくつもりです。

 

 

これまでの人生の中で一番影響を受けたものは?

 いくつかありますが、特に変わっているのはエミネムの音楽でしょうか。映画『サブマリン』に出演したとき、僕はまだエミネムを聴くようなウブな年頃でした。彼の言葉をすべて鵜呑みにするほどではありませんでしたが、何か引き込まれるものを感じたんです。世間に自分をさらけ出しているときには、ああいう精神構造を持つべきだと強く感じます。ですから、何かに迷ったときにはいつも『8Mile』のラストシーンを見るんです。励みになりますから。

 

 

死ぬ前に何をしたいですか?

 ホラー映画を作りたいですね。それも、良質なホラーを。単に荒稼ぎして観客をかき集めるための作品ではなく、『シャイニング』のような本物の名作ホラー映画を作りたいです。

 

PHOTOGRAPHY ASSISTANT: ANJA MUELLER

FASHION STYLIST: JO GRZESZCZUK

FASHION ASSISTANT: MILLIE BRADSHAW

GROOMING: DANI GUINSBERG USING VERSO

 

本記事はISSUE14(2017年1月24日発売号)にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。