NISHIMURAYA, Kinosaki Onsen Vol.1

優雅な時間を味わう
城崎温泉と純日本旅館

June 2019

 

 忙しい日々を送る人がたまの休みに過ごす旅先として南国のリゾートは間違いないが、国内の温泉地でしみじみ過ごす良さも捨てがたい。四季の移ろいを感じながら街を歩き、地産の新鮮な食を味わい、時間を忘れて湯に浸る。日本人なら誰しも休息できる格別の時間である。

 

 名作『城の崎にて』を執筆した志賀直哉をはじめ、数々の文豪たちの執筆活動の場として愛された城崎温泉は、兵庫県北部の日本海側に位置し、開湯1300年もの長い歴史を持つ関西屈指の人気温泉地。ゆえに、関西圏や山陰以外に暮らす人々にとってももっと訪れてみてほしい名湯である。

 

 

大谿川の両側に旅館や店舗が続く城崎温泉。柳や桜の木々が並ぶ景観は、温泉街ならではのもの。

 

 

 東京から城崎温泉へ行く場合、飛行機で羽田空港から伊丹空港で乗り継ぎ、コウノトリ但馬空港へ。そこから北の日本海側へ約10kmの場所にある。最短で、およそ2時間半。新幹線で向かう場合は、京都で「特急きのさき」に乗り換えて城崎温泉駅へ。こちらは最短でも5時間程度はかかる。はっきりいって東京からのアクセスは良くない。だが、それだけ時間をかけていく場所だからこその「贅沢」であり、なによりこの温泉地はそれだけの価値が存在するのだ。

 

温泉街の中心に位置する「一の湯」。この街では浴衣姿こそが正装だ。

 

 

欧米人も注目する

和の風情ある温泉街

 

 城崎温泉は、大谿川(おおたにがわ)を中心とした街となっており、川沿いに並ぶ柳や桜の木々、そして川に架かる情緒豊かな太鼓橋により、これぞ温泉情緒といえる風情が続く。周辺には70軒以上の旅館やホテルのほかに、7つの外湯が点在しており、それらを浴衣姿で自由に巡るのがこの温泉の基本的な楽しみ方だ。徒歩でも10〜15分程度で歩けるくらいの程よい街の大きさで、日本的な街並みは浴衣姿でそぞろ歩く人々で賑わっており、外国人(特に欧米人が多い)の姿も多くみられる。実は城崎温泉は、「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で2つ星を獲得しており、外国人客はここ5年ほどで約40倍も増えているという。

 

7つの外湯の中でも人気の「御所の湯」。京都御所のような建物が特徴。

 

 

 滝のある露天風呂で人気の「御所の湯」や、招福の湯として知られる「一の湯」など、7つの外湯はいずれも異なる趣や特徴があり、各湯をはしごすることでその違いを楽しめるだろう。宿泊者は旅館から共通パスとしてQRコードを受け取ることで、無料で各湯を巡ることができる。もちろん外湯のみの利用も可能で、浴衣や下駄をレンタルできる日帰りプランも用意されている。

 

「御所の湯」は、広い内湯と露天風呂、サウナも完備しており、必ず訪れたい外湯のひとつ。

 

 

城崎温泉の歴史を牽引する

創業150年余りの老舗旅館

 

 そんな城崎温泉で最も有名な旅館のひとつが、江戸末期の安政年間に創業した老舗、西村屋本館だ。武家造りの荘厳さを残した門構えやその佇まいは他を圧倒する風格を放っており、日本旅館建築の傑作のひとつと言われている。

 

西村屋本館の門構え。他を圧倒する歴史と風格を感じさせる。

 

来訪者を迎え入れるロビーからは、日本庭園を一望できる。大正ロマンの趣を持つラウンジも隣接する。

 

 

 日本庭園を取り囲む回廊式の建築のため、各部屋から眺める景色はそれぞれ異なる趣で、まるで絵画のような風光明媚な景観が楽しめる。また、数寄屋建築の巨匠平田雅哉が手がけた「平田館」や、犬養毅直筆の書が掲げられた格調高い大広間などを残しており、国の登録有形文化財に指定されるほどの価値を持つ、見事なまでの純日本旅館である。

 

手入れの行き届いた見事な日本庭園は、精緻な日本の美意識を凝縮した世界。

 

西村屋本館に増築されたモダンな数奇屋建築、平田館から眺める中庭。見る場所によって異なる趣が魅力的。

 

桐の格天井に圧倒される大広間の奥に掛けられた「泉霊」の書は、第28代総理大臣の犬養毅の筆によるもの。

 

 

 この旅館の宿泊者が最も楽しみとするもののひとつとして挙げられるのが、地産地消にこだわった料理の品々。特に、冬季限定で味わえる「松葉ガニ」は絶品だ。毎年11月から翌年の3月までと漁の季節が限られているため、「本生かに会席」が味わえるその期間が最も人気の宿泊シーズンとなっている。また、神戸牛や松坂牛などのブランド和牛の素牛として有名な、地産の但馬牛を味わえるのも魅力だ。

 

城崎温泉からすぐの日本海側は、古くから美味しいカニが育つ環境に恵まれたエリア。松葉ガニは水揚げされる場所も限定される貴重な冬の味覚。

 

日本を代表するブランド牛の祖である但馬牛は、柔らかく繊細ながらうまみ成分が豊富で上品な甘みを伴う。

 

 

森林の風を感じる

開放的な貸切露天風呂

 

 西村屋本館からほど近い温泉リゾート「西村屋ホテル招月庭」では、大浴場やエステトリートメント、貸切露天風呂を楽しめる。中でもおすすめは、「森のプライベートスパ」と名付けられた予約制の貸切露天風呂。大自然を一望できる露天風呂のほか、岩盤浴やリビングルームも備えた完全個室となっており、ジャパニーズ、チャイニーズ、バリニーズの3つのタイプのインテリアが用意されている。

 

西村屋ホテル招月庭の「森のプライベートスパ」。写真はジャパニーズスタイルの「吟月」。奥に見えるのが露天風呂。

 

バリニーズスタイルの「FU-RO」。竹をふんだんに使ったムーディな空間だ。

 

チャイニーズスタイルの「林泉」はレトロで上品な雰囲気。いずれの貸切露天風呂もリビングにミネラルウォーターとスパークリングワインが用意される。

 

 

 

西村屋本館

住所:兵庫県豊岡市城崎町湯島469

TEL:0796-32-2211

HP:www.nishimuraya.ne.jp/honkan/

 

西村屋ホテル招月庭

住所:兵庫県豊岡市城崎町湯島1016-2

TEL:0796-32-3535

HP:www.nishimuraya.ne.jp/shogetsu/

 

 

老舗旅館が手がける新施設とは