LA DOLCE VITA

耽美派GTに酔いしれる
“フェラーリ ローマ”

July 2021

フェラーリ ローマは、ゼロから60mphまで、フェリーニの映画のようにスマートに加速する。

パワフルで美しく、心に響く。

これぞ現代のグランド・ツアラーである。

 

 

text charlie thomas

 

 

Ferrari Roma(フェラーリ ローマ)

モダンでありながらもどこか懐かしい意匠に身を包んだ、新世代のフェラーリ。今まで、フェラーリは“目立ちすぎる、速すぎる”と敬遠していた方々にこそ、おすすめしたい一台だ。

エンジン:3,855cc V8ツインターボ/最高出力:620ps@5,750-7500rpm/最大トルク:760Nm@3,000-5,750rpm/全長×全幅×全高:4,656×1,974×1,301mm/乾燥重量:1,472kg/ギアボックス:8速F1デュアルクラッチ/0-100km/h加速:3.4秒/最高速度:320km/h ¥26,820,000〜 Ferrari

 

 

 オックスフォード英語辞典によると、“グランド・ツアラー(GT)”とは、“長距離の快適なツーリングのために設計されたクルマ”と定義されている。イタリア語の“グランツーリスモ”に由来するこの言葉は、20世紀半ばにフェラーリ、アルファ ロメオ、メルセデス・ベンツなどのメーカーが製造したクルマから生まれた。 そのレシピは単純明快である。フロントエンジン、ハイスピード、かつ快適性、ラグジュアリー性にも優れているというものだ。その結果、20世紀を代表するいくつかの名車が誕生した。フェラーリ 250GT、メルセデス300SL、アストンマーティンDB5などはその代表格で、GTの魅力が凝縮されている。

 

 これらの3台は、最高速度、コーナリング性能、快適性に重きをおき、当時としては非常に高性能だった。しかし、それと同じくらい重 要 視されていたのが、見た目の美しさだった。まさに走る芸術品であり、その結果、現在のオークション価格は、衝撃的なものとなっている。

 

 一方、現代のGTはどうだろうか? そのレシピを忠実に再現しているところもある。ベントレーのコンチネンタルGTは、ラグジュアリーなモデルだ。アストンマーティンは、アイコニックなDBシリーズの系譜をDB11で継いでいる。メルセデス-AMG GTのシルエットは、300SLにインスパイアされている。

 

 しかし、それ以外の部分では、GTの言葉の意味は、少し曖昧になっている。マクラーレンGTは、グランド・ツアラーとは言い切れないところがある。それはフロントではなく、ミッドシップ・エンジンを搭載した“快適な”スーパー・スポーツだ。

 そして、フェラーリの登場だ。1950年代から90年代までGTゲームを支配してきたイタリアの会社だが、最近のモデルラインナップには、「これぞGT」といえるものはなかった。F12やその後継モデルである812スーパーファストは、見た目はGTだが、GTというには、あまりに強力すぎる。

 

 

シャークノーズといわれるシャープなフロントまわりの造形。LEDランプが印象的だ。

 

 

 

 812 スーパーファストは、その名前を見れば、どういうクルマなのかがわかる。最高出力789bhpの6.5リッター V12エンジンを搭載し、フォルムよりも機能性を重視したデザインを採用した、弾道ミサイルのようなクルマだ。エレガントというよりはむしろ凶暴で、腕に覚えのあるドライバーにしかおすすめできない。オプションでレーシングハーネスが用意されており、いずれの仕様であっても車重は1.7トンを超える。繊細さとは、ほど遠い存在だ。

 

 そのバランスを取り戻すのが、フェラーリの最新モデルであるローマだというわけだ。812がオフショアのパワーボートだとすれば、ローマは南フランスを周遊するリーヴァ・アクアラマだ。このモデルはフェラーリの出発点であり、550マラネロ以来の純然たるGTであることは間違いないが、さまざまな意味で、古典的なGTフォーミュラに回帰している。

 

 フェラーリのデザイン・ディレクター、フラビオ・マンゾーニ氏は、2010年にデザインチーフとしてフェラーリに入社して以来、ブランドの最も先進的なモデルであるラ・フェラーリ、488、そして前述の812を担当し、未来的なフェラーリの新世界を切り開いてきた。

 

 しかし、ローマは、やや立ち位置が違う。ローマは、フェラーリのリアビュー・ミラー越しに、何十年も前のクルマを懐かしんでいるのだ。今世紀に入ってからのフェラーリは、世代を重ねるごとに、より速く、よりパワフルになることで、前作を凌駕しようとしてきたように思える。ローマはこのパターンから脱却し、デザイン的にも性能的にも、違う方向を選んだ。

 

 しかし、“違う”とは言っても、3.9リッター の ツインター ボV8は依然として612bhpを叩き出し、静止状態から時速60マイル(96.56km/h)まで、3.2秒で到達するパワー持っている。これはもちろん速いのだが、フェラーリ同士で比べると、もはや標準となりつつある、3秒以下のレベルには達していない。

 

 

流れるようなサイドビューは、まごうことなきフェラーリだ。ロングノーズ、ショートデッキの古典的なプロポーション。

 

 

 

 

“追いかけっこ”の終わりに

 

 見た目も大きく変わった。シャープな直線や空力的なデバイスは忘れてほしい。ローマはベルベットのように滑らかで、その曲線的なパネルワークは、私たちが愛してやまないミッドセンチュリーのGTを彷彿とさせる。

 

 

フェラーリのデザイン・ディレクター、フラビオ・マンゾーニ氏。

 

 

 マンゾーニ氏は言う。

 

 「このクルマで最も重要なのはプロポーションです。エンジンの位置が、この非常にエレガントなグランツーリスモのアーキテクチャーを生み出しているのです。キャビンはコンパクトで、ほとんど後輪の上に乗っているかのようで、ボンネットは長くなっています」

 

 それはクラシカルな外観であり、「フェラーリ250GTを起源とする、フェラーリらしいコンセプト」である。

 

 F1レースでは、そもそものF1の醍醐味である自然吸気エンジンを搭載した、シンプルなマシンを見たいというファンが増えている。同じことが、現代の高性能ロードカーにもいえる。現代のロードカーは、技術的に高度化しすぎており、個々の技量を発揮できないほど強力になっている。

 

 

コーダトロンカ(テールをスパッと切り落とした形状)を新解釈したリアには、フェラーリお得意の丸型ランプではなく、ジェム(宝石)状のリアランプが配される。4本出しのマフラーが実にスポーティだ。

 

 

 

 速さを求め、スペック上の数字を大きくするという果てしない追いかけっこは、どこかで終わらせなければならない。そのひとつの結論が、ローマである。そんな意味でローマは、信じられないほど未来を先取りしたクルマだ。ラップタイムを気にすることなく、スタイルとフェラーリ・オーナーとしての“エクスペリエンス”を重視している。

 

 車内のドライビング・モード・スイッチは、フェラーリの最も有名なGTに搭載されているアイコニックなオープンゲート式マニュアルギアボックスをモデルにしている。新品のマニュアル・フェラーリは二度と手に入らないかもしれないが、このようなちょっとしたノスタルジアがローマを魅力的なものにしている。

 

 フェラーリのような輝かしい伝統を持っているならば、それを利用しないことこそ、愚の骨頂なのである。

 

 

刷新されたインテリア。メーターを含むすべてがデジタル化され、操作系もタッチパネルが多用されている。

 

 

 

本記事は2021年5月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION issue40