Interview
BENTLEY COACH-TRIMMER NOEL THOMPSON

ベントレー100年の歴史
その半分を見てきた男

September 2019

ノエル・トンプソン

ベントレー・コーチトリマー

 

 

 

コーチトリマーのノエル・トンプソンは、ベントレーの50年の歴史に彼の名を連ねる。

ベントレーで最も勤続年数の長い社員が、ベントレー・モーターズでの半世紀を祝った。

コーチトリマーのノエル・トンプソンは、50年前から、

女王陛下など、ベントレーの特別な顧客のための仕事に取り組んできた。

ベントレー創業100周年を迎え、トンプソン氏はベントレーの全歴史の半分を目にしてきたと胸を張る。

 

 

 

 ベントレーは9月、最も長く勤めている社員の勤続50周年を祝った。英国・クルーに位置するベントレー・モーターズ本社でコーチトリマーを務めるノエル・トンプソン氏は、1969年9月1日、彼が16歳のときに、この世界有数の高級車ブランドで働き始めた。

 

 トンプソン氏はその日、職場となる工場に到着した60人の見習い社員の1人だった。彼はコーチのトリミングを担当する前の12か月間、主にエンジニアリング部門内のさまざまな部署を回るローテーショントレーニングを受けた。ベントレーの傑出した、極めて人気のあるこの一連の見習い研修制度は、今日に至るまで、高い技能を持つ職人を育てるためのトレーニングを続けている。

 

 

 ベントレーがロールス・ロイス傘下にあった1991年までの22年間、ノエル・トンプソン氏は、幸運にも約40年にわたってコーチペインターとして働いた彼の父親と同じ工場で働くことができた。ノエルの祖母も、第二次世界大戦中に同じ工場の社員だった。1969年にノエルがベントレーに入社したとき、ベントレーの本社は別の場所にあった。彼は当時を振り返る。

 

「私が勤め始めたとき、工場はもう時代遅れとなっていました。当時は生産ラインの架台を手で押していました。床は打ち放しのコンクリートで、1940年代の防空壕がまだ残っており、倉庫に使用していました。年間生産台数は1,800台ほどで、モデルレンジも極めて限られていました」

 

 

1943年の工場内の様子。

 

 

 1998年にフォルクスワーゲン・グループがベントレーを買収してから、トンプソン氏は前向きな変化を目にした。

 

「現在、工場は昔とは全く変わり、自動搬送のラインを備え、明るく現代的になりました。より多くのモデル、より多くの販売業者、より良いカスタマーコミュニケーションのために、事実上、業務のすべての側面がより良い方向に変化しました。現在、世界中から人々が毎日工場に訪れています」

 

 

 工場を訪れるお客様と話すことは、トンプソン氏の仕事の中でも好きなことの1つだ。彼の卓越した技能とコミュニケーション能力を知るベントレーは、コーチトリミングの技術を紹介するため、世界中のモーターショーやイベントに、ブランドを代表する一人としてトンプソン氏に毎年世界を旅するよう求めている。英国のクラフツマンシップをプロモートするため、彼は世界中の英国大使館および領事館を訪ね、人々に彼の技能を披露している。

 

 トンプソン氏はこれまでの経歴で誇りに思った瞬間を数多く覚えているが、特筆すべき経験は、女王および他の王室のメンバーに謁見したバッキンガム宮殿での4日間だった。彼は次のように語っている。

 

「私は信じられないほど幸運でした。近頃は一生の仕事を得られる人は数少なくなりましたが、あらゆる職業の新人たちと会い、彼らと私たちの仕事を分かち合うことができます」

 

 

英国クルーに位置するベントレーの工場(2005年)

 

 

 ノエル・トンプソン氏はほぼ毎日、ベントレーの工場を訪れるビジターに会っている。有名人やVIPのお客様など、世界の各地からベントレーを所有する裕福なお客様が、世界的に有名なベントレーの生産施設を訪れる。通常、このような経験ができるのはベントレーの顧客のみに限られている。しかし見る場所こそ限られるが、一般の人々を対象とした工場見学ツアー(general interest tours)は自動車愛好家も利用可能だ。

※ツアーの詳細については、ベントレー・モーターズのウェブサイト(英語)をご覧ください。

 

 

 室内の装飾品に相当する自動車の「コーチトリミング」は、ベントレー・モーターズの歴史よりも、はるかに古い慣習に根差した言葉だ。ノエル・トンプソン氏は高い技能を持つ“コーチトリマー”であり、彼の率いるチームは間違いなく世界最高のチームだ。トンプソン氏は現在、ステアリングホイールに特化して作業を受け持っているが、自動車のインテリアのあらゆる側面を作れるように訓練されている。彼の工作には、柔らかい革に目打ちをし、その後すべてを手縫いで仕上げることが含まれている。

 

 

 トンプソン氏は、彼が作成するすべてのステアリングホイールのステッチが均等に配置されるように、良く知られる食器用フォークを使用して目打ちする。彼は言った。

 

「フォークを使うのは、いいアイデアです。他にステアリングホイールにレザーを巻き付ける良い方法がありますか?」

 

 トンプソン氏は、ベントレーの誰よりも多くのステアリングホイールを縫製したと胸を張る。

 

 クルー本社には毎年約50人の新たな見習い社員を迎えており、次世代の専門家を募集・育成・訓練するために努力している。ベントレーの見習い研修では、数十年もの経験を重ねた人々と共に働く機会がある。研修制度は、製造およびエンジニアリング、販売、マーケティング、人事、購買、財務といったすべての分野で利用されている。

 

 100年の伝統は、脈々と受け継がれているのだ。